第2話 自分の気持ち
そして入学式前日の昼過ぎ、僕は和樹と1階のリビングでテレビを見ているとインターホンが鳴った。
「俺が出るよ」
和樹が玄関に行き再び戻ってきたかと思ったら大小2つの配達物を持っていた。
「お前宛てに荷物だぞ」
そう言って和樹は隣の和室に荷物を置いた。
宛先を見てみると高校からだった。
「なにかな?」
「開けてみるか」
高校から届いた大きい箱を開けるとそこにはビニールに入った高校の女子制服であるブレザーが入っていた。
僕は箱からブレザーを取り出すと箱の下の方にはワイシャツ、スカート、リボンが入っていた。
そして小さい箱にはローファーが入っていた
「そういえばまだ貰ってなかったな」
「これを来て明日……」
僕は制服を手に取って自分に当ててみた。
寸法はすでに図ってあったため着れるはず。
ブレザーなので男女ほとんど違いは無いがなんだか緊張する。特にスカートなんてどうすれば……
「一度試着してみたらどうだ?」
「そ、そうだね」
僕は着ている服を脱ごうとした瞬間和樹が止めに入った。
「ちょっと待て!」
「ん? なに?」
「お前な今の状況を考えろよ」
「あ、ごめん……」
「隣のリビングにいるから」
「うん、わかった」
和樹は和室を出ていった。
僕はすぐに制服に着替えてみた。
「(スカートってこんなに短いんだ……)」
鏡で自分の制服姿を見ていると隣の部屋から「どうだ?」と和樹が聞いてきた。
「あ、うん。入っていいよ」
和樹は和室に入ってきた。
「おー、似合うな」
「あ、ありがとう」
「お、おう……」
和樹の頬は少し赤くなっていた。
お互い言葉が思い浮かばず無言が続いた。
僕は何かを話さないと思い話を切り出した。
「明日の予定ってなんだっけ?」
「ん? えーっと8時半からクラス分けが貼りだされて9時から各クラスでオリエンテーションして10時から始業式だったはず」
「同じクラスになれるといいね」
「そうだな」
するとまたインターホンが鳴った。
「また? なんだろう」
「俺が出るからお前は着替えとけ」
「うん、わかった」
僕は元の楽な服装に着替えた。
和樹は何やらまた箱を持ってきた。
「また郵便だぞ」
「誰から?」
「えーっと……葵の母さんからだ」
「お母さんから? なんだろう?」
両親とは女の子になった時に1度だけ電話をしたきりだ。
僕は箱を開けるとそこには1枚の手紙とさらに紙袋が入っていた。手紙には「葵へ。いろいろ大変だと思うけど女の子になったからにはこれが必要になるから。それと服代として今月は多く振り込んであるからね」とだけ書いてあった。
紙袋を開けるとそこには女性用の下着が3セットほど入っていた。
「お前それって女物の下着じゃねぇか」
「まぁ僕はもう女の子だからね」
「そうだけどよ……」
「ねぇ、これってどうやって付けるの?」
「俺が知るわけないだろ。ネットで調べれば出るだろ」
和樹は目を逸らして言った。
「そうだよね」
僕は部屋に戻りネットで調べた。
「(えーっと……ここに腕通してこれをここに……)」
両腕を後ろに回したがなかなかホックを付けることが出来ない。でも慣れないと毎朝こんな時間かけてたら大変だ。僕は何度も何度も練習をした。
翌朝。僕は早めに起きて朝食の準備をした。
朝食の準備が終わった頃に和樹が起きてきた。
「おはようー」
「和樹おはよう」
和樹はすでに制服に着替えていた。
「早く食べちゃお」
僕と和樹は朝食を食べた。時間はまだあったが学校までは電車に乗りその後駅から歩くため道や時間を確認したかったのだ。
僕は食べ終わった食器を流し台に持っていくと和樹がワイシャツの袖をめくった。
