偶然!? 必然!? 魅惑のアイドル様!
他作品優先なので、ちょっと亀更新です。
ヒロイン以外は自サイト作品のパラレルです。
人間には人生に三度、モテ期が来るという。
私は多分今から二十年ほど前に一度モテ期を迎えていた。
私は地方のド田舎の山奥で生まれた。
小学校と中学校が合体した分校に通っていたが、そこには私を合わせても六人しか生徒がいなかった。
しかも私以外は全員男だった。
老人ばかりの村で遊び相手が彼等しかいなかったため、私は自然と男勝りに育った。
山奥には公園もデパートもない。
子供が遊べるところなど、森や川だけだった。
木登り、戦いごっこ、冒険、虫取り……そんな昭和の男の子みたいな遊びしか知らなかった。
私以外に女の子がいなかったため、女の子らしい遊びをしたいとも思わなかった。
でも不思議と、そんな男の子みたいな私を彼等は取り合っていた。
ある程度大きくなると私は“姫”と呼ばれ、ちやほやされるようになった。
私はそれが煩わしくて、彼等を避けるようになった。
――そしてついにその日はやってきた。
男の子全員から、一斉に告白されたのだ。
今思えばそれが人生のピークだったんだな……。
でもその頃の私は彼等を男として全く意識しておらず、なんだか適当なことを言ってはぐらかした。
……その後すぐ彼等と別の中学、高校に入学して、そこそこの成績でなかなかの大学に入り、大手菓子会社の広報課に就職した。
そして今、私は彼等をふったことを全力で後悔している。
山奥で何も知らずすごしていた頃は気づかなかったが、世間には彼等ほど恐ろしく整いまくった容姿の男などほとんどいなかった。
しかもあまりに彼等にちやほやされる生活に慣れすぎて、私が内面外見共に全くモテない人種だということを知った時にショックが大きかった。
そこそこいい成績を取っていればまあ、人生なんとかやっていけるでしょ……そんな甘い考えは、故郷を出て暫く経てば消えた。
娑婆は……娑婆は甘くなかった……!
夢見がちな田舎者が天下の大都市東京で揉まれ擦られてもうすぐ十年。
……そろそろ結婚しなきゃ本当にお先真っ暗だな……。
未来に対する絶望に押しつぶされ、狭いワンルームでスーツのまま脱力していたら、いつの間にか寝ていた。
……ああ、明日は仕事で大事なお客様が来るのに……。
そんなことを頭の片隅でほんのり思っても、ルーチンワークの疲れは一気にそれをかき消した。
**********
朝、なんとか予定通りに起きることができた私は、スーツのシワとボサボサ頭と老け込んだ顔をなんとか誤魔化し、いつもより早く出社した。
いつもより一時間も早いはずなのに、広報課のオフィスは沢山の人で賑わっていた。
そのほとんどが女性なのを見て、ああ、この会社はミーハーが多いなと少しだけウンザリした。
「いいかい川村君、今回のお客様は大変重要な方だから、くれぐれも粗相のないように! ……あ、あと、娘がサインもらってきてって言ってたからそれもよろしくね」
「……はい」
課長がピリピリしたムードで話しかけてきた。
……後半の情けなさでピリピリした真面目さが台無しになっていて、私は呆れてため息のような気の抜けた返事をした。
広報課には元々、私より年上の所謂お局様と呼ばれる人がいたのだが、彼女が寿退社してからは私が最年長で、お局様という嬉しくない肩書きを譲り受けてしまった。
私より偉い立場にいるのは男性ばかりで、女性の方が適任な重要な仕事は全部私に回ってくる。
特に今回の仕事は若い子には任せられない。それは今日の現場の空気を見てはっきりわかった。
……今日は課長が言った通り、本当に大事なお客様が来る。
新商品のイメージキャラクターに選ばれ、CMの出演が決まった国民的超売れっ子アイドルグループ“desire”のリーダー、井上彰人。
