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道程。

朝日が登り、小鳥の囀りで目が覚める。腕を見ると、白焔の毛皮でできたコートに手がくるまれており、このおかげであの夢を見たのだと察した。


「……楽しくて、それでいて悲しい夢だったな」


その場で腕を袖に通しながら起き上がり、部屋を出る。まずはここにあるもので、役立ちそうなものを探しに倉庫に行った。


「そういえば、前来た時は倉庫はまともに見てなかったな」


長い廊下を歩きながら、一人呟く。これだけ大きい拠点なのだから、倉庫も相当な大きさになっていそうだ。探すのにも骨が折れそうだ。


「相当埃貯まってそうだな……」


倉庫の前まで辿り着いたが、扉が錆びついている。それほど長い時が経ったのだろう。開けようと扉を押せども引けども、びくともしなかった。


「錆びついちゃってるじゃないか……これは申し訳ないけど……」


仕方なく、錆びついた扉を蹴り破ろうとしたが、蹴り破ることは出来ず、足に衝撃がビリビリと残るだけだった。


「あぁ……!!いっでぇ……!」


足を押さえて踞り、暫くその場で停止していた。そしてこの扉が横に引いて空く扉だと気付くのに、あまり時間はかからなかった。


─────────────────


錆びついた扉を、やっとのことで開く。それだけで埃が舞い、一頻り咳き込むと埃を吸わないように口と鼻を塞ぐ。


「ごほっ……きったねぇ! なんだこれ、何年間放置したらこうなるんだ!」


口を塞いでいない方の手で埃を払いながら、空いた扉を見据える。倉庫の中は殆どの物が埃を被っており、皹が入ってしまっている物もある。物をひっくり返した時には、大きめの虫が現れたりして叫びそうになった。


……あまり長居すると体に悪そうだ。必要な物を探して、早いとこ出よう。


しかし、どこを見ても長旅に向いている物はあまり見つからなかった。使えそうな物と言えば、無造作に床に置かれていた木刀位だ。


「木刀……は持ってこうか。何か使えるかもしれない」


木刀を拾い上げ、積もった埃を落としながら扉を通り、またやっとのことで閉める。次来ることがあれば掃除しよう……


「しかし、木刀が手に入ったのはありがたいな。これぐらいの重さなら振りやすいし、殺さずに戦闘終了に持っていけるな」


この木刀の軽さなら、かなり早く振れる。攻撃が速いというのはそれだけでも大きなアドバンテージだ。斬れはしなくても相手の攻撃を潰しやすくなる。


「いやぁいいもの拾っ……やっば他になんも確認してなかった」


泣く泣く倉庫に戻り、何も使えそうなものがないことを確認してから来た道を歩きだした。


──────────────────────


日が登りきり、後は沈んでいくだけと言う時間帯になった頃、俺達はソレイユを出た。


「ここから、歩くんだよね」


「……えぇ。食料もかなり詰めた筈なので、暫くは持つでしょう」


前を向いてただひたすらに歩く。何も考えずにいられるのは、やはりこういう時だけだろう。


「次の国は、俺達でも住みやすいところだといいな……」


「難しいと思いますよ、私たちは何もしていないけれど、とても嫌われているものですから」


そう言った雛の顔は、笑ってはいるもののとても悲しそうな顔だった。


……自分たちは何もしていないのに、何故ここまで酷い扱いを受けなければならないのか。人間同士でさえ争うのだから、その人間の形をした強すぎる種族は排斥されるのが普通なのか……?


「……酷い話だ。遠い昔に、俺達の種族が攻め込んだとかならまだ理解できる。したくもないけれど。でも、あいつらはそうじゃない……ただ、理解できない物を遠ざけた上で蓋をしてるだけだ……」


右の拳に自然と力が入る。この世界でも偏見を持たずに接してくれる人間は少ないけれど、確かに存在した。しかしごく少数だ。全体では一割にも満たないのだろう。


「こんな世界だから、ロアも滅ぼそうと思ったんだろうな……」


「光牙さん……?」


少しだけ、ロアの気持ちが理解できたような気がする。あいつも昔、何かを奪われたりしたんだろう。


でも、こんな方法は間違ってる。これでは今度こそ、人間達が滅ぶか、俺達が滅ぶかの戦争に発展してしまう。人の繋がりだとか、それぞれにあるであろう大切な物が蹂躙されて砕け散る。


だからこそ、絶対に止めなくてはならない。この命を捨ててでも。元から俺は、この世界にとっては存在しなかった異物のようなものなのだから。


「……あのぉ……大丈夫ですか? ロアの側に付くとか言い出しませんよね?」


「あぁ、大丈夫だよ……絶対に、奴は止めないと」


雛には、自分の考えが伝わっていたのだろうかと時折思わせられる。口に出てしまっていたかと、心の中ではかなり焦っていた。


「……さて、頑張ろうか。出来れば馬車とか拾いたいけど……」


「そう都合よく来る訳ではなさそうですからねー、ゆっくり歩いていきましょう」


こうして雛と話しながらも、自分の目的について考えていた。ロアを倒す。それ以外にはこの瞼に焼きついたあの日の炎を消す方法はないのだから。


俺の足はまた一歩、また一歩と、まだ見ぬ場所に向けて歩み続ける。この身がどうなっていくのかは誰にも分からないし、自分でも分からない。


それが希望への道へ繋がるのか、破滅への道に繋がるのかも、自分では全く分からない。


でも……自分がこうした方がいいと思ったから、この道を進んでいくんだ。その結果がバッドエンドでも構わない。


後悔だけはしないように、生きるだけだ。

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