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狂える賢者達

 尚もゼーゼマン様の宣言は続きます。


「また我が一族は、爵位をランダース王家へと返上致します!」


 余りにも突然なので、愚王はポカンとしたまま何も返せないでいます。

 全てを宣言し終えたゼーゼマン様の口元、愚王には見えない角度でイヤらしくを釣り上がる様子が伺えます。

 ああ、そういう訳ですか。彼が何を考えての宣言だったかを理解致しました。

 このままランダース王国へぶら下がっていても魔封石を失い私を敵に廻したこの国に未来は無い。

 なら、今回の戦争と私への恩に託つけて、とっとと逃げようという算段ですね。

 流石は腹に一物持つ軍団長様、お見事ですよ。


「ばっ、馬鹿を申すな! そんな戯言など認められる訳が無かろう!」

「何故で御座いますか? クルー家は王家に組みすると認められました。にも関わらず、何処の君主とも呼べず、自身の持つ集団の一人でしかないセーラ嬢に組みするを認めないとは、余りにも不公平では御座いませんか?」

「そうであってもだ! それに何故、爵位まで返上する必要がある!」

「当然で御座います。セーラ嬢に組みするとは、王家に弓引くと同じ事。そうなると、もうランダース王家の家臣とは呼べません」

「であっても駄目だ駄目だ駄目だ!」


 目が覚めた愚王は、ヒステリックにゼーゼマン様の申し出を拒否しますが、この場で一番の策士であらせられる御方が強烈な提案を致しました。


「なら、いっそ反逆したらどうだ? そうすりゃ、独立ないし領地や領民ごと亡命出来るだろ。反逆だから馬鹿国王の許しなんていらないしな」

「きっ、貴様!何を言う!」


 膝付き俯いていたゼーゼマン様は、提案者であるインジャン様へとお顔を向けられます。


「それに、隣国に亡命するなら侯爵とはいかないまでも、家名と領地はそのままで伯爵ぐらいには取り立てて貰えるよう我々が口添えしてやるぞ」

「そんな事は断じて許さん! 許さんぞ!」


 愚王による必死の抵抗を無視したまま、表情を殺してインジャン様と見詰め合うゼーゼマン様。

 すると、再び愚王へと向き直り一礼した後、今度は踵を返して無言のまま夜会会場から立ち去られました。

 この行動の意図するところに気付いた愚王が叫びます。


「ゼッ、ゼーゼマンを捕らえろ! 奴を帰してはならぬ!」


 愚王ならずとも、もう皆様気付いておりますが、彼は間違いなく反逆、亡命するでしょう。それしか生き残る手立ては無いのですから。

 会場警備の近衛騎士達は、愚王の命令通り直ぐ様追い掛けようとしますが、そうは問屋が卸しません。

 何時の間にやら、会場全ての出入口にお爺さん賢者達が移動しております。

 向かってくる騎士達を螺旋暴風(スパイラルストーム)火炎弾(ファイヤーマグナム)で次々と蹴散らしていきます。しかも、賢者様故に攻撃魔法を繰り出すのも無詠唱です。

 中には、素手で騎士達をケ〇ナグールしている武闘家賢者様もいらっしゃいますが。

 愚王子もホント馬鹿ですね。いくら頭の回る腹黒といっても、相手がお爺さん賢者達だと年期が違いますよ。

 ある意味、私以上に狂戦士(バーサーカー)な彼等を敵に回した時点で勝敗は決していたのですよ。

 それにしても、本当にさっきまで牢屋に入れられていたご老人なんでしょうか?呆れる程お元気ですね。


「おい馬鹿国王、今のお主の相手は儂等だ。ランダース王国は誰に戦争を吹っ掛けたのかじっくりと教えてやる」


 インジャン様の脅し文句で、愚王やランダース貴族達が引きつってしまいました。

 お爺さん賢者の見た目は普通の老人ですが、彼等が本気で相手を叩き潰すとなった時の恐ろしさを実感したようですね。

 だからこそ王家の相談役も担ってらっしゃるし、国と国との戦争になった時も、軍師として多大な活躍をするのですから。

 しかしここで、先程の脅し文句を上手く利用した逃げ道もプレゼントなさいます。


「とは言え、厳密に儂等の敵はランダース王家とクルー家に連なる者達だけだ。最後までランダース王家に忠誠を誓い、共に戦うというなら別だが、さっきのゼーゼマンみたいに反逆、亡命するというなら、ヤッパリ近隣諸国に口添えしてやらんでも無いがな」


