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人としての脆さ。

「つっかれたぁ……接客とか苦手なんだよ……」


あの後、折れた刀と毛皮を渡し、接客の作業をしていたが……どこに何があるのか分からず、逆にお客様から教えてもらう始末だった。笑って許してくれたが、正直申し訳なさで一杯だった。


しかし、重くのしかかっていた物はいつの間にか消えていた。これを見越してのことだったら、とてもありがたかった。


そして、明日にはできるとのことだったので、取り敢えず今日は帰ることにした。


「……しかし対人経験、かぁ……録なのがないな」


戦闘ならばその限りではないが、この場合はコミュニケーションだ。今でこそあの家から離れて、マシな物になったが……


「……まだまだだよなぁ……」


正直、見ず知らずの相手ならまともに話せないだろう……敵意がなければ、に限定されるが。


「しかし……もういい時間だし、どうしようかなぁ……」


「あ、光牙さん。どこに行ってたんです?」


今からどうするか考えて歩いていると、雛と鉢合わせた。


「あー……武器屋に。接客とかやってた」


「接客……? 光牙さんに出来たんです?」


失礼な。……確かに、その通りなんだけど。


「まぁね……なんとか。なんとかなったよ」


「そうなんですか。ならよかったです」


家までの道のりを、二人で並んで歩く。……以前は、こんなことすら体験したことがなかった。父親とは出掛けたことがないし。


……そう考えると、自分のコミュニケーション能力の低さの原因が少しだけ分かった気がする。


「……これも課題だな」


「どうしました?」


「いや、やることが多いなって……そういや、次の目的地はどこなの?」


確か、次の目的地からは人間の国に皆紛れ込む形になっていた気がする。そのために幻影とか、そういう隠れる為の魔法を嫌になるほど練習させられた。


角しか隠せなかったけれど、恐らく大丈夫だろう。


「えーとですねー……このまま南に3日ほど歩いた所に歩きで向かいますね。最も……私達にとっていい場所かは分かりませんけど」


雛の顔が暗くなる。ここから先は国の名前も知らない、おまけにどんな現状なのかも知らないような国ばかりだ。


ここからが本番なのだろう。ここからが……あまりにも遅いスタートだ。


「で、でもさぁ! その国が龍人とかと共存してくれている可能性もある……よね……?」


声の勢いが弱くなっていくのが、嫌でも分かった。自分で言ったにしては、笑えない冗談だ。この場に及んで、まだ何かにすがろうとしているのか?


「……そうですね……あれば、いいですね」


雛の声も、沈んでいる。ないこと位分かっていただろう、馬鹿か俺は……!


「そうだね……」


さっきまで普通に歩けていたのに、今は非常に重い。もう進みたくないと、理解してしまっているようだ。


これでは、ロアを倒す以前の問題だろう。こんなザマでは、到底奴にはたどり着けやしない。


丁度空が、自分の心を表すかのように夕陽を覆い隠した。その後は互いに道を歩きながらも、一言も話すことはなかった。


──────────────────────


その日の夜。唐突に眠気が覚めた俺は、取り敢えず雛に気付かれないよう、静かに屋根の上に登って月を眺めていた。前の世界で見た月とは違い、淡い光で地上を照らしているのを眺めていると、少しだけ不安が和らぐ気がした。……でも……


「……白焔」


あの時は覚悟が出来ていたのに、今になって悲しくなってくる。殺してから、じわじわと蝕むように悲しみが襲ってくるなんて少し……ずるくないかい?


「……クソッ」


月を見るために上げていた顔が、気付かないうちに下がっていく。


辛い。今にも胸が裂けてしまいそうだ。昔の自分なら、そんなこともなかったかもしれないが……


「クソッ、本当に脆くなってしまったなぁ……!!」


今は夜だから、叫ぶことはできないし、屋根を殴って音を立てる訳にもいかない。


だから、嗚咽を少しも漏らさないように、口をギュッと一文字にして耐えた。


でも、それだけ感情が止められるのなら……何も苦労しない。気付けば、大きな声で泣きながら叫んでいた。


そのまま次の朝を迎え、強い朝日が目の中に飛び込んできたことで目を覚ました。寝た感じがしないことから、気を失っていたのだろう。俺の目元は濡れている。


そして、目を開く直前には自分の手で止めを刺した白焔が力を失い、倒れた光景が見えた。


その光景を見てから、自分には覚悟ができていなかったと漸く気づいた。片手で涙を流す顔を覆いながら、その場に横になる。


「……これからこんなことが、ずっと続くのか……キツイなぁ……」


口に出した考えを振り払うこともできない。……繋がりは欲しかった。しかし失えばこんなに脆くなる……どうすれば……


そんなことを考えていても、陽はいつものように昇り、俺たちを照らしていた。

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