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狼の牙。

飛びかかり、鉤爪を深く突き刺し地面を転がる。頭を押さえつけながら鉤爪を引き抜き、別の箇所に突き刺そうとするが、狼の足が腹部に当たり、大きく吹き飛ばされる。


「いってぇなぁ……黙って殺られろよ……」


「グァァァ!!」


近くの誰も住んでいない廃屋の壁に背を預け、ゆらりと立ち上がる。立ち上がった途端、狼がこちらに駆け出し、壁を突き破りながら廃屋の中へと場所を移す。


互いに地面を転がり、立ち上がると互いに相手に向かい走り出す。


「くっそ、てめぇいい加減にしろっ!!」


「グオォォォン!!」


地面を駆け出して、拳を下から振り抜いて顎を穿つ。振り抜いた拳に少し違和感を感じるが、そんなこと後でいいと言わんばかりに浮かんだ体に蹴りを入れ、壁に激突させる。


「くっ、やっぱかてぇ……!!」


「グルルルゥ……」


しかし、全く堪えておらず、体勢を整えるとこちらを睨み付ける。そうしているうちに狼の体躯から黒いオーラが立ち上ぼっていく。


「……何をしようとしているんだ……?」


何かが起こるという予感に従い、拳を構えながらじっと見据え、距離をジリジリと詰めていき、何も起こらないと感じた瞬間、拳を構えるのを一端やめ、走り出す。


十分に近付いて拳を振り、その拳が当たる寸前のことだった。


「アオォォォォン!!」


溜め込まれた黒いオーラが咆哮とともに衝撃波として放たれた。衝撃波を受けた俺の体は容易く吹き飛ばされ、壁に勢いよく激突し、床に落下した。同時に咆哮を聞いてから、耳が聞こえにくくなった。


「ぐううっ……! なんだ、これ……聞こえない……」


「グ──ァァ──」


耳はキーンという音が聞こえていて、目の前の敵の声が僅かに聞こえればよい方だ。


「……クソッタレ、治らなかったら怨むからな……!!」


「グル────ガァ──ァ!!」


耳を気にするのをやめ、脚に魔力を流し、一瞬で肉薄し、顔を蹴り上げ体を浮かばせ、後に頭を掴み叩きつける。


叩きつけた時、狼の口から血が大量に飛び出し、俺の視界を潰した。視界が潰れた瞬間に、体に重いものがのしかかり、右腕から鋭い痛みが走る。


「がぁっ……!! 噛まれたなこれ……!!」


瞬きをしながら、左の義手で顔の血を拭う。噛みついている狼の顔に拳を叩きつけるも、その口を開くつもりはないらしい。殴った箇所から血が滲み出しても、噛みついて離さない。


「グルルゥ……!」


「あぁそうかよ……なら覚悟しときなぁ!!」


狼の腹部に狙いをつけ、何度も蹴りあげる。そのうち堪らず離すだろうから、その隙をついて逃げる……しかないな。


「ぐううぅ……さっさと、離せ……!!」


「ガァウ!!」


腹部を蹴り上げるだけでは到底離しそうにはなかったので、義手で顔を殴りつける作戦に変えた。相変わらず、殴った箇所から血が流れるが、それでも離す気配はない。それどころか、さらに深く噛みついてきた。


「ぐううっ……」


「グゥアァァァ………」


互いに痛みや、噛みついている影響で大きな声も出せないが、何度も腹部を蹴り上げ、大きく吹き飛ばす。


「いってぇ……流星よ、我が身に宿れ……!《スターダスト》!!」


光を纏って、自身の速度を上げる。吹き飛んだ狼の体を追いかけ、拳を叩き込む。さらに吹き飛んでいく狼の体に飛び蹴りを入れ、壁に衝突させる。


「グルルルル……」


「ぜぇ……ぜぇ……もう終わりにしたいんだけどな……」


壁に叩きつけたが、狼は何事もなかったかのように立ち上がる。立ってるだけで床に血が少しずつ垂れていくが、殺意が収まることはなく、こちらのことを唸り声を上げて睨んでいる。


肩で息をしていたが、一端息を整えもう一度拳を構え、駆け出す。


それに応じるかのように、足を震わせながら目の前の狼も駆け出し、互いに命を奪おうと自分の使える武器を構え襲いかかった。


しかし、俺の拳は避けられてしまい、狼の牙が俺の腹部に向かっていく。痛みに負けないよう、歯を食い縛った瞬間だった。


「グァッ……!?」


「えっ……?」


扉を突き破る音と同時に何かが飛来し、狼を吹き飛ばす。飛来してきた方向を向くと、こちらに向け弓を構えている雛の姿があった。感覚で正確に狼だけ撃ち抜いたらしい。


しかし、なにやら少し怒っているようにも見える。何かしたかなぁと考えているうちに、雛がこちらに近付いてきた。


「また、一人で戦ってましたね……」


「……俺のせいじゃないよ、あいつが悪いんだ。皆寝てるから、一人でなんとかしたかったんだ……」


「もう皆起きちゃいましたよ、咆哮が聞こえた時に。この時間帯じゃ向こうの方が有利だからって、皆武器構えて籠ってますけど」


雛の話していた事柄から、自分の狙いは無意味だったのかと思っていると、こちらに刀を投げ渡して来た。掴んだ瞬間、これは打ち直された紅蓮だと、本能的に感じ取れた。


「怒りはしませんよ。ここからは二人でやりましょう」


「……あぁ、ありがとう」


刀を鞘から引き抜いて構え、襲ってくる狼に備える。正直に言ってしまうと、今なら誰にも負けない気がした。

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