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「体が、重い……」
「あんな無茶な芸当すれば、当然ですよ。治癒にも体力頼りなところありますから。治癒促進の効果があるとはいえ、この怪我じゃ……」
白焔の亡骸との戦闘から、5日ほど経った。正直、すぐにでもここを発つつもりでいたが、体がもたなかった。数歩進んではふらつく、なんて有り様では、この先に進むことなどできる筈がなかった。すぐに借りていた家に放り込まれ、怪我した部分に包帯をぐるぐるに巻かれてしまった。
……巻き過ぎて息ができなくなりかけたのは笑い事では済ませないが。
なので、もう少しここで休むことにした。体が重くて大変だが、何もできないなんてことはない。薪割り位ならまだワンチャンできる。
「……あのー……薪割りはまだいいですし、斧持つ手が非常にプルプルしていますけど、大丈夫ですか……?」
で、出来るから……! 大丈夫だから……!
「……休んでてください、ね?」
「……はい……」
戦力外通告、頂きました。笑えねぇよ。
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「で、ここに来たと……もっと別のとこあっただろうが」
「いや、武器とかもないからさ……取り敢えず来たわけで」
何もすることがなく、以前世話になった武器屋に気が付いた時にはいた。ボーッとしながら歩いて、ここに辿り着いていたらしい。
「……待って、お前武器あれだけか!?」
「あるにはあるが、折れてしまってて」
「あー……拾い物か……使えるようにはしてやる、その代わりなんか売ってくか手伝え」
……なんか面倒なことになってきた気がする。ここはそろりと抜け出そうか。
「……ちょ、ちょーっと用がありまして……」
「あ? 用があんならこんなとこ来ねぇだろ」
ド正論。気付けばここにいたし。
「あー……その通りなんだけども……休めと言われてまして……」
「そんな重労働頼むかよ、ボロボロのお前に」
まぁ、それもそうか……こんな見た目で怪我人と分かるようなやつを動かすとなると……接客か?
「……分かったよ、降参。なにすればいい」
「まぁ……そうだなぁ……接客は勿論のこと、白焔だっけか。あれの毛皮をくれ」
……なんだと?
「それは難しい。何をする気だ……」
つい、視線が鋭くなる。返答次第では、この場で殴り飛ばすかもしれなかった。
「落ち着けって……あんたの防具。狼の皮を使ったコートみたいな物だが、大分ボロボロだろう? 作ってやるってこった。折れた刀もそのついででやるから、一日頼むって話だよ。駄賃も出すから」
……確かに、願ってもないことだが……何か裏があるように感じる。
「……何故そこまでしてくれるんだ?」
「実はな……俺にもあんた位の息子がいるんだよ。旅に出ていって、戻ってきやしねぇんだけども」
「……なるほど」
要するに、この人は俺と息子さんを重ねて見ているようだ。だから、出来る限り手伝おうとしている……と言ったところか。
「……このお人好しめ」
「はっ、よく言われんよ。じゃ、今から頼むわ」
笑いながらそう言うと、店の奥に向かっていく。使う道具を準備しに行ったのだろう。
「……さて、俺も取ってこないと。武器の修繕、頼むのはこっちだし」
こちらも行動を始めなければ。道具があっても素材がなければ作れないだろうし。
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「確か折れた刀はっと……あった。これの鞘もどっかで用意しないとな……」
折れた刀は、比較的簡単に発見できた。まぁ、こっちに放置しとけば、そりゃあね……以前使っていた部屋に無造作に置かれていた。
「後は、白焔の毛皮……なんだけど、正直……」
仲間の亡骸を防具に使うのは、かなり非常識に当たるのではないだろうか。そんな思いが頭の中で生まれ、武器屋に進む足を鈍くさせ、遂には足を止めてしまった。
「……迷うなっての……!」
未だに迷いばかりだ。咄嗟に刃を振るえず、死ぬこともあり得るのだから、迷いは捨てなくては。
……迷いのせいで、手遅れになる前に。
「……白焔。お前が残したものを最後の一欠片まで使わせてもらうぞ」
そう小さく呟いて息を大きく吸ってから、武器屋へまた歩きだした。