 悪魔の提案を耳にしたランダース貴族達に光が射し込みます。

 普通に考えれば家臣たるもの、仕える者と運命を共にしてこその忠義忠誠ですが、滅び行く王家と共に自殺しようなんて奇特な貴族など現実には居る筈も御座いません。

 それどころか、反逆、亡命してしまえば、貴族としての地位を保証して貰える、自領もそのまま治められるとなると皆様の答えは分かりきっておりますが、ここで私が1つ付け加えましょう。


「でも、宰相様、宮廷魔術師様、近衛騎士団長様のお家は無理ですよ。次期当主となる方々の教育を疎かにした対価を払って頂かないと」

「対価とは何じゃらホイ?」


 あら、インジャン様、上手く話を繋げて下さいましたわね。

 一旦はランダース王国から逃げられると思っていた愚側近の親御様達ですが、対価を払えという言葉で再び絶望に染まっていますもの。

 なら今度は、私が悪魔の提案を致しましょう。


「そうですわね……では、ご子息達の愚行とお家とは何の関係も無いと証明して下さいませんか」

「ほう、そりゃ具体的にどうしろと?」

「親御様にとっては断腸の思いかも知れませんが、ご子息達を廃嫡、絶縁して下さいませんか? これなら、お家に累が及びませんよね?」

「成程の~。確かにそれなら問題無いの~。セーラも実家から廃嫡、絶縁されたんだし丁度良いかもな」


 自分達にとって有り得ない対価を示された愚側近達は凍り付いてしまいました。

 逆に、宰相様、宮廷魔術師様、近衛騎士団長様のお顔には微かな笑みが見てとれます。

 そうなると、彼等の判断は言わずもがな。


「ハック!今回殿下の行動を諌めるべきにも関わらず、お前はそれを怠った! そんな無能は当主を継ぐ者として相応しく無い! よって今この場をもって廃嫡、絶縁とする!」

「ジャフよ!魔術師の頂点である賢者様に逆らうなど言語道断! お前を我が家から廃嫡、絶縁する!」

「誰ぞ直ぐにベンジャミンを探しだして伝えろ! か弱いご令嬢に手を出したお前は到底騎士などとは呼べない! そんな傍若無人な愚か者は廃嫡、絶縁すると!」


 いくらなんでも、王家の頭脳である宰相様と、王家を命懸けで守る近衛騎士団長様は多少悩むかもと思いましたが即答でしたね。

 お約束の発言をなさった親御様方は、不安な表情を再び私へと向けられます。

 まぁ、良いでしょう。


「皆様のご決断、確かに受け取らせて頂きました。これで貴殿方がインジャン様の仰った通りの行動をなされば、私達の敵では無いと認識させて頂きます」


 許すという返答に、漸く緊張から解放された親御様方は肩を落として大きく息を吐きました。

 ですが、次には表情を引き締め、やはりゼーゼマン様と同じく無言で夜会会場を後にします。

 そんな彼等を見送った後、他のランダース貴様達も平然を装い、無言でゾロゾロと退出されていきます。

 中には、どさくさに紛れて逃げようとするクルー家関係者も居ますが、出入口に陣取るお爺さん賢者達がキッチリと見定めて吹き飛ばしております。


 次々と人が居なくなる中、愚王が何かを叫んでいるみたいですが、お爺さん賢者達と戦闘しても無事だった近衛騎士ですら耳を傾けておりません。

 それどころか倒れている仲間を担いで看護するフリを装い、敵意は無いと諸手を上げてフェードアウトしていき、ゆっくりと姿が見えなくなっていきます。

 ですよね、何と言っても両騎士団長様が、やんわりと反逆を示したのですから。


 後に残ったのは、ランダース王家とクルー家に連なる者達、それと他国よりの賓客の方々。あっ、先程実家から見捨てられた愚側近達もいますね。

 夜会開始前よりも幾分スッキリした会場内で、私は賓客の方々へと話を戻します。


「そうそう、伝え忘れておりましたが、砕かれて赤く変色した魔封石の欠片を私の元へ届けて下さると、僅かばかりですが料金をお支払しますよ」

