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反撃

 怪我も無く元気な姿のまま夜会会場へと入ってくる皆様を見ていると、思わず目頭が熱くなってしまいます。

 (ロッド)を付いた最長老のインジャン様が笑顔でお声を掛けて下さります。


「おー、セーラ、久しぶり。それにしても、お前でも泣くんだな」

「あら失礼ですね。私だって泣こうと思××××××××××(ガイドライン)泣けますわよ」

「ハッハッハ、そうかそうか」


 私達は冗談を交えながらの再会を喜び合います。

 インジャン様他、お爺さん賢者達、使用人達も現在の状況を既に理解しているようですが、ザックリと愚王子達の愚行の補足説明を致します。

 一通り話終えると、改めて私の体を心配して下さいます。


「馬鹿者共め、何をやろうと無駄なのによ。で、セーラよ、体の方は大丈夫なのか?」

「ええ、少し痣になっているかもしれませんが」

「そうか、なら儂等のアイドルに手を出した奴には八つ裂きになってもらうとするか」


 ……ベンジャミン様、ご愁傷様です……でも、当の本人の姿が見えませんね?

 先程は簡単な補足説明だったので、彼が私を傷付けたとは教えてませんし、牢屋から解放されたばかりなら尚更知らない筈ですよね?


「そう言えば、ベンジャミン様はどうしたのかしら? 本当に逃げてしまったのかしら?」

「あ~、あのクソガキか。あ奴、剣一本しか持ってないのに儂等を簡単に解放したんで、皆でフルボッコした後、裸にひんむいて代わりに牢屋へブチ込んどいたわ。まぁ、半殺しにはしたが、全殺しにはしてないから問題無かろう」

「あらまぁ、相変わらずですね~」

「儂等が捕らえられた時は、皆お前に会えると思って油断しておった。牢屋も魔法封じの魔方陣やら脱獄防止の分厚い鉄板が施されておったから手も足も出んかったが、外に出てしまえば此方のモンじゃ。普通に戦えばあんなカス共など儂一人でも十分すぎるわ」


 でしょうね。お爺さん賢者は冒険者に例えるならAランク、若しくはSランク級の大魔術師。彼等の攻撃魔法はドラゴンさえも一撃で(ほふ)ってしまいます。

 中には武闘家の称号も持ち、お爺さんと言うよりも兄貴と呼んだほうが良い程のキレまくっているマッチョな方もいらっしゃいます。

 そんな人間凶器が束になって掛かって来たら、敵う者など何処にもおりません。だからこそ、王子様達は私に手を出せなかったのですから。

 ベンジャミン様はキッチリとヒャッハー的なお礼参りを頂いたという訳ですか。

 それでも八つ裂きにはならずに済んだのです。ある意味ラッキーでしたね。


 さあ、これで役者は揃いました。

 これからは、ランダース王国に取っては本当の悲劇、或いは喜劇をご覧に入れましょう。

 私は後ろに大切な仲間達を従えて、再び愚王子達と対峙致します。


「さあロミオ殿下、いえ、もう言葉ですら貴方を敬う必要は御座いませんね。では、ランダース王太子殿、覚悟は出来ていますか?」

「ぐっ……ぐうう…………わ……私に手を出して……ただで済むと思っているのか……」


 おやおや、苦し紛れでしょうが、少し間を置いただけで変に強気な姿勢に戻ってしまいましたね。

 なら、改めて目を覚まさせて差し上げましょう。


「貴方こそ私に手を出せばどうなるか分かっているのですか? それに、先に戦争を仕掛けて来たのは貴殿方ですよ。 当然、戦争となると、敵将の首を取らなければなりませんね」

