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大爆発

 いえ、夜会会場だけでは御座いません。現在、()()()が暗闇に包まれています。


 皆が何が起こったのか分からないでいる中、愚王子が大声で命じました。


「光魔法だ!光魔法を使え!」


 すると、幾人かの者が光魔法を使い、再び辺りは明るくなります。

 それでも喧騒は収まりません。ずっと平静だった国王夫妻や、余裕の表情だったクルー家とスカール家の面々も驚きを隠せない様子です。

 しかも、会場の床には、()()何かの欠片がそこかしこに散乱しています。


 フフフ、上手くいったようですね。


 私はベンジャミン様に床へ押し付けられたまま、愚王子に向けて本日何度目かの言葉を言い放ちます。


「だから()()()()()()()になるとご忠告しましたのに」

「何だと……」


 この時になって漸く、現在の状況を知る城使えの者が参りました。


「国王陛下に御報告です! 王城の中にある全ての魔封石が粉々に砕け、その破片が赤く変色しております! 急に辺りが暗くなってしまったのは、王城内を照らしていた魔封石が全て使い物にならなくなってしまったからです!」


 そうです、床に散乱している赤い何かとは、元々シャンデリアや空調設備等、会場内で使用されていた数多の魔封石の欠片。

 凄まじいまでの何かが割れたように聞こえた破裂音は、()()()魔封石が砕け散った音なのです。

 その身に魔封石を所持していた方々の物も、同じく衣服の中で()()欠片の束となっているでしょう。


 城使えの者から有り得ない報告を耳にした愚王子は、改めて床に押し付けられている私を見据えます。

 しかし、その顔には先程までの笑みはもう御座いません。


「貴様……何をした……」

「その前に、私を押さえ付けているこの野蛮な男をどうにかして貰えませんか?」

「…………」

「それとも、火炙りではなく、このまま私を殺しますか? それだと、()()()()()()()()()()になるかも知れませんね」


 床に押し付けられた時、何処かを打ったみたいですね。痣が出来てるかも。少々痛みます。

 まぁ、一国を相手に戦争して痣程度で済んだのは良かったかも知れませんが。

 愚王子も、私に危害が加わった瞬間に今の状況に陥ったと気付いてるみたいですからね。


「……その女を離せ」

「ですがこの魔女はフローネを!」

「良いから離せ」


 愚王子の命令により、しぶしぶながらベンジャミン様は私を解放します。

 漸く立ち上がる事が出来て、ドレスについた塵を軽く払い落としていると、愚王子が再び同じ質問をしました。


「貴様、何をした?」

「何をとは?」

「王城の魔封石が全て砕け散ったのは、貴様が何かやったからだろ!」

「ああ、その事でしたら少し違いますね」

「何を……」


 愚王子と愚側近の方々は睨み付けますが、私は逆に微笑み返します。


「王城だけではなく、()()()に存在する()()()魔封石が粉々に砕け散ったかもしれませんね」


 この言葉で、愚王子や愚側近の方々だけでなく、やり取りを聞いていた皆の顔から血の気が失せてしまいました。

 しかし、私は微笑みを崩しません。


「確かに私が詠唱で飛ばした呪法は、一回につき相手の魔封石1個を砕く程度しか出来ません。けれど、私が私自身に施した呪詛返しだと、()()()に存在する()()()魔封石が粉々に砕け散って()()()()()、使い物にならなくなります」

「なん……だと……!」

「それは、私を幽閉したとしても同じ。私が詠唱による呪法ではなく、呪詛返しを任意で飛ばせば、やはり世界中に散らばる全ての魔封石は砕け散り、使い物にならくなる。と、言ってもこれは私の勝手な想像ですよ。だって魔封石は、私ではなくロビン家、いえ、スカール家が開発したのですから、そんな筈ないですよね」

「そ……そんな……」

「でも、本当に全世界の魔封石が使い物にならなくなったとしたら、また()()()()()から作らないといけませんね。それでもスカール家は()()()()()()()()()()()()()()()を持ってらっしゃるから問題無いですよね?」


