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彰人さんのおひげ【番外編】

拍手みたいなものです。

 毎朝、口の周りに広がる不快感に眉をひそめる。

 童顔と呼ばれる僕だが、髭が生え始めたのは意外に早く、中学生の頃だった。

 あの頃はまだ旭斗より背が高くて、生徒会長なんかもやっていたから、結構モテた。

 そんな時、僕の口の周りにランダムに生えたそれは、モテたい僕をいともたやすく絶望させた。

 ……どう頑張ってみても、似合わないのだ。

 僕としては、肉体派だしワイルド系になりたい願望があった。

 でも顔がどう見ても子犬ちゃんなのだ。

 同じつり目つり眉でも、旭斗とは大違い。

 切れ長な旭斗に対して僕はくりくりなのだ。

 中学生というのは可愛さや優しさより格好良さを欲しがる。

 僕もそうで、この可愛い顔がコンプレックスだった。

 だから他の面で格好良くなろうと思った。


 まずは得意な武道。

 柔道、剣道、空手、ボクシング、レスリング、フェンシング……とにかく思いつく限り全ての武道、スポーツで段や賞を取っていった。

 勿論球技や陸上も、それこそその部活をやっている人達に恨まれるくらいに。

 元々僕は怪力で、身体を動かすのも得意だった。

 ――それから勉強。これも元々素質があったみたいで、そんなに頑張らなくてもすぐに一番になれた。

 それから文化部の助っ人も喜んで引き受けて、僕の株を上げた。

 ヲタクだから絵を描くのは得意中の得意だし、歌も楽器も、文章を書くのも大好きだ。

 そして僕は営業向きの性格で、上手いこと取り入ってついに生徒会長という、学校最強の座に就いた。

 モテてモテて毎日ウハウハだった。

 でも、心は満たされなかった。


 それはきっと、本当に隣にいて欲しいヒトに隣にいてもらえなかったからだと思う。

 ――玲奈ちゃん……。僕は小学生の頃、玲奈ちゃんという女の子が好きだった。

 近所に彼女しか女の子がいないからというのもあったかもしれない。

 でも、僕は例えそうじゃなくても玲奈ちゃんを好きになっていただろう。

 サバサバしているのに乱暴じゃなく、優しくて可愛くて天然で、純粋で……。

 自分を良く見せようとか考えてなくて、打算では動かない。

 それは都会に住んでいたらまずなれそうにない性格。

 山奥で天然培養された一級品だ。

 僕は玲奈ちゃんと違って、頻繁に山を下ることがあったから、都会の汚さを知っていた。

 自分が恵まれた容姿をしていることも。

 だから全く相手にされないのは少し燃えた。

 負けず嫌いなんだ、僕。


 *********


「あっはっはっはっは……! 嘘、ぜんっぜん似合わない! ナニコレ、付け髭!?」

「もー、ヒトゴトだと思ってー!」

「他人事だよ。だって私、髭なんて絶対に生えないもん」

 ……まあそうだけどさ。ここまで盛大に笑われたら流石の僕も傷つくってモンだ。

「毎日剃るの大変なんだからね!? 僕のは濃いから夕方にはもう生えてきちゃって、メイクのタケちゃんに“憎たらしいお髭”って言われちゃってんだから!」

 でも実際、タケちゃんの方が剛毛な髭してるんだけどね。

 彼(彼女?)は割れアゴの大男で、一度見たら絶対に忘れられないビジュアルのオカマちゃんだ。

 でも僕が思いっきりクマ作って生に挑んだ時も、綺麗にクマを消してくれたし、メイクの腕が確かなのはわかる。

 ……ぶっちゃけ、キャラも相当立ってるし、タレントとしての道もあると思う。


「憎たらしい……ねぇ。でも私は好きだなぁ、この髭」

「……えっ? でも似合わないんじゃ……」

 今まで長いこと付き合ってきたからわかる。僕にこの髭は似合わない。

 そりゃ、これから十年、二十年と時を重ねていけばそのうち似合う時が来るだろうけど、童顔な僕じゃいつになることやら……。

「確かに似合わないんだけど、それもひとつの味っていうか、私は彰人であることが大事だと思うの」

「どういうこと?」

「テレビが勝手に作った“王子様な彰人”っていうイメージとはかけ離れた、本当の彰人自身っていうの? なんかそんな感じ。飾ってない本物の彰人が私は好きだなって……」

 今までずっとコンプレックスだった。

 似合わないのになんでって言われ続けて、嫌になっていた。

 これが本当の自分なのに、みんな勝手なイメージで僕を否定していた。

 でも、目の前の彼女は違った。

 本当の僕が好きだって言ってくれた。

 勝手なイメージなんか持たなくて、本当の僕を見てくれた。

「……こりゃあ本格的に惚れちゃうのも仕方ないか……」

「ん? なんか言った?」

「ふふっ、なんでもないよ」

 ああ、ベタ惚れ確定だ。

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