彼は毎年抱かれたい男ランキングで首位を独占していて、メディアからは“日本一モテる男”と言われている。
私は芸能人に興味がないためどうでもいいが、天下の井上彰人と話すなど若い女の子なら失神しかねない。
さらに今回は彼一人だが、これからは全員来るとなれば女性社員は仕事どころではなくなる。
しかし彼等は“女でなければ話はしない”と要求してきたのだ。
……流石“欲望”の名を持つアイドルだ。
彼等は外見に似合わない欲望に忠実なエロさや、サバサバしたトークで人気を博した。
チャラ男という訳ではない。ほどほどに下品で“妖艶”なのだ。
下品な話をしても上品に見える外見や所作が女性から支持され、女性に対するマニアックな趣味や本格的なヲタク知識が男性に支持された。
……つまり彼等は本物の国民的アイドルなのだ。
今や彼等を嫌う人間などいない。
そんな彼等と対等に話すためには、私のようなサバサバした性格の女が一番適任なのだ。
**********
「どうぞこちらへお座りください」
「あ、はい。ありがとうございます。彰人さんはもう少ししたら来ると思いますから、ちょっと待ってもらえますか?」
多忙なアイドルが時間通りに現れるはずがなく、彼等のマネージャーが謝罪に来た。
目の前の男は年の頃二十代中盤といったところか……。
若さゆえまだ肌に艶があるものの、疲れからか幾分老け込んで見えた。
お洒落で伸ばしている訳ではなさそうな顎髭、鷲鼻、太めの下がり眉、黒縁の大きな四角い眼鏡、ボサボサの天然パーマを後ろで小さな一つ結びにしていて、全体的に見るといかにもヲタクくさい。
思わずお祓いを勧めたくなるどんよりした表情も、強烈な猫背も、ますますヲタクくささを助長していた。
「あ、すみません。挨拶が遅れました。こういう者です」
目の前の男が思い出したように立ち上がり名刺を取り出したので、私も慌てて立ち上がり受け取った。
名刺にはシンプルなフォントで“佐藤功貴”と控え目に印刷されていた。
「わざわざすみません。私はこういう者です」
私も同じように名刺を取り出した。
彼は私の名刺を見ると急にぎょっとして、弾かれたように顔を上げ、私を凝視した。
そして暫く私の顔を眺めた後、納得したような顔で名刺をしまった。
「……なるほど、だからあんなに……」
「あの……どうしたんですか…?」
「いえ、なんでもないですよ」
目の前の男――佐藤さんは一人で納得してうんうんと頷いていた。
私がいくら尋ねても、彼は教えてはくれなかった。
結局私が彼からその理由を聞く前に、今回の主役が現れてその話はうやむやになったのだった。
「――という訳で今回ビターテイストで大人向けをコンセプトにしたチョコ“クレシタ”のイメージキャラクターに選ばれたのですが……そのCM曲は……」
「うん、できてるよ。名前通り“成長”をテーマにした歌詞にしたんだけど……ちょっと最終確認してくれるかな……?」
井上さんはテレビで見るよりもっと気さくな人だった。
しかも頭が良いらしく、話の先を読んでフォローしてくれたり、上手な切り返しで場を和ませたりしていた。
こんな人だから芸能界で上手く立ち回れるのだろう。
「ありがとうございます。……博学なんですね。――あ、凄い。イメージに合ってる」
井上さんから歌詞を受け取って目をやった。
この人は作詞や作曲も得意で、desireの曲も彼が書いている。
流石毎回オリコン首位独占しているだけあって、良くできた歌詞だった。
私が素直な感想を口にすると、井上さんは子供のように無邪気に笑った。
その笑顔がテレビでの彼のイメージとかけ離れていて少し驚いた。
「君にそう言ってもらえて嬉しいよ。この曲は君を想いながら書いたんだ」
「えっ!? えっ……あのっ……失礼ですが私達、前に会ったことありましたっけ……」
そこまで言って私は慌てて口を塞いだ。
ヤバい! これは彼なりのファンサービスなのに、本気にして返事をしてしまった……。
