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里長。

駆け出してから一瞬で肉薄し、がら空きになっていた腹部に拳を叩き込む。全力で叩き込んだが、里長の体は浮き上がりもせず、硬い鉄を殴ったような印象だった。


「……これがお前の全力か? なら帰った方が良さそうだ」


「っ、勝手に決めつけんn─」


その声が聞こえた途端、頭を掴まれたと思ったら勢い良く叩きつけられていた。すぐに離されたが、視界がぼやけて上手く立ち上がれない。それがなくても、呆然として暫く動けなかっただろう。


「しかし、チャンスを与えないのも酷な話だしなぁ……そうだ、今から俺は何もしない。反撃は勿論、防御も回避もな。だから、お前が飽きるまで殴ってみろ。膝をつかせたらお前の勝ちだ」


そう言うと、腕を広げてこちら側に向いた。その行為に頭に血が上りそうになったが、何とか堪え、頭を押さえながらフラフラとしながら立ち上がった。


「嘗めやがって……!!」


訂正、滅茶苦茶血が上ってた。


走りだしながら腕を龍に変化させ、何度も拳を振るい、重点的に腹部と顔を全力で殴り抜く。相変わらず全力で殴っているのに、全く響いた様子がない。


「おいおい、本当に全力か? これじゃ落第だなお前。まず腕だけじゃダメだろ」


「うるせぇぇぇ!!」


冷静さが欠片もなくなった俺は、咄嗟に飛び上がり回し蹴りを顔に当てた。回し蹴りの勢いを利用して、尻尾による追撃も同じ箇所に当てたが、少しふらついた程度だった。


「なんだよ、やりゃできるじゃねぇか……言われてからやったのは残念だけどな」


「黙ってろよ本当……!!」


顎を蹴り上げる。腹部を殴る。顔を殴る。尻尾で追撃、もう一度殴る……何回やっても、全く効いている気がしなかった。


これだけやれば、普通は大体死に体なっている筈なのに。


「ん? もう終わりか? 案外早かったな……」


「ハァ……ハァ……」


地面に大粒の汗を垂らしながら、最後に放った拳を振り抜いた体勢で停止する。次の一撃は放つだけ無駄だろう。この拳だって、もう当たっただけのようなものだ。


「……俺の勝ちだな。さーて、じゃあ殴られた分返すか。何発だっけ……? 面倒臭いし、5発でいっか」


そして、唐突に俺の頬に衝撃が走った。吹き飛んで地面を転がり、何とか立ち上がると、先程いた場所からかなり距離が離されていた。


「一発でこれかよ……口切れてるし」


口を拭いながら立ち上がった途端、腹部に重い衝撃が走り、息が出来なくなった。腹部を見ると、里長の膝が腹部に突き立てられていて、暫くして鈍い痛みが襲い始めた。


そのままよろよろと腹を押さえなが後ろに下がり、耐えきれずに膝をついてしまった。


「あっ、口は開かない方がいいぞ? 多分戻しちまう」


「うるせぇ……っ、おぶっ……」


口を開き向かっていこうとした途端、胃の辺りから何かがこみ上がり始め、堪えきれずに全部地面にぶちまけた。


「……だから言ったのによぉ……」


すぐに顔を上げ、膝をついて立ち上がったが、まず一番に目に入ったのは里長が拳を構えていることだった。その拳が自分に向かっていることも理解できた。


「くそっ……!!」


重い上に早い拳をこれ以上受けたら、まず気を失う。何とかその拳の軌道上に両腕を入れることが出来たが、そのまま防御ごと殴り飛ばされた。


数回地面を跳ね、近くにあった廃屋の壁を突き破り漸く停止する。右腕が衝撃で痺れ、思うように動かせない上、足が残骸に挟まって動けない。


「ぐううっ……!! 防御して、これかよ……」


「やっぱその義手硬ぇなぁ……」


里長は殴った方の手をぷらぷらとさせながらこちらにゆっくりと歩いてくる。幾らなんでもやりすぎなんじゃないだろうか、この人。


「ちっくしょ……!?」


もう一度、策なんてないに等しいけど突撃しようとした瞬間だった。脚の力が抜け、少し進んで前のめりに倒れそうになり、耐えようとしたが地面に転がる結果となった。


「くそっ……力が入らねぇ……馬鹿力しやがって」


「……すまねぇな。やり過ぎたらしい」


「うん、ごめんもうちょっと前に気付いて?」


「悪かったなぁ……だけどまぁ」


頭を掴まれ、体が簡単に持ち上がる。


「五発やるって言っちまったんだ。言った以上、最後までやらねぇとな」


風を切る音が聞こえ、顔面へ強い衝撃が伝わったのを最後に、俺の意識は失われてしまった。


──────────────────────


その後、時間経過で目が覚めたが、未だに顔がヒリヒリする。これでは跡どころか、青くなっている箇所があるだろう。


(……いってぇなぁ……全力で殴ること、ないのに……)


痛む箇所を押さえようと、腕を動かそうとしたが、全く動かない。腕を見ると、縛りつけられているのが見えた。


(逃げ出すわけないじゃん……こんなボロボロでさぁ……しかも目的の一つが修行とこの情勢を見ていくことだったんだから……今優先すべき目的は、白焔を眠らせてやることだ)


そうは言ったものの、あまりにきつく縛られており、身動ぎすら出来ない。これじゃ何も出来やしない。


……暫く、体を休めようか……


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