#1 思い出したくなかったこと
カランカランと音を立てて開く扉の鈴の音。
「いらっしゃいませ」といつも笑顔で出迎えてくれるイケメンパティシエと店員さん。
ショーウィンドーに綺麗に並べられたたくさんの種類の商品たち。
変わっているのは従業員くらいで、店内のレイアウトはほぼ変わらない。
「懐かしいですわ……」
私は思わず呟いてしまいました。
店内にはお客様がたくさんいらっしゃるので、おそらく誰にも私が話したことは聞いていないはずですし、まったく怪しまれないと思います。
「お客様、ご注文はお決まりですか?」
「………………」
それもそのはずです。
今の私は人間ですから、久しぶりにこの店に足を運んだくらいの感覚でしょう。
「お、お客様……?」
「え、もう私の番ですの?」
「そうですが……」
私の番は早くきてしまいました。
実は本日買うものはすでに決まっていましたので、ショーウィンドーを見て悩む必要はありません。
「シュークリームを二個いただけますか?」
「はい。シュークリームが二個ですね。少々お待ちくださいませ!」
私は再度ショーウィンドーの中を見ると、シュークリーム、チーズケーキ、フルーツタルトは相変わらず人気商品。
そこから店員さんが丁寧にシュークリームを取り出そうとした瞬間、私はあの日からずっと思い出したくない前世のことを思い出してしまいましたの。
前世はこのお店で生まれ、人気ナンバーワン商品であるシュークリームだったということを――。
2018/03/24 本投稿
2018/03/31 誤字修正