 私の口から紡がれた真実を知り、愚王子は自分が何をしでかしてしまったかを悟られたようですね。

 もう、この世界に使用出来る魔封石は存在致しません。しかも、大元となる()()()()()を作れるのは私だけ。それが無いと、後に続く複製品も当然作れません。


 即ち、ランダース王国は今をもって、魔封石を独占出来なくりました。


 でも、これだけでは御座いませんよ。


「これも私の勝手な想像ですが、もし、私が事故死や自然死以外で死んだりしたら、全世界に散らばる欠片が、全て()()()を起こすかもしれませんね」

「なっ!大爆発っ!」

「それが例え、魔封石1個分の欠片であっても王城程度なら軽く吹き飛ばしてしまう程の()()()が起こるかも。七色の光が消え、()()()()してしまったのは、その為かもしれませんね」


 愚王子や愚側近の方々は真っ青な顔のまま、改めてそこかしこに散らばる赤く変色した欠片に目を向けます。

 そして私は、彼等も直ぐ様思い付いたであろう結果を口にしました。


「もし、私が殺されたら、世界はどれ程の被害に陥るのでしょう? でも、死体となった私なら、ロミオ殿下の望み通りの火炙りに出来ますね。と言っても、火炙りになるのは私の死体だけでは済みませんが」


 自分達の愚行で世界規模の大被害を齋してしまっていたかもと知った愚王子達は、目の前に居る私が化け物かのように凝視して唇を震わせます。


 先程の説明通り、私は大本となる()()()()()を作る時、私自身に施している呪詛返し、若しくは私自身が飛ばした呪詛返しの加護に反応するように作りました。

 当然、今だと世界中に出回っている全ての魔封石も同様に出来ていますよ。だって複製品なのだから。

 内容と致しましては、これも先程も申し上げました通り、私に危害が加われば、世界中に存在する全ての魔封石が連鎖反応を起こして暴走、結果赤く変色して粉々に砕け散るようにしました。

 私が任意で適当に呪詛返しの加護を飛ばしたとしても同様です。加護の対象となる人が居なければ、適当にあらゆる場所をさ迷った加護が、偶然出会した魔封石に吸収され、同じく世界中に散らばる全ての魔封石が連鎖反応により暴走して粉々に砕け散ってしまいます。

 因みに、呪法を飛ばすには詠唱が必要ですが、呪詛返しの加護を飛ばすには、対象となる相手を頭に思い描き、心の中で祈れば良いだけです。故に、私の口を封じても無駄です。

 また、私が殺されたら全世界に散らばる砕かれた欠片は、やはり連鎖反応を起こし事前に組み込まれた爆裂魔法の暴走により、全て大爆発を起こすという仕掛けもお爺さん賢者達に施されております。


 こんな凄まじい案を出したのは、お爺さん賢者達の最長老であらせられる大賢者のインジャン様。御年165歳。当然、ハゲ上がっております。

 しかも、この案にお爺さん賢者達は誰一人として反対せず、皆様嬉々として新種の世界最強爆裂魔法“百鬼炎”(ドロロ)を開発されたのだから。

 ホント、良い歳してアナーキーな方々ばかりですよ。


 だからこそ、砕かれた欠片は暴走している百鬼炎(ドロロ)の影響で()()()()して、使い物にもならないのです。

 こればかりは、闇魔法を使用しても止められません。

 また、更に先程申し上げたと同様、大爆発の威力は魔封石1個分の欠片であっても王城を跡形も無く消してしまうのですから、例え一欠片でも凄まじいですよ。


 フフフ、一連の説明は、あくまでも私の勝手な想像と濁しておりますが、この場に集う皆様には真実が何処にあるかをご理解しておられるみたいですね。

 そりゃそうですよね。冤罪を掛けられ、泣き寝入りさせられそうになったのだから。

 愚王子達もまさかこうなるとは思いも寄らなかったでしょう。

 でも、まだ早い。魔封石に施した仕掛けは、更に御座いますよ。


「それと、もう1つ。私が魔女の使徒や屋敷の使用人達に与えている呪詛返しの加護ですが、砕かれる魔封石は一回の攻撃に対して因果の関係者の持つ魔封石各々1個だけです。しかし、彼等の一人でも殺したら、その各々1個分の欠片()()が大爆発を起こすかも知れませんね。でも、世界中を火の海にする私と比べると、被害範囲は大した事御座いませんね」

