プロローグ 〜Another side〜
その日は、簡単な任務のはずだった。街で人を喰らうと噂になっている鬼、その実力も大したものではないと聞いていたので、俺は一人で任務についた。
臭い、不愉快になる悪臭、鬼の臭いがこの路地裏からは漂っていた。
「くっせ。ほんとこの臭いはイライラするな。おい、居るんだろ、出てこいよ。そんなに殺気を垂れ流してたら、幼稚園児でもわかるぜ?」
俺が声を上げると、ソイツは現れた。
「貴様、何者だ。ただの人間ではないな」
化け物はそう問いかけて来た。だが俺は答えない。
「気に食わぬ。なぜ答えぬ、人間、今一度問うぞ。貴様は何者だ」
「あのさぁ...」
俺はため息をついて、右腕を横に伸ばし、空間を、切り裂く。
「俺が誰か、なんてことはこの際どうでもいいんだよ。お前はここで死ぬ。俺が殺す。これから殺される奴に名乗る身分なんてねえさ」
切り裂かれた空間から、一本の刀を取り出し、鞘から刀を抜く。
「さぁ、構えろ。無抵抗の奴を殺すのは趣味じゃない。殺し合おうぜ...屍喰鬼!!」
地面を蹴る。目標との距離は5m弱。一瞬でカタを付ける!!
奴は俺のスピードに反応が追いついて無いのか、未だピクリとも動かない。このまま終わらせてやる!俺は奴の首をめがけて一閃する。
「...なに?」
「どこを見ている。人間。」
「くそ...!」
化け物は一瞬で俺の後ろへと回り込んでいた。
俺は振り向きざまに刀を振りながら後ろに下がる。
「初めて見るが。そうか、貴様退魔師か。」
「だったらどうした!」
再び奴に向かって突進する。今度は奴の鋭い爪とつば競り合いになる。が、力で人間の俺が鬼である奴に勝てるはずもなく、すぐに弾かれて頭を掴まれてしまう。
「ぐっ...!」
「終わりだ。退魔師。このまま貴様の頭を潰す、それで終わりだ。」
しかし、奴はこの時俺を掴んだのは失敗だった。次の瞬間。俺の頭を掴んでいた奴の腕は突如、切断された。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!!!」
化け物は痛みを受け叫ぶ。
「失敗したぜお前。俺を殺すなら、さっき弾いた時に、頭を掴むんじゃなくて首をはねるべきだったな」
俺は目の前で痛みを訴える化け物に刀を向ける。そして、奴の首をはね飛ばした。
これで死ぬかは分からないので、念のため四肢を切断しておいた。さて、後は帰るだけだが。
その時、アイツは現れた。
綺麗なブロンドのロングヘア。整った顔立ちに中々の胸、うん、結構好みだ。しかし、見られちまったな...まあ、チャンスくらいはやるか。
「ん?誰だ。なんだ人間か。全く、なんてタイミングで現れやがる...しかし、見られたなら仕方が無いな。おい、選ばせてやる、選択肢は二つだ。一つは運命に従いここで何も知らぬ幸せなままで死ぬ。もう一つは、運命に抗い、俺とともに来ていつか果てる。さあ、選びな」
ソイツは少し震えながら、口を開いた。
「わ、私は...死にたくない...」
何故だろう。ソイツが「死にたくない」と口にした時、少しだけ、嬉しかった。
「そっか、死にたくないか。なら、話は早い。こっちに来い。」
少女が近付いて来る。そして、俺の前まで来たところで、俺は無言で少女の腹部にボディブローを入れた。少女は失神する。
「悪いな。ホントはこんなことしたくないが。これも決まりでね、今後の返答次第じゃ殺すことになるから、まだ場所を知られたら困るんだ。」
俺は気絶している少女を抱き上げ、機関の支部へと向かう。今日も...月は深紅に染まっていた...。