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始まり

 俺はショーン・マレー。探偵だ。アメリカ生まれアメリカ育ち。透き通って青い瞳とサラサラで美しい金髪がトレードマークだ。今はクライアントの要請で、日本に来ている。ここは京都だ。


 日本は、風光明媚という言葉が本当によく似合う。みる物すべてがとめどないわびさびを放っているようだ。古風な街をただ歩くだけで、全身がチルアウトして雑念が取り払われるようだ。こんなところに来るのは生まれて初めてだった。本当にいい国だと思う。


 依頼主は人の好さそうな老紳士で、名を吉田富吉(よしだとみきち)といった。正直、日本にまで来て仕事をしたくはなかったが、法外な謝礼を提示された俺は、一も二もなく飛びついた。彼の家の近くのコーヒーがうまいと噂される喫茶店で、彼と会い、依頼についての確認を行った。俺は日本語で、


「それで、今回の依頼ですが……」


「はい。失踪した娘を探してほしいのです」


 そう言う彼の顔は、かなり意気消沈しているように見える。やはり、辛いのだろう。今までも、これからも独り身であろう俺には、娘がいなくなる感情は理会できないだろう。彼に少しだけ同情しながらも、俺は彼に質問を続ける。


「娘さんの名前は吉田佳枝。2か月前に買い物に行ったっきり行方知れずとなった。これであっていますか?」


「あっております」


「それでは、娘さんの交友関係を教えてくださいますか? 友達とか、恋人とか」


 俺は当面の調査に必要な情報と費用を吉田氏からもらうと、喫茶店を出た。別れ際、最後に残った疑問を聞いてみた。


「どうして私を選んだのですか? 日本の探偵でもよかったのでは?」


「今回の件には忍者が絡んでいるはずなんです」


 吉田は神妙な表情で『忍者』と言った。いくら日本の忍者漫画が有名だからといって、忍者が現存しているなどというバカげた考えを持つ者は、もしいたとしてもごく少数だろう。もちろん俺も、忍者はもはや存在しない、虚構の中の存在である事を知っていた。俺はてっきり、この人はふざけているのだろう、精一杯のユーモアなのだろうと思い、返事をした。


「いやあ、忍者ですか。私も小さい頃は憧れたものですよ。手裏剣投げたり、印を結んだりねえ。ニンニンなんつってねえ」


「忍者を舐めるな!」


「!? 申し訳ありません!」


 依頼人は突然激昂した。これは本気でキレている。恐怖すら感じさせるほどだ。思わず反射的に謝罪してしまった。


「とにかく、忍者を甘く見ないように」


 そういうと、吉田老人は去っていった。



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