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脆い物。

先程俺達は、ソレイユを発った。来た時と同じように、荷物を持って目的地まで歩く。ただそれだけのことなのだけれども……


「幾らなんでも! 道が!! ガタガタ過ぎないかなぁ!?」


「まぁ南の方に進むと少し岩場が増えますからね……草原と比べると歩きにくいかと」


そう、ここから先は草原とは違い岩がゴロゴロ転がっている荒野なのだ。正直キツすぎる。日も照ってきた為、少しだけ暑い。いくら温度を調節してくれるとはいえ、暑いものは暑いのだ。結局これはコートなのだから。


「こんなとこの先に本当にあるのか……?」


「なかったら困りますよ」


確かにその通りだ。その通りなんだけどさぁ……この先砂漠とかになってないよね……?


「そういや……こんだけ開けてりゃ魔物の一匹や二匹普通に見える筈なんだけどなぁ……」


「……確かに。こんなにいないとなると、地面の中から強襲されそうで怖いですね……」


おまけに足元が砂になってきた。変に踏ん張ると足を砂に取られて転びそうだ。


「こりゃあ……キツいかなぁ……」


「キツそうですねぇ……」


荒れ果てた道を、ただ真っ直ぐに歩き続ける。白焔がいなくなったことがここで響いている。どこかで早急に馬とかを買った方が良さそうだ。


そんな風に考えていると突然、足元の地面に皹が入った。


「っ、これは……!?」


「雛、そこから離れて! 何か来る!」


その場を飛び退いて離れると、地面を突き破り鮫のような生き物が飛び出し、地面の中にまた潜る。


「うおっ、なんだ今の……! 鮫……!?」


迎え撃とうと刀を抜いたが、どこから出てくるのか分からない。おまけに気配を感じられない為、どこから襲われるか分かった物じゃない。


「地面の中を泳ぐ鮫もいるんですっ、取り敢えず逃げましょう!」


「ちょっ、ちょっと待っグエッ……」


襟首を掴まれ、息が詰まる。その状態で雛は跳躍し、風を使って勢いよく飛びその場から離れる。


「……これだけ離れれば、奴等も来ないでしょう」


「雛……ぐるしいから……締まってる……」


「あっ、すみません……」


パッと襟首を離され、咳き込みながら空気を吸い込むと、空気が喉を通っていくのを感じる。


「げほっ……はぁ……死ぬかと思ったよ……」


「焦っちゃって……でもあんな魔物もいるんですね……」


「だね……魔物に関しては正直、知らないことの方が多すぎる」


そう言って立ち上がると、刀を鞘にしまってまた歩きだす。夜にならないうちに辿り着ければいいんだけども、夜になると国や村の灯りはほぼ消えてしまっているから探すのにも一苦労だ。


「日も大分暮れてきてるなぁ……」


「えぇ、そろそろ野宿の用意でもします?」


「そうしようか。薪とかって……」


今日の行動はここまで。これ以上動こうものなら、魔物に袋叩きにされてしまうだろう。


寝るときまでは焚き火をするけど、それ以降はどちらかが見張りに立つという取り決めをしてから、焚き火の準備を始めた。


──────────────────────


「この辺も、焚き火とかしないと真っ暗になっちまうんだな……」


「どこも一緒ですよ、夜が暗いのは」


「いやそうなんだけどさぁ……」


他愛もない話をしながら、火を眺める。火の爆ぜる音を聞いていると、少し心が落ち着いた。


しかし雛は早々に寝てしまった為、少し考え事をしようと思い、体を起こしその場に座り込んだ。


自分の経験だが、落ち着いている時ほど嫌な事と言うのは思い出される。嫌な光景が頭の中で、何度も浮かび上がっては、湖の底の気泡のように消えていく。


これはいけないと考え、頭を振って一度考えを消す。そこでふと思った。ロアが激しく憎む人間達にも、守れなかった物はあるのだから、それが今にまで続いてしまっているのではないかと。


人間の側にいる勇者や、国とその国に住む人を守る仕事の騎士のことを考える。それだけでなく、自分の子供が魔物に襲われた母もいるだろう。それ以前に、英雄達がどんな人物だったのか気になった。


……過去に守れなかった物もある英雄達は、どうやって乗り越えたのだろうと。


(……前の世界での、昔の神話とかで英雄って呼ばれた人物もそうだ。守れなかった物、切り捨てた物が何度も浮かび上がっていたんだろうな……こんな風に。だけど数は俺の物よりずっと多い……)


そう考えると、とても恐ろしくなった。どれだけの命を斬り捨て、どれだけ守れなかった命に涙を流したのか……検討もつかない。


「畜生……やっぱり、怖いな……! こんなのまともな精神じゃやってられないぞ……!」


繋がりを大切に思っている自分では、ひどく恐ろしい。事実、義手の指が震えて音を立てていた。


「クソっ……こんな事考えるんじゃなかった!」


頭を抱えて、その場で自分を責め続ける。英雄にはならない、なりたくもない。


そういう主人公の役回りは、自分がやるべきじゃない。勝手にしてくれよ、俺は大切な物を守りたいんだ……


「……でも、その為に何かを斬り捨て続けろなんて、出来る訳ない……出来る訳ないだろ……!」


……ここで、俺は二つのことを理解した。一つは自分が、勇者のような英雄とは異常者だと感じていること。もう一つは……


……自分の決意という目に見えない物は、すぐ簡単に砕けてしまうような、脆弱なものということ。


「……あぁ……うん……もう一旦考えるの止めよう。面倒臭いことになってる。取り敢えず、やる事は変わらない……未来のことなんて考えるな……」


今は、未来のことを考えないようにした。やるべきことを前に迷っては、いざという時に迷いで刀が振れなくなってしまう。


「……そろそろ火を消すか……」


火を消そうと焚き火に近付いた、その時だった。枝を踏んだ音が聞こえ、そこに咄嗟に炎を放った。


「ぐぎゃあぁぁぁ! 目が、目がぁ……!!」


そこから姿を現したのは、屈強な肉体を持つ男だった。それが目を押さえて倒れながら出てくると、ぞろぞろと棍棒を持った男達が現れる。


その中の一人が目を押さえている男に駆け寄る。装備の質が少し上がっているところを見ると、こいつがリーダーのようだ。


……この時、俺は目の前の男達に対して苛立ちをぶつけようと考えていた。


「おい、お前大丈夫か!? くそっ、ばれてやがったか……おいガキ、女と荷物置いてけばみのg……」


男の言葉は、そこで途切れた。俺が話している最中に木刀を振り抜いたからだ。何故かイライラした上に、嫌な感触があったから首の骨が砕けたのだろう。倒れた男は立ち上がる気配がなかった。


「ひいっ!? お頭が……てめぇ容赦なしかよ!? 鬼か、なぁ!?」


「……鬼だったらなんだよ。ついてこい、ここだと雛が起きちまうかもしれない」


盗賊の群れを連れて、その場を離れる。雛に血を被らせないように。また、こんな苛立ちをぶつけるような戦いを見せたくないから。


……こんな醜い自分を、見られてまともでいられるとは思えないから。

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