38話 あまりに突然な
「狂人さん!!いったい何がどうなったんですか!?」
お化け屋敷の出口に戻ってきた僕に、落ち着かない様子で問いかける歌姫。リアルな身の危険に、体が震えてるのが目に見えてわかる。
「とりあえずもうすぐで社長さんがここに来る。それまで待機してよう。」
??っと頭をかしげた歌姫に、僕は社長がこっちに向かって走ってきていることを伝える。すると安心しつつも嫌悪の表情を隠せない顔で、つぶやいた。
「一人で・・・逃げてるんですか・・・・。『K』さんを置いて・・・。・・・・・ほんとに・・・最低。」
非常事態にモラルを考えている暇なんてないだろうに、と思いつつも再び鬱々とした顔をし始めた歌姫の前に、息を切らした社長が姿を現し、こう叫んだ。
「『K』が・・・『K』が私の身代わりになって!!早く・・・早く来てください!!!」
と言うと、呆然としている歌姫と僕の手を引いて幽霊屋敷を逆戻りし始めた。
「もうすぐです・・・・。」
薄暗く、狭い道を転ばないように走ってきた僕らは、息を切らしながら進み続ける。僕らが来たときの道とは違うもう一方の道で、走る僕らのすぐそばを、現実にはありえない、粘液を帯びた魍魎たちが擦り寄ってくる。
その気味の悪さとそれを作った制作者の性格の悪さの両方に吐き気を催しながら、目的の場所に僕らは着いた。
「えっ!!?」
そこには。
さっきまで見ていた、スーツ姿の。
先生がいた。
通路から少し離れたところにある、壁。
そこに、だらんと体の力が抜けたように、
あるいは、十字にはりつけられたキリストのように、
血にまみれた先生が、ぶら下がっていた。
・・・・・僕らは、現実離れしたその光景に、その場で凍りついた。