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魔封石

 その()()()()のご令嬢であらせられるフローネ様は今、ロミオ殿下に抱き締められ、私の実家であるクルー家の養女に迎え入れられようとしています。

 何故なのかはなんと無く予想は出来ますが、一応お約束通りの対処はしてみましょう。


「私への婚約を打診してきた国王陛下の御許しは御座いますか?」

「そうだな。その件についても今此処でハッキリさせよう。だがその前に、貴様はフローネ譲を男爵令嬢だと知っていた。故に、彼女を()()()()()()だろ」

「……はい、()()()()()()()()()


 応えた瞬間、ロミオ殿下が少しだけ口元を緩めました。

 私がフローネ様を()()()()()()から何だと言うのでしょう?


 ロミオ殿下は、夜会会場の上座、二人並んで豪華な椅子に座ってらっしゃるランダース国王夫妻へとお顔を向けられます。

 あら?御二人共、ご自分のご子息が、大勢の賓客がいらっしゃる前で、これ程の茶番を演じているというのに、涼しいお顔をしていますね。


 全て予定通りという風な両陛下に向けて、ロミオ殿下は私と一部の者以外知り得ない()()とは()()のご説明をなされます。


「ロビン家は、一年程前に魔力による新エネルギー資源を()()()()()()()()()()()()()()()で編み出しました」


 あら、そうだったかしら?フフフ…


「災い以外何も産み出さない魔女セーラと違い、ロビン家の(たゆ)まぬ努力はランダース王国貴族として称賛に値します」


 なら、私を罵るのではなく私こそを称賛しなければならないのにね。

 そうです、私はお爺さん賢者達と仲良くなってから、ロビン家、ひいてはランダース王国が独占販売している()()()()()()()に発明したのですから。


 それこそが、先程のロミオ殿下曰く、ロビン家が製造法を編み出したと仰った“魔封石”なのです。


 魔封石とは、古い文献では賢者の石とも呼ばれている魔法の石で御座います。

 この世界は基本的に魔法が物をいう世界。だからと言って魔法は万能では御座いません。

 当たり前ですが、夜になれば明かりが必要となります。その場合、蝋燭を灯すか光魔法を使用しなければならなりません。

 蝋燭だとそれなりの時間照らせますが、照らせる範囲は狭いし、火事の危険も伴います。

 光魔法だと、かなりの広範囲を照らせますが、30分程しか持続しない上に、魔導士でもない一般人なら五回程使うと、その日1日分魔力が体内より枯渇してしまいます。

 けれど、魔封石に1度光魔法を当てると1日中光り続けてくれるのです。

 それは火と風も同じ。冬は魔封石に弱い火魔法を当てれば薪や石炭を後から後から付け足さなくても室内を温め続けてくれるし、夏は冷たい風魔法を当てれば室内をずっと涼しくし続けてくれます。

 途中で止めたければ何の魔法が発動されていようが、闇魔法を当てればストップしてくれるので必要な時のみの使用も可能です。

 基本的な魔封石は子供の拳程の大きさで、七色に光輝く四角い石です。簡単な生活魔法程度を使用すると、徐々に小さくなっていき24時間程で消滅してしまいます。

 つまりは、魔封石が一個あれば、今迄何度も何度も手間を掛けていた事や出来なかった事が、その日1日は1度の魔法使用だけで済んで出来てしまうのです。

 流石に水魔法を使ったからと言って1日中水を出すなんて真似は出来ませんが、それでも10リットル程なら出せます。

 故に、水筒代わりにもなるし、雨が少ない土地での貴重な水源にもなります。

 更には、魔封石に火球(ファイヤーボール)程度の攻撃魔法を当てると爆炎砲(フレイムカノン)程の威力にまでなってしまうので、強力な魔物も簡単に退治出来ます。

 このように魔封石は、貴族から庶民、冒険者にまで用途は多種多様。

 お値段も1個銅貨3枚(約300円)中流以上の庶民なら1日に1~3個程度なら買えるので、今ではこの世界での魔力による重要なエネルギー供給源、燃料源となっています。

 魔封石によって人々の暮らしは数世紀単位で豊かになったと言っても過言では無いでしょう。


 でもこの石は、私の()()を利用しないと大元となる最初の1個を作れません。

 けれど、最初の1個さえ作ってしまえば、その後に続く魔封石を複製する秘伝の方法もお爺さん賢者達と一緒に編み出しましたし、複製品からまた複製品を作る事も可能です。


 その辺りの事情を知ってか知らずか、両陛下のみならず、夜会に集う皆に向かってロミオ殿下は語り続けます。


「魔力による新エネルギー資源、つまり全世界における魔封石の独占販売により、ロビン家は我がランダース王国に多大な貢献をしてくれています。故に、各国よりお越しになられた皆様が集う今夜の夜会での新スカール伯爵叙爵なのです」


 この言葉通り、魔封石を複製、量産して独占販売してしまえば大儲け出来る事は分かっていました。けれども、お爺さん賢者達が所有する小さな錬成工房では無理が御座いました。

 私達の代わりに多数の働き手と、それなりの領地を持つ誰かに量産して貰わないといけなかったのです。とは言え、実の家族であるクルー家と私との仲は最悪です。

 だからこそ、一番下っぱの分家であるロビン家に話を振ったのです。

 腐っても私は本家令嬢、お爺さん賢者達の連名サイン付きで話がしたいと手紙を送れば男爵だって断れませんし、魔封石の有用性を目の前で見せ付けられたら誰だって飛び付きますよね。


 但し、複製法を与え教える代わりに条件を提示しましたの。開発者が私とお爺さん賢者達という秘密の絶対厳守と、庶民でも買える適正価格での販売。更には、毎月売上げの7割を寄越しなさいとね。