「そんなの聞いて無いぞ!」

「あらまぁ、私に逆ギレされてもねぇ。だって、魔封石はスカール家が開発されたのでしょ? なら、私ではなくスカール伯爵にでもお尋ね下さいな。呪法の防ぎ方を私から教わったからって、何でもカンでも私に言われてもねぇ」


 当たり前でしょ、例え相手が呪詛返しを防げる魔封石を持っていようとも、私を可愛がってくれている方々を死に至らしめるなんて許す訳が御座いません。

 大爆発により巻き添えになる方々? 私は聖女でも女神でも御座いません。寧ろ魔女です。知った事では有りませんよ。

 あら、私もお爺さん賢者達の事をアナーキーだなんて言えませんね。

 でも、一応それなりには考えて、各国要人やランダース王家の方々に与えた加護では大爆発しませんよ。彼等は常に死の危険と隣り合わせ故に、何時何処で大爆発してしまうか分からないので。


 あまりにも有り得ない真実を知らされた愚王子は、全ての元凶となった新スカール伯爵に怒鳴り付けます。


「一体どういう事だ!」

「……わ……私は……何も聞いておりません……」

「あら、聞いてなかったかしら? ()()()()()()()になるとも?」


 スカール伯爵は、もう私からの皮肉にも、何も返す事が出来ない様子です。

 あらあら、お顔の色が青を通り越して真っ白になってるわね。


 さあ、ここで解説致しましょう。呪法の原理というのは、呪力が相手の持つ魔力と反応して、最悪死に至る病を引き起こすという物です。

 又は、加護を与えた人に加わる被害の因果を、呪力が万物に宿る魔力から導き出して、同じ被害を相手にも引き起こします。

 即ち、呪力とは、相手の持つ魔力を自由に引き出し変化させたり暴走させて、相手を自滅させる代物なのです。

 またまた何故かしら? この説明をする時、何時も「あべし!」「ひでぶ!」といった言葉が頭に浮かぶのは?

 まぁ、そこはまたまたさておいて、私はこの原理を利用し、小さな石ころにも宿る魔力を暴走手前まで膨張させる事を思い付きました。

 そして、出来上がったのが魔封石なのです。

 故に、最初の1個は私にしか作れません。


 それに、魔力という物は万物に宿るので、魔封石の元々の材料は何でも良いのです。それこそ、石だろうと、木だろうと。材料は殆んどタダ同然なのです。

 元々、賢者の石と呼ばれた魔封石も、突然変異で魔力が暴走手前にまで膨れ上がった物体の事を指すのです。


 私が売上げの7割を持っていく事に関しましても、魔封石の製造にはそれだけの費用が掛かると言って誤魔化すようにと指示しました。

 製造法、つまりは、複製法や材料は私とお爺さん賢者達と元ロビン家以外は誰も知らないのですから、製作にはそれだけ莫大な費用が必要だと言い張ってしまえば、それが是となるのです。

 これが、呪力、呪法の全貌と、魔封石製作の裏側です。


 何にせよ、今迄好き放題したくれましたね、愚王子。ここからは私のターンです。

 全ての魔封石が砕かれた後の真なる恐怖に皆様まだ気付いてないようなので、更なる驚愕をプレゼント致しましょう。


「仮にもし、仮にもしですよ、私の勝手な想像通り、世界中の魔封石が使い物にならなくなっていたとしたら、誰も私の呪法も呪詛返しも防げないという事になってしまいますね。しかも、玉砕覚悟で私を殺したとしても、世界中に散らばる魔封石の欠片が大爆発を起こしてしまいます。何でしたら、本当に私を殺して試してみますか? 今現在、私個人とランダース王家は戦争中ですので丁度良いではありませんか」


 この発言により、愚王子どころか愚王夫妻、愚側近、ビッチ姫、クルー家もスカール家の面々も目を剥き、唇だけではなく、全身で震え始めました。

 そうです。現時点で、誰も私の呪法も呪詛返しも防げないどころか、床には砕かれた魔封石の欠片が大量に散乱しております。

 私を殺した瞬間にドカーン!


 つまり、誰も今の私を止められないのです。

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