最終話 自分の答え
入学式から2週間が経った。
時折する不思議な気持ちのことが分からず毎日を過ごしていた。
本格的に授業が始まったが僕のモヤモヤは晴れなかった。
「はぁ……」
最近はこの体や生活にも慣れてきたけどなんだか疲れる。女の子になり体力が落ちているからだろうか。
「葵、どうした?」
和樹は心配そうに声をかけてきてくれた。
「別に何でもないよ」
「そうか? それならいいけど」
教室の後ろのドアが開き同じクラスでちょいチャラい系の稲葉君が入ってきた。
「いたいた。葉梨、ちょっと次の授業の教材運ぶの手伝ってくれ」
「わかった」
「それじゃ水原さん、葉梨ちょっと借りていくよ」
「あ、うん」
和樹は稲葉君と一緒に教室を出て行った。僕は自分の席で座っていると後ろから誰かが肩を叩いて来た。
「水原さん。ちょっといい?」
話しかけてきたのは同じクラスの朝比奈さんだった。
「なに?」
「あのねこれなんだけど」
朝比奈さんは1枚の紙を見せてきた。そこには同じクラスの男子生徒の名前が書かれていてその横には正の字でなにやら投票がされていた。
「これは?」
「今、女子の間でクラスの男子の人気ランキング作っているの。もちろん男子たちには内緒でね。水原さんもどう?」
「うんいいよ。えっと僕は―――」
票を見ると和樹に票が入っていた。僕も和樹に1票入れ紙を渡した。
「やっぱり葉梨君かー」
「やっぱりって?」
「だって水原さんと葉梨君っていつも一緒にいるし」
「和樹とは幼稚園の頃からの幼馴染だからね」
「水原さんって葉梨君のことどう思うの?」
「僕は……」
まただ。このモヤモヤは何だろう……。女の子のことなら同じ女の子の朝比奈さんに聞いてみよう。
「朝比奈さん、ちょっと聞きたいんだけど……」
「なに?」
「和樹のこと思うとなんだかこう胸がモヤモヤするんだけどなんでかな?」
「えっ……それってあれじゃないの?」
「あれってなに?」
「そりゃぁ恋でしょ……もしかして気づいてないの!?」
朝比奈さんはこれが恋と言った。
「僕が和樹のことを? そんなわけないよ」
僕はそれを否定した。和樹は幼馴染で一番の親友だからそんな気持ちは無いと思った。
「俺が何だって?」
後ろから突然和樹が話しかけてきた。いつの間にか戻ってきていた。
「和樹いつからそこに!?」
「今さっき戻って来たところ」
「ねぇ、葉梨君は水原さんのことどう思ってるの?」
「ちょっと朝比奈さん!?」
「俺は葵のこと一番の親友だと思ってるけど」
「ですよねー」
やっぱり予想通りお反応で安心したけどその反面なんだか少し悲しかった。
「葉梨君面白いこと言うね」
「ん? そうか?」
和樹はよくわかっていないみたいだった。
「それじゃ私はもう行くね。水原さんアンケートありがとう」
「うん」
「それとね」
「なに?」
朝比奈さんは僕の耳元で「私は応援しているから」と言って立ち去った。
「お前朝比奈と仲良かったか?」
「ちょっと頼まれごとされていただけだよ。次の授業の準備しないと」
僕はその場を離れた。前よりさらに和樹のことをより意識してしまう。この気持ちを忘れようと思っても心のどこかでは忘れてはいけない気がした。
家に帰っても和樹と一緒にテレビを見ることは無く僕は自分のベッドの上で寝転びながら考えていた。
「(今の気持ち和樹に伝えた方が良いのかな……でも今までの関係が崩れそうで怖い……)」
すると静かな部屋にドアをノックする音が響いた。
「ちょっといいか?」
「うん。いいよ」
部屋のドアが開き和樹が入ってきた。
「あのさ明日提出の課題――――ってお前まだそんな格好なのか?」
僕はいまだに大きめのシャツで過ごしていた。
「まだ買ってないしどんなの買っていいか良く分からないから」
「それじゃ今度買いに行こうぜ」
「一人で行くからいいよ」
僕は和樹と一緒に居ると胸がモヤモヤするので一人で行くと言い断った。
「買ったものを持って帰るのは大変だろ。距離もあるし」
「それもそうだけど……」
確かに買った服を持っていくには距離はある。こんな体になったらなおさら無理かもしれない。
「荷物運びで俺もついて行くから」
「……それじゃ日曜日にお願いするよ」
最近和樹が優しくするとやっぱり胸の奥のがモヤモヤする。やっぱり恋なのかな?