 これ等の条件の理由と致しましては、私やお爺さん賢者達は目立ちたくなかった。余計な柵は御免被りたいので。

 だから開発者の秘密が極力漏れないようロビン家一家だけの独占に致しました。

 また、値段を高くして一部の貴族だけが使用出来るのではなく、適性価格にして庶民でも買えるようにすれば、有用性が世界中に広まり易いし、消耗品なので1個買えばそれで終了という訳でも御座いません。値段を安くして顧客を増やせば、それだけ儲かります。

 なによりこの商品は、過去の賢者達が何世代にも渡って完成を夢見て来た至高の魔法石なのです。開発者として7割の利益を得るのは当たり前ですよね。

 まぁ、後に残った3割でも凄まじい額になりますよ。なにせ、身分や職に捕らわれず、世界中の人々が顧客の独占販売となるのですから。

 結局、私からの条件を全て飲んだ男爵は、大本となる最初の1個を貰って複製法を教わり、遂に魔封石は発売されたのです。


 案の定、魔封石は全世界で大ヒット。当然ですよね、何にでも使えてこれほど便利な万能石なんて他には御座いません。

 ロビン家も普通の男爵家では絶対得られない程の大儲けを致しましたし。

 でも、男爵が利益を誤魔化さないように、私自身がロビン家に赴き、直に帳簿を確認した上で、売上げの7割を請求していました。裏切ったら()()()()()()()になりますよともご忠告申し上げていましたし。

 だからこそ、ロビン家の面々とは何度も顔を会わせていますし、フローネ様とも面識が御座います。


 そして、()()()()()()()()から、学園で数々のご令息達を手玉に取っているとも聞かされていたのです。


 具体的には○○様からプレゼントを貰ったと仰っては、私に宝石や装飾品を見せ付けたり、○○様から求婚されている。中には、私の為に婚約破棄したご令息までいる。しかも、皆と体の関係を持っているとまで仰ってましたね。

 確かに、化粧で上手く誤魔化しておられましたが、必ずと言って良い程キスマークを付けてらしたからね。流石に愚弟とも関係を持っていたとは思わなかったけど。

 彼女としては、ロミオ殿下と婚約した私に対抗心を燃やして、自分の方が美人で数多くのご令息達にモテると自慢をしたかったのでしょう。ハッキリ言って何の自慢にもなりませんが。


 しかし、そんなくだらない話を聞かされる私の努力の甲斐あって、ロビン家からは毎月キッチリと請求通りの額は入って来ました。一月分でも国家予算の何分の一かに匹敵する額が。

 それを私とお爺さん賢者達で山分けしましたの。それでも、人一人が数年は遊んで暮らせる程ですよ。

 とは言え、お爺さん賢者達はお金に余り興味を示さない方ばかりですので、次の研究資金に当てたり、私財を投げうって後身育成の為、市井に庶民の学校を建てたりしていました。これって本来は国主や領主がすべき事じゃないのですか?

 私は私で、元々が引き込もり。社交界にも出席致しませんし、宝石やドレスなんかには然程興味が御座いませんので、屋敷で働く使用人達の給料を大幅UPしてあげました。庶民だったら一月の給料で半年は遊んで暮らせる程の額に。

 そうしたら、また皆が大喜びして、()()()私個人に忠誠を誓ってくれました。

 そこまでやっても、毎月毎月売上げが入ってくるので、結局は()()()()()()()()として残ってしまいます。

 こればかりは隠しようが御座いませんので、その辺りの事情を突っ込まれたら「お爺さん賢者達による新製品、新魔法開発の手伝いをしているので、開発成功の暁には莫大な謝礼金を貰っている。それを更に投資に回している」と言って濁していましたが。


 故に、今夜の夜会に出席している方々は私こそが魔封石の開発者だという事や、フローネ様との関係、財源をご存知有りません。


 にも関わらず、ロミオ殿下は有らぬ内容を声高に叫びます。


「私は、ロビン家の貢献により、常日頃から学園での同級生でもあるフローネ嬢に感謝と労いを掛けていました。しかし、この魔女セーラは、私とフローネ嬢の仲を邪推し、事もあろうかフローネ嬢に嫉妬の炎を向けました!」


 ロミオ殿下の言葉で会場にざわめきが起きました。

 ああ、成程ね。私が学園と呼ばれる所に行ってないのは、他国より夜会に招かれた方々ならご存知です。普通に考えれば邪推のしようが無いのだけれど。

 フローネ様からもロミオ殿下からお言葉を頂いたというお話は一切聞いていません。

 彼女の性格上、声を掛けられただけでも寝取ったぐらいに誇張して私に聞かせるでしょうし。

 ロミオ殿下も、私が学園に通っていないとご存知です。普通に考えれば、私がフローネ様を見知っている筈が御座いません。

 しかし、私はフローネ譲を()()()()()()()と言ってしまった。

 つまり、あのご質問は罠だったのですね。


 ロミオ殿下が微かに醸した口元の弛み、クルー家とロビン家の面々のほくそ笑み、国王夫妻の平然とした態度、そして夜会に集う方々が知らない真実とは真逆の嘘。

 ロビン家が全てを彼等にバラした事は明白ですね。

 側近の方々や愚弟は、上手く利用されているといったところでしょうか。


 そして、全てのシナリオを書いたであろう腹黒王子様は、再度私を指差し言い放ちました。


「この場に集う皆様も既に、魔女セーラが呪力を持っているとご存知でしょう! そうです、こいつは呪法を用いてフローネ嬢を呪い殺そうとしたのです!」

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