3話 平凡な学生の現実
春らしい暖かい空気を裂いて廊下を歩く。僕が来た、というだけでモーセのように軽く道が開いていく。このある意味での特別扱いに心が沈んでしまう。
「おい・・・、そこどいとけ、あいつが来るぞ。」
「お?うわ、キョウジンか。悪ぃ助かったぜ。」
ちら、と声のしたほうを見ると聞こえた声の主たちが気まずげに目をそらして教室の入り口から離れた。
・・・別に・・・いつもと変わらない、朝。
キョウジン。僕のあだ名だ、狂人って書く。意味はそのまま。狂ったヒト、ってだけ。僕は危険因子らしく、クラスから隔離されたような宙ぶらりんの学校生活を送っている。
呼ばれる原因はわかってる。この状況を招いたのは僕、ある事件のせい。仕方ない、仕方ない。だから、僕には耐え忍ぶことしかできないんだ。
(・・・でも、さ。)
・・・つまらない。学校が・・・楽しくない。僕はこの状況になってから一度も学校を楽しいなんて思えたことはない。楽しくなんて思えるはずもないんだ、別に勉強が得意ってわけでもないし、部活をしてるわけでもない。ここにいることが苦痛で、苦痛で仕方がない・・・。人が、視線が、言葉が、僕を締め付けてはなさない。耐える、耐える、耐える。周りの僕をちらちら見ているやつらは気づかないだろうね・・・この仕打ちがどんなにつらいことか・・・。だから、だからこそ僕は弱みを見せない。このことで涙なんか流さない・・・。あは、はは、・・・流さないんだけど、ね・・・、・・・つらい。
来なければいい、って考えたこともあったんだけどね・・・。実際そうしようとした・・・、でも。
それでも僕にだって将来があって。この学校が終われば大学なり、会社なりに入らなくちゃいけない。そのためには高卒資格は取んなくちゃいけなんだ。だって、それは・・・・あ゛。・・・。・・・ぷは、あははは・・・
「く、ふふ、ふふふふ・・・。」
と自嘲の笑いが出てくる。でも・・・まさか自分の思考での言い訳にあの先生の言葉を使うのか僕は。何やってんだか。やっぱりあの先生に洗脳されてるみたいだなぁ。・・・しかも今の笑い声で周りの生徒がおびえてるし。
「おい。」
「・・・、噂をすればなんとやら、ってやつかなぁ。」
なんてタイミングのいいというか悪いというか・・・。とりあえず『あの』先生が目の前にいる。名前は・・・・忘れた、性別、女。長い黒髪と抜群のプロポーションが大人の魅力を際立てていて、主に男子生徒から人気がある。ま、微妙に悪い噂もあるけどね。
「・・・噂?お前に噂をする相手なんかいたか?なぁ、狂人。」
「うるさいですね、つうか先生が言えることですか?ねぇ、『キョウジン』先生。」
むむむむむ。漫画だったら視線同士がぶつかって火花が散っていたところだ。
「「・・・フフフ、フフフフフフフフフフフフ・・・。」」
・・・周りから本気で危険性の高い変質者を見る目で見られている。つうか僕らの噂がしたいんだったらもっと離れてやれよ、丸聞こえから。いやそこのヒソヒソ声で話してるつもりの男子、怖い顔してるのは先生だけで僕は天使のような笑顔だから。そこんとこわかれ。・・・あ、そう。それがだめなの。・・・ふ、ふーん、知らないもんね。どうせ僕はデフォルトでそういう目で見られてるし〜。困るのは先生だけ、僕は知りませ〜ん。
ぎろりっとありえない音が聞こえたっぽいので見てみると先生がこっちを見てるやつにガンつけていた。もちろん相手はビビッて目線をそらす。何だろう・・・若干哀れなクラスメートだなぁ。ありえないのはわかってるけど、仲良くなれそうだ。絶対気持ちは通じると思う。
「おい。」
「??・・・なんですか、センセ。」
「あとで数学準備室に来い。話がある。」
「う〜ん、生徒をデートに誘うとはいい根性してますね。しかも密室。捕まりますよ、キョウジン先生。」
・・・あ、キョウジンがキレた。顔を真っ赤に染めている。殺されたなこりゃ。・・・ああ〜、短い人生だったな、僕。もうちょっと生きる予定だったんだけどなぁ・・・。残念。
「・・・・はぁ。まあいい忘れるなよ。放課後数学準備室だ。じゃあな。」
そう言うと教卓へ行ってしまった。怒らないのか、びっくりして損した。・・・う〜ん、なんだろな話って。本当に想像したとおりデートだったりすんのかな・・・。・・・ないか。
とりあえず僕は、周りからちらちら見られていることに気づかない振りをしてかばんをあさることにした。
あ、数学の教科書忘れた。あ〜あどやされるネタができた、やだなぁ。
一章ってあるのからわかるようにこの物語、かんなり長いです。
がんばって完結させるんでどうぞ黒田猫男にお付き合いください。