恋のおまじないその2
「ったく、観察させてほしいってどういうことだ?」
健人は奈緒と別れ、すっかり暗くなった夜道を一人帰りながらそうつぶやく。
お互い家までの最寄り駅が同じため、健人は何度も奈緒に観察の意味を聞いたが、「特に意味はないよ!ただ観察したいだけ」と笑って答えるばかりだった。
健人にとっては、随分と引っかかる内容だが、協力してくれることは正直ありがたかった。いきなり麻衣さんを誘って二人きりで遊ぶなんて、学校のほとんどの男子生徒を敵に回すようなものだからだ。
それでも健人にとっては、当初の目的であるおまじないその1をクリアしたことになり、条件のことは家に帰り着いたころには深刻に考え込むことはなくなっていた。ご機嫌に自分の部屋に戻る。
さて、お待ちかねのおまじないその2を見るぞと思いながら、パソコンを起動させ、すでにお気に入りに追加したHPを開いた。HPを開いた瞬間、人の声が流れることを以前経験しているため、健人は音量はミュートにすることを忘れていなかった。「おまじないその1をクリアした君はその2を見てね☆」と書いた文字を発見したため、興奮と少々の緊張感をもってその文字をクリックし、次のページが開くことを待つ。
クリック後、すぐに次のページが開き、書いてある文章を黙読する。
『あなたの片思いを叶えます!恋を成就させる7つのおまじない!その2」
県内で一番大きな神社へ行き、好きな異性と二人きりで参拝をする!但し、自分、好きな異性、おまじないその1でカミングアウトした最も親しい異性の3人で神社に行くこと!制限時間:1週間以内
・・・なんだこのおまじない!
健人は純粋に心の中でそうツッコんでしまう。
毎回ながらこのおまじないには驚かされてばかりだ。
健人が住んでいる県内で一番大きい神社といえば保野下神社だ。そこは運悪く、健人の住んでいる地元からはかなり遠い場所にある。いや、人目を気にしがちな健人にとっては運良くなのかもしれないが。
健人は一度気持ちを整理して、もう一度その2のおまじないを読み直す。
保野下神社に行って二人きりで参拝をする。そこは何かカップルっぽい。そこは分かる。だが、参拝は二人きりでも一緒に行くのは3人。その1でカミングアウトした異性を入れて3人。同性の友人ではダメ。もちろん同性の友人を含めて4人もNG。
健人は冷静に噛み砕きながら現状を把握した結果、一つの結論に至った。
・・・協力してもらってて良かった。
正に結果オーライである。もしあの時、奈緒の協力要請を断固拒否していたら、さすがにお願いしづらくなるところだった。恥を忍んでお願いしたとしても、恐らく3000円分くらいのケーキを奢らなくてはならなかったかもしれない。いや、奈緒のことだから1000円くらいで協力してくれるかもな。と健人は協力拒否した場合のシミュレーションをしていた。
制限時間は1週間か。まだ春休み初日だし、春休み中には何とかなるだろう。と健人は軽い気持ちでいた。しかし、相手はあの友達が多い麻衣さんである。予定がほとんど埋まっているに違いない。しかも、塾とピアノ教室に通っているとの話を友人から聞いたことがある。
実は1週間とはかなり厳しいのではないか、早々に約束しないといけないのではないかと健人は思い、スマホを操作して麻衣さんとのトーク画面を開いた。しかし、遊びを誘うにもあの麻衣さんだし、かなり勇気がいる。3人で遊ぶことになるとはいえ、健人はかなり緊張していた。