「貴様もランダース王家の血を引く公爵令嬢だろ! 身内の首を取ると言うのか!」

「もう既にクルー家からは、廃嫡、絶縁されたので元公爵令嬢ですよ。 それに、邪悪な建国の魔女は身内を皆殺しにしたのですよね?」

「い……いや……建国の魔女は反逆者を討伐したのであって……」


 あらあら、先程とは文言が変わっておりますわね。何の説得力も御座いませんよ。


「それ以前に、自分に逆らうご兄弟を処刑した貴方には言われたくありませんわ」

「それは、連中が罪を犯したから……」

「あくまでも自分が仕組んだ冤罪を罪だと言うのなら、確実に私を殺す為に御膳立てされた戦争なのだし、私も貴殿方を容赦しなくても構いませんよね?」


 自分の勝利を疑っていなかった愚王子は、当然負けた場合の逃げ道など考えていなかったのでしょう。

 最早、元愚弟やジャフ様と同じく、グウの音も出なくなっています。

 ここで、私は軽く笑みを浮かべました。


「とは言え、ただ呪法で貴殿方を皆殺しにするのも芸が御座いません。ご先祖は戦乱の時代の方なので、呪法による大量殺人も平気で行いましたが、出来る事なら私はそんな真似など致したく御座いませんのでね」

「なっ……なら、お互い冷静になって話し合おう。貴様……いや、貴女との戦争も停戦後に終戦しようではないか」


 今更何を言ってるのかしら。素直に命乞いなんて無様な姿など晒せないのは分かるけどね。


「私は夜会中、ずっと冷静でしたよ。なのに、私に一切弁明の機会を与えず、終始一方的に邪悪な魔女呼ばわりしてたのは貴殿方でしょ。しかも何の謝罪すら頂けてないのに、これの何処に停戦出来る要素が御座いますの?」

「なら、今すぐ……」

「謝罪されてももう遅いですわよ。私に危害が加わる前ならどうにかなったのですが、私の大切な方々をこの茶番に捲き込み、私を大爆発させた時点で話し合える状況はとっくに越えているのですよ」

「し……しかし……」


 怒りの通告を受けた愚王子は、目を泳がせながらも必死に現状の打開策を考えているようです。

 もう、何をどうしようと無駄ですよ。私を殺すという事は、全世界を破滅させると同じ事。しかも、人質すら取れないのだから話し合う余地も御座いません。

 私は、悩める愚王子をほっらかし、先ずはこの夜会に集う皆様へと謝罪致します。


「賓客の方々には大変お見苦しい姿を晒してしまい、誠に申し訳御座いません」


 軽く頭を下げ、次に解放された使用人達へと目配せをします。

 すると、一人の壮年の男性が前へ出て私の隣へと列び、やはり皆様に向けて礼儀に則った一礼をします。


「重ね重ね申し訳御座いません。私の屋敷へ訪れていた方々ならご存知でしょうが、彼の名はスバセ。屋敷での家令を勤めてくれていました。実は、彼の父は一代限りの准男爵でしたので、家令という大役をこなせていたのです。また、彼の家族も屋敷で使用人として働いてくれてましたし、私や賢者様方から礼儀作法を教わり身に付けております」


 さあ、ここからが本題です。

 スバセを紹介した後、皆様が思いも寄らなかった提案を致します。


「ここで皆様にお願いが御座います。私と私の使用人達の亡命を受け入れて頂ける国を希望致します。そして、誠に厚かましいお願いでは御座いますが、亡命先の国はこのスバセに子が後を継げる男爵以上の爵位を下さいませんか?もし、下さるのであれば、魔封石販売での利益による税収を差し上げます」


 この発言で、驚愕による歓声が巻き起こりました。

 でも、これだけでは終わりません。


「また、今回のランダース王国との戦争で私に付いて頂けるのであれば、亡命先でなくとも、ちゃんとその国での売上に対する税も納めますし、魔封石の現地生産も考えております。ああ、ご安心下さい。今度の魔封石は私が殺されても大爆発しないように致しますので」


