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其の十一

「おい、どうなっている」

花世木が苛立ちの声を大佐にかける。

「MD1がやられてもう打つ手がないというんじゃないだろうな」

大佐は、凶悪な目で花世木を見る。

花世木は少したじろいだが、その殺気のこもった目を見つめ返す。

「MD1は基本的には時間稼ぎだ。やられる気は無かったのは確かだが。確実性はひとの兵士より薄い。所詮ロボットだからな」

「だったらどうしようと言うんだ」

「もう少し、時間をひきのばせよ。花世木」

「いいかげんに」

その時、2台の黒いワンボックスカーが現場に入り込んできた。

花世木は舌打ちする。

「おい、何事だ」

黒服が、花世木に声をかける。

「王が、来ました。社長が拉致られたのを聞きつけたらしく」

花世木の表情が曇る。

ワンボックスカーから屈強の男たちが降りてきた。

皆、ジャケットを羽織っているが、その下には対刃対弾アーマーを着込んでいるようだ。

腰に大型拳銃とコンバットナイフを提げている。

男たちの後から、長身の男が姿を現す。

ビジネスマンのような七三分けの髪型の似合わない、分厚い身体の持ち主である。

そして表情が豊かな、濃い顔立ちをしていた。

花世木を見つけると、満面の笑みを浮かべる。

「花世木、助けに来たよ、わたしたち」

「王大人」

花世木は苦渋に満ちた顔になったが、王は気にせずにこやかな表情のまま花世木に歩みよる。

大佐たちは、無表情のまま見物するつもりのようだ。

「やっかいな男に狙われたものね。よりによって」

花世木は、眉をあげる。

「やっかいな男? 何かご存知なのですか?」

「もちろんよ。ハンドレッド・デーモン」

大佐の表情が、少し強張る。

王は、大げさに顔をしかめた。

「指輪物語の映画あるよね。あれに出てくる王子が自分の国取り戻すのに、幽鬼の軍勢をひきつれて戻ってくる」

王は、やれやれと首をふる。

「あれみたいな感じよ。ルワンダ、ダルフール。我が国の特殊部隊は何度も酷い目にあったね。まるで。百の幽鬼に襲われたみたいに」

王は、オーバーアクションで語り続ける。

「音も無く忍び寄り、静かに斬る。百もの幽鬼が襲いかかってきたように、兵たちが斬り殺される。わたしたち、こう呼んでたね。百鬼と」

「百鬼」

花世木は、繰り返す。

王は、うんうんと何度も頷いた。

「なぜか、刀というアナクロ武器がすきね、百鬼は。でも、よかったよ。わたしたち、百鬼を追い詰めた」

「追い詰めた?」

花世木は困惑した声を出すが、王はにこやかな笑みでかえす。

「人質をとって立てこもるなんて、馬鹿なことしたものね。幽霊は神出鬼没だから恐ろしいのに。袋の鼠に自分からなってくれれば、恐くないね」

花世木は少し皮肉な笑みを見せた。

「では、王大人なら、その百鬼というテロリストを殺せると」

「もちろんよ、花世木。簡単なことね」

大佐が背後でむっとなるのを感じたが、花世木は気にせず言った。

「どうやるおつもりですか?」

「正面から行けばいいよ、どうか斬らせてくださいねと」

大佐の怒気が殺気に近づいているが、無視することにする。

「斬らせてはくれんでしょう」

「もちろんよ。斬られるのはこっちね。でも、相手はたったひとりで人質いるから逃げれない。日本刀なんて、せいぜい10人斬れば血脂でなまくらになるね。そこをやればいいよ」

さすがに、正気の発言とは思えなかった。

10人差し出して斬らせると言っているのか、この男は、と呆れ顔で花世木は王を見る。

王は気にせず、にいっと笑って背後の男たちを示す。

「15人用意したよ。こいつらを斬らせる。そして、わたし、とどめさすよ」

「本気なのですか、王大人」

「一人二百万で売る。安いね。困ったときお互い様と日本ではいう。いい言葉。だから安くしとく。どうね?」

花世木は、王を睨みつけた。

王は、うふふと笑い返す。

「判りましたが、即金は無理です。支払いに時間をください」

「決まりね。一筆書いて。ここにサインよ」

花世木は、唸る。

手回しがよすぎるし、やることがふざけすぎていた。

しかし、花世木には選択の余地がない。

花世木は差し出された紙にサインした。

「ありがとう、花世木。では行ってくるね。これは大変なチャンスね。百鬼を殺したとなれば、懸賞金でるよ、国から」

あははと笑いながら、王は自分自身も鞘に納まった長剣を手に取ると、建物へ向かう。

15人の男たちがそれに続く。

大佐は肩を竦めた。

「あの馬鹿、斬られるぞ」

ロシア語でヴォルグに囁きかける。

ヴォルグは苦笑した。

「いいじゃないですか。少しでも弱めておいてもらいましょう。ボカノウスキーたちがつく前に」

大佐は鼻をならす。




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