……でも、さっきの笑顔を前にどこかで見たような気がするんだ。ずっと昔に何度も見ていたような気が……。
でもそれはきっと私の思い違いだ。
だって知り合いにこんな大物がいたら、私はきっと忘れてなんかないと思うから。
でも目の前の顔はなぜだか残念そうで、私が言葉の選択を間違ったことだけがわかった。
「――本当に、覚えていないんだね……」
「……えっ? あの、すみません。私、覚えてなくて……」
「ああ、いいんだ。君が忘れているなら無理に思い出さなくていい。じゃあもうそろそろ時間だからさようなら」
井上さんは微妙な空気ともやもやした気持ちだけを残して去っていった。
私は一体、何を忘れているんだろう。
思い出そうとすればするほどもやもやして記憶が不明瞭になる。
結局その日一日中そのことばかり考えていても、思い出すことはできなかった。
**********
井上さんが謎の発言をした日から少し経ったある日、私は大通り沿いのイタリアンで昼食をとっていた。
お局様というのは意外とストレスが溜まるので、お金がなくてもこうしてちょっと外食しなければやってられないのだ。
特にここ最近は新商品のことで色々と仕事が増えたり、仕事でアイドルに会えることを妬ましく思った女性社員からの攻撃が来たりと、まあ大変だった。
だからこうやってやっと来た休日に一人で誰にも邪魔されずにゆっくり美味しいものを食べるだけで幸せなんだ。
安い女だとか孤独だとか、そんな言葉はもう聞き飽きた。
いいんだ。どうせ私は何をやってもモテない自信があるから、最初から媚びない。
そういうサバサバしたところに惚れた……なんて珍しい男もいるけど、それも長く続かない。
男の方からつまらないって別れを切り出される。
あんたが告ってきたんだろうが! とちょっとイライラするけど、まあ仕方ないと諦めることにした。
一人が楽。働いても働いても一向に貯金は増えないけど、家庭のことでイライラしたり、家事に追われたり、男に心を乱されたりしなくていい。
そんなことを考えていたらいつの間にか目の前には美味しそうなミートソースパスタが置かれていた。
周りの視線が痛いけど、お一人様歴が長いとそんなに気にならなくなる。
……うん、ここのパスタはいつも美味しい。
やっぱりテラス席にして正解だった。
こんなにいい天気なら外の方が美味しく感じる。
食べながらふと視線を大通りに向けると、ビルに設置されたモニターが今放送中のバラエティーを映していた。
職業柄ついCMやステマが気になってしまうけど、今回はちょっと違った。
メインゲストにdesireがいたのだ。
いくらサバサバしていてあまり気にしないと言っても、やっぱり実際に会った人がテレビに出ていれば興奮する。
私はパスタを食べつつ視線をモニターに集中させた。
話題は恋愛の話になり、ゲストの恋愛について司会者が質問していた。
『いやぁ、やっぱり皆さんはこれだけ格好良いから、学生の頃だって相当モテたでしょう』
『いやいや、そりゃモテたけどね、そういう、男女の関係? とか恋愛には発展しなかったよ』
司会者の質問に井上さんは意外な答えを出した。意外だと思ったのは私だけではないらしく、スタジオからも意外そうな声が聞こえてきた。
『いや、本当だぞ? 俺達は一途だったからな』
『そーそー、みんなあの子以外に興味なかったもんな。――あ、もちろんエロいのは興味あったけど』
『会えない間もあの子のことばかり考えていました。いつかまた会えたら、次こそもう離しませんよ』
『そうだな。俺達の家に住ませるのがいい……』
井上さんの弟であり、サラサラのストレートヘアーと切れ長の目がアピールポイントの男は井上旭斗。
やんちゃそうな無邪気な笑顔とポンパドールの茶髪がトレードマークの男は黒木弘太。
