40話 知らず微笑み
ひたり、
とお化け屋敷特有の背筋を凍らせるような音が響く。
私は、・・・私、歌姫は、正直お化け屋敷が大好きだ。フリーク、という言葉がつくぐらいには大好きだ。
理由は、小さいころの思い出による。今は大嫌いな父親と一緒にお化け屋敷に行ったときのことで、当時私はまだ小学生だった。
初めて入ったとき、怖いって思った。本気で泣き叫んでいたのを今でも覚えてる。お父さんもお化けとかが苦手みたいですごく怖がってたけど、私には強がりを言って胸を張ってお化けを私に近づけないようにしてくれたり、ね。・・・・たかだかお化け屋敷なのに。・・・でもそういうお父さんが私は大好きで、だからこそお父さんと一緒にお化け屋敷に行きたいっていっつもせがんで行ってたらいつの間にか好きになってた。
すごい理由があるってわけじゃあないのよね。ただ、一緒に行ってくれる相手の本質っていうのかな、そういうのが見れる気がするのよ、お化け屋敷って。あえていうのなら、そこかな。
でも、今の状況はこの状況は、嫌だ。私や相手が本当に危険に晒されるなんてことを、私は楽しめない。どころか、小刻みに体が震えているのがわかる。
「・・・・まず、ここを出ようか。危険だからね。」
と後ろから優しい声がかかってきた。たぶん私が震えているのを気遣ってのことだろう。
「・・・・・わかってるわよ、行きましょう。」
気遣われていることがわかっていても、私は強がる。私はこの人が嫌いだから、そういうことをしてしまう。私の、悪い癖だ。
ガタコンッ
「うわっ!?」「ひゃっ!?」
・・・・・。
ちょっとだけ、お化け屋敷ってところが恨めしくなる。いちいち、本当に危険な犯人を連想させるような物音ばっかりだ。
「大丈夫ですよ、私がついていますから。」
にこりと落ち着いた振りして私に話しかけてくる社長。
(相変わらず、・・・・。)
ふふ、と笑った私は、気がつくと今の状況を少しだけ楽しんでいた。