 思ってもいなかった破格の交換条件が飛び出し、夜会のボルテージは最高潮へと駆け上がります。

 魔封石の独占によりランダース王国は一気に世界の強国へとのし上がった。

 そうなると例え独占では無いにしても、その利益による税収は計り知れない。

 見事に、各国要人の目の色が代わりました。

 でも、今回みたいな事にならないよう私達への保険も御座いますよ。


「それでも、私の身の安全の件も御座いますので、私や私の大切な方々に危害が加われば、やはり砕け散るようには施します。それと、魔封石販売による私や賢者様方の利益分も、今迄通りに頂きます。その利益分は私達の死後、遺書通りに分配されると共に、新たに設立する財団へと受け継がれ管理致します」


 これにより、利益の大半を持っていく私やお爺さん賢者達を殺しても意味が無くなります。

 だって、私達が得ていた利益は何をどうしようと国のものにはならないのだから。

 けれども、財団が言い掛かりを付けられて潰されないよう、国、王家とは綿密な内容の契約を交わさないといけませんが。

 これで、些細な鞭は終わりました。次は再び飴ですよ。


「財団に受け継がれた私達の利益分は、各国に各種学校、各種病院、各種研究所、孤児院、道路、下水道といった公共施設の建築、建設、維持、並びに人材育成、災害地、紛争地域に暮らす方々への支援等、又は投資に運用され、財団は運営されます」


 例え、お爺さん賢者達がお亡くなりになろうと、財団が後を引き継ぎ、国作り、物作り、人作りの手助けをするのです。


「そして年一回、財団が厳正に審査、精査し、この世界の文化、魔法、科学、医学、芸術、娯楽、平和といった各分野に多大な功績を残された方々を選出、彼等へ賞と共に多額の賞金も授与したいと存じます」


 これは、私達から未来の賢者様方へのプレゼントです。

 今までの話だけでも利益しか御座いませんが、最後に貴族なら誰もが耳を疑う内容を申し上げます。


「因みに私が後宮に入る迄、呪力の特性を更に利用出来ないかと考え、此処におられる賢者様方々と共に“魔力膨張症”の特効薬作りの研究を致しておりました。ああ、特効薬はまだ完成しておりませんが、私が直接呪法を用いれば、今直ぐにでも患者を助ける事は出来ますよ」


 この百鬼炎(ドロロ)以上の爆弾発言には、全ての貴族どころか愚王子すらもが息を飲みました。

 皆様が言葉を無くした魔力膨張症とは、主に産まれたばかりの人間の赤子が掛かる不治の病とされており、その致死率は90%以上です。

 病の症状を平たく説明致しますと、魔封石と同じく人間による魔力の膨張状態を差します。

 物体は、突然変異で完全に魔力が暴走してしまうと砕けてしまいますが、暴走手前なら賢者の石、魔封石となります。

 ですが、人間がある程度歳を取り、修行によって魔力を拡大させられるようになったならまだしも、産まれたばかりの赤子は、例え暴走手前でも膨大な魔力には体が耐えられません。