気の強そうな猫目とホスト風の髪型、つっけんどんな敬語が特徴の男は天本仁。
身長一八七センチの筋肉質で大柄な男は山下聡也。
彼等の大胆な発言に会場もテレビの前の女性もみんなうっとりとため息をついた。
一度で良いから彼等から愛されたい、と。
『――そ、その女性は随分幸せ者ですね……』
『そうかなぁ? 僕達の実力がまだまだだったから振られたんだよ』
その井上さんの一言で会場もモニター前も驚きの声を隠せていなかった。
『ふっ、振った!? あなた達をですかっ!? そりゃまた随分と目の肥えた美女だったんですねぇ……』
『いや、彼女はごく普通の女の子だったよ。……ただ、可愛くて、僕達を惚れさせる天才みたいな子だったけど』
隣の席の女の子から悪態が聞こえてきた。
その女が憎くて仕方ないらしい。
『――もしお前が良ければ、俺達はいつだってお前を迎えに行く。だからこれを見ていたら返事をくれ――“姫”っ!』
旭斗さんの口から放たれた聞き覚えのある言葉に、私は鼻から盛大にパスタを吹いた。
「ぶっ!」
周りの視線が一気に集中した。
うう、恥ずかしい。
そういえばこういうことをする芸人がいたような。でもあれはうどんだからまだ被害が少なくていい。
私の場合パスタだ。しかもミートソース。
鼻の奥にトマトの刺激と挽き肉が絡まって大変痛い。
この場合、パスタはどうしたらいいんだろう。鼻から引っ張り出す? それとも口から? このままでいる訳にもいかないし。
でもそれはそれでなんだか痛そう。
しかも鼻に入ったものがまた口に辿り着くのもなんだか抵抗がある。
鼻のパスタはそのままに、そうやって乙女らしくないことを色々考えていたら、大通りを歩いていた長身の男性に凝視された。
うう……すみません、鼻からパスタ出してる女なんて珍しいですよね。
しかもその男性は何を思ったのか徐々に私に近づいて来た。
恥ずかしいし意味がわからない。
「――夢みてぇだ! まさかこんなに近くにいたなんて!」
「えっ? あ、あのっ、人違いでは?」
長身の男性は意味不明なことを言いながらどんどん距離を詰めていった。
何これ、なんか怖い!
「この俺に限ってそれはねぇ。――十年以上経っても変わらねぇんだな。俺のこと、覚えてるか? “姫”」
目の前の男はテラスに寄れるだけ寄って、私にだけ聞こえるようにそっと囁いた。
……あれ? この声、なんか聞き覚えがあるような。
それに“姫”ってもしかして……。
目の前の男は私が何か叫ばないように私の口を塞ぐと、反対の手でちょいっとサングラスを押し上げた。
変装でマスクや帽子をしていてもその顔は紛れもなく“井上旭斗”本人で、私は口を塞がれて正解だったなと思った。
「ちょっと待ってろ、今そっちに行く」
旭斗さん――いや、旭斗は急いでレストランの中に入ると、テラスにいる私を掴み、お札と伝票をレジに押し付けて出ていった。
私は鼻からパスタを出したまま、このアイドル様に誘拐されたのだ。
途中、あまりにも私の風貌が人目をひくため、旭斗は鼻のパスタを取ってくれた。
……鼻からパスタ出した女連れてりゃ、まあそりゃ恥ずかしいだろうよ。
それから私にマスクとサングラスと帽子を渡した。
これはどう見ても変装セットだ。
私に変装しろと言うのか。
「顔見られたら色々ヤベェから隠しとけ。大丈夫だ、もしもの時は俺が守る」
あ、そうか。いくら幼なじみと言っても、旭斗は超売れっ子のアイドル。女と一緒にいるのがわかればイメージが悪くなるし、色々厄介だ。
今日はボーイッシュな服を着てて良かった。私は旭斗から帽子に髪をしまう方法を教えてもらって、いかにも男の子ですという雰囲気を作った。
**********
「うわ、デカッ!」
「当たり前だ。お陰様で儲かってるからな」
旭斗はいかにも値が張りそうな高層マンションに入った。
いくつもの面倒なセキュリティーをクリアして、直通エレベーターで最上階まで一直線。