「だな。使い物にならなくなった欠片を、また魔封石へと復元出来るのはセーラの呪法だけだからの」


 そうです。クララ嬢に施したように、呪法は魔力の鎮静化も可能です。

 欠片の暴走を元に戻して再び加工すれば、あら不思議、また新たな魔封石の出来上がり。


「それでも砕かれた欠片から復元した旧魔封石は、私を死に至らしめると大爆発してしまいます。しかしこれから作る新魔封石には同様の措置は施されておりません。その内、リサイクルされた旧魔封石は使い終えると同時に世界中から消えていき、後には安全な新魔封石だけが残るでしょう」


 私達はいざと言う時の為に、先の先まで見据えていたのです。

 自身を色々と高く売り込む為にね。


 魔封石を世に広める為とは言え、クルー家の分家たるロビン家は信用ならなかった。だからこそ全てを伝えなかった。

 そうなると、ランダース王太子妃のまま私の秘密を守り続けるなどまず不可能でしょう。ロビン家、若しくは愚王子が何かを仕掛けて来る事は目に見えてます。

 案の定、ロビン家も愚王子も私を裏切りました。けれど、私個人に忠誠を誓ってくれている使用人達は全てを知らされ、最終的な勝利を確信していたからこそ決して私を裏切らなかった。

 家族からも忌み嫌われている私を最後まで信じて付いて来てくれた方々には、一国を等価にした亡国の魔女の呪法を用いて一生の幸福をプレゼント致しましょう。


 フフフ、御免なさいね、ご先祖様。私、貴女ほど我慢強く御座いませんの。

 それに、婚姻するなら好いた相手じゃないとね。


「では、改めてこの場に集う賓客の方々お願い申し上げます。スバセへ爵位を賜る口添えをして下さる方、また私達の味方となり、亡命の受け入れをして下さる何方かはいらっしゃいませんか?」


 私とスバセ他、使用人達が一礼した後、予想通りの声が一斉に巻き起こります。


「是非とも私に貴女様方の力にならせて下さい!」

「私が間違いなくスバセ殿に爵位にお約束致します!」

「スバセ殿だけではなく、セーラ譲にも爵位を差し上げましょう!」

「我が国は、全面的に貴女方を支持致します!」

「亡命の全てをお膳立てさせて下さい!」

「安心して我が国へおこし下さい!」


 会場中から望み通りの返答を受け、淑女らしく優雅にほくそ笑みながらチラリと彼等へ目を向けます。

 そこには、床へと突っ伏し、真っ白な灰となってしまっている愚王子の姿が写りました。

 愚王夫妻は、魂の脱け殻みたいに脱力して椅子に力無く体を預けております。

 クルー家に連なる面々も本家とスカール家に対して恨みの表情を向けてますね。

 それでもビッチ姫だけは怒り顔で、元愚弟とジャフ様にどうにかしろとキイキイ喚いています……彼女は何時も元気ですね。

 しかしその時、予想外の出来事が起こりました。


「貴様のせいで、私は!私は!私はーーー!!」


 私の背後から宰相様の馬鹿息子だったハック様が、逃げた騎士達がその場に残したであろう剣を振りかぶり、此方へと走って来ます。

 自暴自棄となった彼は世界が滅んでしまう事も考えず、私を殺そうとしています。

 完全にフイをつかれたので、呪法詠唱が間に合いません。

 ハック様の持つ剣が、私へと降り下ろされそうになったその時。


 ドガゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 ガゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 ズドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 グガゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 バガゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