そして日曜日に僕は和樹と一緒に服を買いに行った。
店内にはいろいろな服があり男の子の時とはなんか違うように見えた。すごく服選びが楽しい。
「この服かわいいから買おうかな? でもこっちも良いし」
女の子になってから急に服選びが楽しくなってきた。
色々選んでいると隣で見ていた和樹がクスッと笑った。
「なに?」
「いや、急に元気になったなって」
「そう?」
「最近なんか考え事してる時が多いだろ」
「それはその……」
「俺で良ければ相談に乗るからよ」
「ありがとう」
僕はいろいろな服を選びいくつか買った。
「そこの自動販売機で飲み物買って行こうよ。荷物運びのお礼に奢るよ」
「それじゃそうしてもらうかな」
僕と和樹は近く休憩スペースの自動販売機で飲み物を買って椅子に座り休んだ。
「今日はあったかいというか少し暑いね」
「確かに今日は一段と気温高いな」
和樹は袖を捲り飲み物を飲んだ。
「冷たい飲み物が美味しいー」
「なぁ、ここって祠の近くじゃね?」
「そういえばそうだね」
このデパートから見える山の上に祠があるのだ。
「ねぇちょっと寄って行く?」
「あぁ、久しぶりに行ってみるか」
僕たちはあの祠の場所へ向かった。
長い山道を歩き頂上に着くとあの頃と変わらず祠があった。
「あれからあっという間に2ヶ月経ったね」
「そうだな。まさかこんなことになるなんてな。まだ願い事すれば男になれるぜ」
「もうこのままでいいよ。それに今戻ったら高校どうするの?」
「それもそうだな。それに今の方が葵らしいしな」
「もう」
「冗談だって」
和樹は嘲笑った。
「……ねぇ、和樹は僕の事どう思う?」
「何を言うかと思ったら。いつも言っているだろ。俺たちはずっと親友だ」
その笑顔と言葉を聞くと今では胸が痛い……
「嫌……」
「え?」
「ずっと親友止まりは嫌なの!」
「葵?」
「だって僕は――――」
すると突然和樹は僕を抱きしめてきた。
「えっ、ちょっと」
「ごめん……分かっていたんだ」
「和樹……?」
「俺はお前のことが好きだ。親友としてじゃなくて一人の女性として」
「えっ……」
「お前との関係が崩れると思うと怖くて言えなかった。男として最低だよな……」
和樹が泣いているのが声でわかった。
自分だけが悩んでいたんじゃなく、お互い悩んでいたのかと思うと自然と僕も涙が出てきた。
「そんなことない。僕も同じだから」
「それじゃ……」
「僕も和樹のことが……好きっ」
いつの間にか胸のモヤモヤが無くなっていた。
そしてその日から和樹は僕の事を親友とは言わなくなった。
ある日の放課後。職員室に用事で行った和樹を待つため僕は教室で女の子たちと話していた。
「水原さんっていつも葉梨君と居るよね」
「私もそう思う」
「もしかして二人って!?」
「えへへ、だって僕は和樹の――――」
クラスの女の子たちと話していると和樹が戻って来た。
「葵そろそろ帰るぞ」
「うんっ、今行くよ」
「ねぇ、葉梨君と水原さんってやっぱり」
「あぁ、葵は俺の大事な彼女だ」
コンプレックスを抱えてた時とは違い今は毎日が楽しい。
その後聞いた話だが土地開拓のためあの祠はどこかに移動されたらしい。
今でもどこかもひっそり誰かを待って居るのかもしれない。
読んでいただきありがとうございます
今回で最終回です。
全3話あっという間でしたね
次回また別の作品でお会いしましょう
@huzizakura