「片付けは俺がしておくからお前は先着替えて来い」
「良いの?」
「早くしないと早く起きた意味が無くなるだろ」
「それじゃお願いね」
僕は部屋に戻り制服に着替えた。
実際にこの服で外出るのは緊張する。
カバンを持ち1階に降りた。
「お待たせ」
「そんじゃ行くか」
「うんっ」
僕と和樹は一緒に家を出て駅に向かった。
地元の桜は満開で道は花びらで埋め尽くされていた。まるで花びらの絨毯のようだ。
「そういえば和樹は定期券どうしたの? 僕は明日買うけど」
「俺も明日買おうかと。葵は何ヶ月分の買うんだ?」
「ん~、1ヶ月にしようかな。落としちゃうかもしれないからね」
「そんじゃ俺も1ヶ月にするかな」
駅に着き切符を買い改札口を通った。
ホームに続く階段を下りていくと電車を待って居る人の列が出来ていた。
「結構混んでいるな……」
「乗れそう?」
「この駅乗降率高いから大丈夫だと思うけど」
列に並んで待って居るとホームにアナウンスが流れ電車が到着した。
和樹の言う通り大勢の人が降りていった。入れ替わりに僕と和樹も電車に乗った。
電車内を見渡すが座る場所は無い。僕と和樹はドア付近の手すりに掴まった。
「ここからどれくらいかかるんだ?」
「たぶん30分もしないと思うよ」
「結構掛かるな」
電車が各駅に停車する度に大勢の人が人が乗り込んできた。
「混んできたな」
「そうだね」
僕はカバンに入っている予定表を確認しようと掴まっていた手すりから手を放した瞬間突然電車が少し揺れバランスを崩した。
「うわっ!」
すると咄嗟に和樹が僕の腕を掴んでくれた。
「大丈夫か?」
「ありがとう」
ようやく高校のある駅に着いた。ここから高校まで歩いて行かないと。
僕は携帯で地図を確認しながら学校へ向かった。
道中には同じ制服を着た生徒が何人か居た。同じ1年生だろう。僕と和樹はその流れについて行き学校へ向かった。
「やっと着いたぁ~」
正門をくぐり抜けると和樹が遠くを指さした。
「クラス分けってあれじゃね?」
見てみると人だかりが出来ていた。その先にはクラス分けの紙が貼られていた。
僕と和樹もそこへ行きクラスを確認した。
「(見えない……)」
女の子になってさらに背が縮んだせいで上の方しか見えない。何度もジャンプしたが真ん中辺りしか見えず水原という名前は見えなかった。
「あったあった。俺は1組か。葵はどうだった?」
「下の方が全然見えない……」
「俺が代わりに見てやろうか?」
「自分で見たい」
僕は分けの分からない意地を見せた。でも入れ替わりに生徒たちが次々確認していきなかなか見れない。
「しかたねぇな」
そう言うと和樹は僕の脇を両手で挟み高く持ち上げた。
「うわっ、ちょっと和樹!」
僕はとっさにスカートを抑えた。
「ほら早く見ちゃえよ」
「う、うん」
見ると僕の名前が目に入った。名前が漢字一文字なのですぐ見つけることができる。
「あった。僕も1組だって」
和樹はそっと僕を下した。
「俺と同じか。よかったな」
「それじゃ教室に行こ」
僕は和樹と一緒に教室へ向かった。
教室には半数近くの生徒が居た。同じ中学出身同士だろう仲の良さそうな男子生徒や一人で静かに席に座っている女子生徒など居た。
「僕は後ろの席みたい。和樹はどこ?」
「えーっと俺はその左隣っぽいな」
僕と和樹はお互いに席に座った。しばらくすると担任であろう男性教師が入ってきた。
「みんな席に着け」
各自席に着いた。
「みんな入学おめでとう。それじゃさっそく出席を兼ねた自己紹介するぞー。出席番号1番から順にしていってくれ」
出席番号1番から順に自己紹介をしていった。スポーツが得意な人や将来の夢を語る人、中学でのことを言う人などいろいろ居る。
