#2 私の前世
まずは私の前世についてお話しておきましょう。
私の前世は先ほども言いました通り、プロのイケメンパティシエによって、一個ずつ丁寧に作られたシュークリーム。
ちなみに、どこかの工場で大量生産されたシュークリームではありませんのよ?
このお店に出されているシュークリームはサクサクのシュー生地に濃厚なカスタードクリームがふんだんに入った一番人気の商品。
それは私がシュークリームだった前世も人間になった現世も変わらないらしいです。
「今日の商品も美味しそうにできたぞ。たくさん売れますように!」
彼は毎日のように仰っていらしたような記憶がございますの。
本日もお店のショーウインドーの真ん中に私を含めたたくさんの仲間達が店頭に並びます。
たくさんのお客様に買っていただき、笑顔で美味しく召し上がっていただくことが私達の重要なお仕事でしたの。
この中で私が一番美しいですわ……だなんて、いつものことじゃない。
人気ナンバーワン商品の私のライバルは隣の二番人気であるチーズケーキを挟んで、三番人気であるフルーツタルト。
私とフルーツタルトが睨み合う中、その間に挟まれたチーズケーキは毎度のようにビクビク怯えていらっしゃったの。
本来ならばみなさまと仲よくちょこんと並ぶことが一番いいのですがね……。
それは洋菓子界において、難しい現実ですのよ。
*
ある日、私はシュークリームとしての生涯に幕を降ろすことになります。
いつもは平和なこのお店でも不幸が訪れたのです。
「イチゴのショートケーキとシュークリームがそれぞれ四個ずつですね!」
店員さんがショーウインドーから大きな箱にショートケーキを四個入れ、仕切りを挟んで私達シュークリームを一個ずつ箱に入れていきます。
ついに私もこの箱の中に入る時がきましたわ! と思っていたやさき――――。
店員さんが手を滑らせて私をベシャっと床に落としましたのよ!
「……あっ……」
あっ……!? 私を床に落としておいて、拾ってくださらないの!?
これにはイケメンパティシエは呆れた顔をしていますわ……。
「ちょっと、君ー。シュークリームを床に落としたの今回で何回目? 小麦粉とかの原材料が高いのは分かってるよな?」
「すみません。少し考えごとをしてしまいまして……」
「仕事中に余計なことを考えるな! 次は「すみません」で済まされる問題じゃないからな!」
「……はい……」
「落としたやつは捨てて、新しいものを提供しろ」
「……分かりました……」
お客様がいる前で店員さんに厳しく注意しているイケメンパティシエ。
その時、お客様はそれを見てざわざわしており、私の仲間達もその店員さんの顔を睨んでおりました。
みんな、ありがとう。
私はみなさまと一緒にいられて幸せでしたわ……。
せっかくならば、私を召し上がっていただいて幸せにさせたかったのに!
そのように思いながら、私は決して断じて入りたくないゴミ箱に捨てられました。
一方のフルーツタルトは無惨な姿の私を見て笑っていらしたのよ!
もの凄くイラッときましたわ!
いつかはフルーツタルトに復讐してやりたいと望むようになったのもこの頃でしたわね。ええ。
私の前世のお話はここまでですわ。
これからお話することは現世のお話ですので、何か訊きたいことがありましたら、今のうちに訊いておいた方がよろしくて?
2018/04/01 本投稿