 至る所から放たれた数多の火炎弾(ファイヤーマグナム)がハック様へと直撃。彼の体は吹き飛び、広い会場の側壁にまで叩き付けられます。

 それでも火炎弾(ファイヤーマグナム)の応酬は止まりません。

 この攻撃は、先程騎士達を薙ぎ払ったものとは比べ物にならない魔力が込められております。

 ハック様の体は原形を留めない状態で火達磨となり、遂には連撃の威力で壁をも突き破ってしまいました。


「このシャバ憎が!何を儂等のセーラに攻撃くれとんじゃ! 死なすぞオラ!」


 辺りを見回すと、(ロッド)を構えるお爺さん賢者達のお姿を確認しました。やはり彼等が助けてくださったのです。

 フイをつかれても、無詠唱で魔法使用出来るからこその速業ですね。

 でもインジャン様、死なすぞって仰ってますが、もうとっくに死んでますよ。

 まぁ、ある意味、今回の戦争での戦死者第一号ですね。

 申し訳御座いませんが、私は直接の敵がどうなろとも何の慈悲も御座いませんよ。私を殺そうとしたのなら尚更自業自得です。

 この思考は、家族に捨てられた私を幼少の頃より可愛がってくれたと共に、狂気(バーサーク)な本性を持つお爺さん賢者達に感化されたからかも知れませんね。

 でなければ、我が身の為とは言え世界を滅ぼそうなんて案に賛成しないでしょう。


「有り難う御座います皆様。お陰様で命拾い致しました」

「イヤイヤ、礼には及ばん。儂等のアイドルに手を出す奴は八つ裂きにすると言っただろ」

「八つ裂きではなく、フルボッコと火炙りになってしまいましたけどね」


 私のツッコミにインジャン様は豪快に笑って下さいますが、賓客の方々は冷や汗を流しながら苦笑いしております。

 冗談(ジョーク)とは本当に奥が深く難しいですね。まだまだ私も勉強不足です。

 私は改めて襟を正し、賓客の方々へと向かいます。


「皆様、また更にお見苦しい姿をお目に掛けてしまい大変申し訳御座いません。とは言え、これも悲劇しか生まない戦争なのだから致し方無いと存じます。願わくば勇敢に戦ったハック様の魂が無事に地ご(インフェ)…………天国(パライソ)へと旅立たれる事をお祈り申し上げます」


 あら、「地獄(インフェルノ)って言い掛けただろ!」とツッコミ待ちしているのに何方も無反応ですね。本当にお笑いって難しいわ。

 そんな事を薄ぼんやり考えていたら、私に代わってインジャン様が皆様を指示なさいました。


「まぁ、この後の事はセーラの屋敷で話そうか。まだ然程夜も深く無いからの。ここにおる者達は皆セーラの屋敷を知っておろう」

「でも、灯りもお酒も料理も御座いませんよ?」

「セーラなら何でも魔封石に出来るだろ。それに道中、酒屋も有るし、ツマミも使用人達を使って飯屋から馬車で持って来させりゃ良い。料金は全部魔封石払いじゃ」

「魔封石はそんなに高額では御座いませんよ?」

「今、世界中には魔封石が存在せんから街中も真っ暗で、皆てんやわんやしてる筈じゃ。今夜だけ足下見てやれ」

「ホント、相変わらずですね~」


 インジャン様と一緒に微笑んだ私は、皆様を引き連れ茶番劇が繰り広げられた夜会会場から漸く退場致しました。


 最後まで舞台に残ったのは、一面に散らばる魔封石の欠片と敗者という愚か者達でした。

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