そして和樹の番が来た。
「それじゃ次」
和樹は立ち、自己紹介を始めた。
「葉梨和樹。藤東中出身です。一年間よろしく」
和樹の自己紹介はすぐに終わった。もう少し喋って時間を稼いで欲しかった。
そしてすぐに僕の番が来た。
席を立つとみんなは僕の方を向いていた。
「水原葵です。藤東中から来ました。えーっと、好きな事は料理をすることです。よろしくお願いします」
すごく緊張した。
そして全員の自己紹介が終わり最後に担任の教師が自己紹介した。
「俺は瀬戸浩二。担当科目は歴史だ。よろしく。この後、入学式をやるから各自時間までに講堂に行き自分のクラス番号が書いてある席に座るように。以上。」
僕と和樹も講堂に向かった。
講堂に行くと正面のステージには〝ご入学おめでとうございます〟と書かれた大きな幕が吊るされ先輩方がなにやらいろいろ準備をしていた。プログラムには部活紹介と書かれていたからたぶんその催しをする人達だろう。
「なんだか緊張するね」
「そうか? ずっと座っているだけだけどな。席に座ってようぜ」
そう言って和樹は自分の番号の場所を見つけ座った。
「僕はこの辺りかな」
僕も自分の番号が書かれた場所を見つけ席に座った。
男女別に座るため和樹とは通路を挟んだ反対側だ。
そして時間になり入学式が行われた。
「まずはみなさんご入学おめでとう。我校では―――」
校長先生が挨拶をしてその後は生徒会、部活動紹介などが行われあっという間に終わった。
教室に戻り新しい教科書を配布して今日の予定は終了。
「それじゃ今日はこれまで。それじゃみんな気を付けて帰れよ」
瀬戸先生が教室を出ると教室のあっちこっちでみんなは話し始めた。
「さて俺たちも帰るか」
「うんっ」
カバンに教科書を入れているとどこからか僕の名前が聞こえた。
「俺はやっぱり水原さんだな」
「だよなぁ」
「でも朝、男と居るところ見たぜ」
「彼氏持ちかー」
やっぱり僕の過去を知らない人は普通の女の子に見えるんだ……
「葵、どうした?」
「ううん、何でもない。今行く」
僕は席を立ち和樹と早々に学校を出て家に向かった。
帰りの電車は行き同様混んでいた。僕と和樹は朝と同じドア付近で立っていた。
ぼーっとしていると何かがお尻に当たった。
「ひゃっ!?」
満員だから膝かカバンでも当たったかと思っていたが明らかに誰かが僕のお尻を触っている。
「(これってもしかして痴漢!?)」
僕は和樹に助けてもらおうと思ったが恐怖で声が出ない。
怖い……助けて……
すると和樹は僕の異変に気づいた。
「!? おい、お前!!」
和樹は痴漢していた20代だろう男性の腕を掴んだ。
次の駅で降り駅員にこの事を言い、そのあとは警察が来たりいろいろあった。
僕と和樹はようやく解放され次の電車が来るまでホームのベンチに座って待って居た。
すると急に涙が出てきた。
「おい、どうした!? 」
「あの時、怖くて声も出なくて。でも和樹が居てくれて本当に良かった。ありがとう……」
僕は涙を拭いながら和樹に感謝の気持ちを伝えた。
「俺はお前の親友だからな。親友が困っていたら助けるのは当たり前だろ」
やっぱり和樹は優しい。
「(……あれ? なんだろうこの気持ち……)」
初めて感じる感情だった。
何気ない〝親友〟って言葉が胸に刺さりそれとは別になんだが胸の奥がモヤモヤする。
和樹と一緒にいると楽しいや嬉しいって気持ちじゃない。
僕はその日この気持ちが分からずにいた。
読んでいただきありがとうございます
いよいよ次回最終回です
それではまた
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