 10%以下の確率で、魔力膨張が収束する場合も御座いますが、大抵の赤子は体も膨張して身が裂け血を吹き出していき、生後3ヶ月以内には死んでしまいます。

 この症状は、魔力の弱い庶民にはまず表れませんが、極まれに、魔力が強い王族や貴族の子に見られます。


 そう、魔力膨張症は、王族や貴族の元に産まれた赤子ばかりが陥る病なのです。


 私の呪力は、相手の魔力を自由に引き出し変化させます。

 つまり、相手を死に至らしめる為に魔力を暴走させるだけではなく、膨張した魔力を鎮静化させる事も出来るのです。

 特効薬が完成していない現段階でも、私自らが呪法を用いれば患者を救えます。

 後宮に入れられるまで行っていた研究とは、私から魔力鎮静化の呪力を抽出し、やはり最初の一個となる特効薬を作り、それを複製するといった内容だったのです。


 この場に集っている全員が貴族です。万が一ですが、何時自分の子や孫が魔力膨張症によって命を落とすか分かりません。

 現時点では私だけが患者を救う事が出来て、後々は特効薬まで完成するかも知れない。

 さあ、魔封石による利益と合わせて、皆様がどうご判断なさるかは火を見るより明らかですね。

 驚愕の内容をもって、徐々に喧騒を取り戻しつつある夜会会場ですが、思ってもいないところから声が掛かりました。


「セッ、セーラ嬢!さっきの話が本当なら、是非とも私の孫を助けてくれ!」

「あら、確か貴方様はゼーゼマン侯爵ですわよね?」

「そうだ!頼む!私の孫を、産まれたばかりのクララを助けてくれ! 魔力膨張症なんだ! 見返りなら何でもやる!」


 まさか、近衛騎士団長と双璧を成すランダース王国軍団長、名門ゼーゼマン家のご当主様がお出ましとは。

 一応敵国の主力を率いる貴族ですが、私の力を見せるには丁度良いでしょう。出血大サービスですよ。


「では、クララ様のお姿を写した物か、爪でも髪の毛でも良いのでご本人の何かをお持ちですか?」

「……肖像は無いが、何時も無事を祈っていたので、血の付いた産着の切れ端なら……」

「それで構いませんよ」


 私は、ゼーゼマン様が内ポケットから取り出した血の付いた布を受け取りました。

 すると、血の主の持つ因果を読み取った呪力が、クララと呼ばれる赤子の傷付き血にまみれ、膨れ上がった今の姿を私の中に浮かび上がらせます。


「我が呪力よ。呪法となりて彼の者に呪による影響を及ぼせ」


 呪法詠唱した私の体から誰が見ても分かる漆黒のオーラが顕現し、そのまま彼方に存在する赤子へと飛んで行きます。

 その間も、私には赤子の姿が見えていますが、ひとっ飛びした呪法が作用した途端、全身の張れが引いていき、出血も収まり始めました。

 これで、大丈夫でしょう。

 心配そうに見詰めるゼーゼマン様に、優しく語り掛けます。


「もう、お孫様は魔力膨張症から完治致しました。貴方様もご覧になりましたよね、私の呪法を」

「確かに黒い何かが貴女から立ち上るのは見えたが……ほ……本当なのか?」

「ええ、しかし私には外傷が治せないので、そこは治癒魔法(ヒール)回復薬(ポーション)をお使い下さい。これ等の発言が嘘だと思うのであれば、直ぐにでも誰かを確認に向かわせれば良いでしょう。もし完治してなかったら、私はこの命を貴方様に差し上げますよ」


 命を懸けるという言葉に、ゼーゼマン様は目と口を大きく広げました。

 至る所からの要人が集う公の場で、これだれの事を言ったのです。信じない方が可笑しいでしょう。

 それでも一国の軍を預かる軍団長様。直ぐ様、気を取り直して号令を掛けます。


「使いの者を屋敷に走らせろ! 念の為に回復薬(ポーション)を持って行け!」


 次には、再び私へと向き直りますが、もう先程までのお孫様を思う弱々しい表情ではなく、晴れやかなお顔となっています。


「恐らく、いや……確実に孫は助かっているだろう。改めて礼を言おう」

「いえいえ、ただ敵に数粒の塩を送っただけですわ。ゼーゼマン様、貴方様もランダース王国軍団長でしょ? なら、当然私の敵になるのだからね」


 その台詞で、ゼーゼマン様の眉間に皺が寄りました。

 そうですよ、貴方も結局はランダース王国という泥船に乗った狸なのです。

 現状では全世界を滅ぼす覚悟が無いと私を殺せないのだから。

 そんな事を考えていたら、予想外の事を仰って来られました。


「そう言えば、見返りの件がまだだったな」

「そんなものは当てにしておりませんわ。ちょっとした魔女の気紛れとでも思って頂ければ宜しいかと」

「そうもいかん。私も貴族だ、皆の前で発言した内容には責任を持とう」

「あらそうですの? では、何を見返りにして下さるのかしら?」


 すると、ゼーゼマン様は愚王に向かって膝を折り(こうべ)を垂れ、とんでもない宣言をなさいました。


「我がゼーゼマン家は、ランダース王国とセーラ嬢との戦争において、セーラ嬢側へと組みする事を宣言致します!」

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