……庶民には一生縁のない場所だ。
フロアをほぼ全て独占しているんじゃないかというほど、どでかいお部屋。
そんなところに彼は住んでいるのか。
――贅沢者め。
「ただいま。喜べ、そして俺を誉め称えろ! 今日は土産にいいものを持って帰ったぞ」
旭斗が玄関でそう叫ぶと、中からわらわらと出るわ出るわ…旭斗のお仲間であるdesireのメンバーが全員顔を出した。
「えっ!? 嘘っ! 本物連れて来たの!?」
「……これは夢か……?」
「まさか誘拐、ですか? でもこうして本人に会えるなら……それもまた良し、ですね」
「あちゃー。旭斗……僕だって我慢してたのに……」
モノマネで二番から登場したご本人って、多分こんな気持ちなんだろうなあと少し思った。
「えっと……みんな、久しぶり。そして彰人、この前ぶり」
今までなんで気づかなかったんだろう。
彰人はやっと気づいたかあ……と困ったように頭をかいた。
「えっ!? じゃあやっぱり次のCMの仕事で話をするのって姫だったの!?」
「同姓同名という可能性もあったが、本当に本人だったか」
弘太と聡也が驚いた顔をしている。
彼等の話から、なぜあの時彰人があんな態度だったかわかった。
「じゃあ彰人達は私と仕事することわかってたの!?」
「うん。ま、半信半疑だったけどね」
彰人達だけ私のこと気づいてるのはなんかずるい。
「なんであの時教えてくれなかったの!? 言えば気づいたのに」
抗議の意味も込めてそう尋ねると、彰人は至極彼らしい理由を言った。
「だってさ、なんか負けた気になって悔しいじゃん。僕達ってそんなに印象薄い? って思ったら自然と意地悪しちゃった」
「い、印象薄い訳ないじゃん! あんなに一緒にいたのに……。でもあの頃は彰人達のことなんとも思ってなかったから、こんなにすごい人になってるなんて信じられなくて……ごめん」
それは本音だ。
私の中では彰人達はいつまでも“仲良しの男の子”で、“すごい売れっ子アイドル”ではないのだ。
だから世間のイメージと自分のイメージとの間に差がありすぎる。
きっとそれが気づかなかった理由だろう。
私が申し訳なくなって頭を下げると、その後頭部をぽんぽんと撫でられた。
うう、身長ちっちゃいの気にしてるの、知ってる癖に!
「ふふっ。そんなに謝らなくていいよ。悪いのは僕達だから。……うーん、もしそれでも謝りたいって言うならそうだなぁ……この家に一緒に住んでもらおうか」
――はい!?
今一瞬で話が大きくなったような……。
でも焦る私をよそに、彼等の中ではその話が本決まりになりつつあった。
「ちょっと待ってよ! 私っ、そんなの……とにかく駄目だってば! ちょっと考えればわかるでしょ!? イメージ下がるし、この業界から干されちゃうよ!?」
私が慌てて止めても無駄で、彼等は全く聞く耳を持たない。
焦る私をよそに、彼等の話はどんどん現実味を帯びてきた。
……どうしよう、こんな……アイドルと知り合いなだけでなく同居することになっただなんて誰かに知られたら、本当に私、消される!
「――大丈夫だ、安心しろ。さっきも言っただろ? もしもの時は俺がお前を守るってな」
私が真っ青な顔でうろたえていると、旭斗に抱き寄せられた。
いくら家の中だからって、ファンの子達に申し訳なさすぎる。
「や、止めてよっ! そういうのはドラマでやって!」
「そうだよ旭斗。玲奈ちゃんはみんなのもの、玲奈ちゃん本人が誰か一人に決めるまで抜け駆けは禁止って昔決めたじゃん」
えっ? どういうこと……?
私が彰人の発言に戸惑っていると、旭斗が仕方ないといった風に私から離れた。
「旭斗さん抜け駆けしようとしてたの!? うわっズルッ! 強引なのは玲奈さん怯えるから止めようって決めてたのになぁ。旭斗さんがそういうつもりなら俺だって」
「そうだな。やった者勝ちなら俺も動き方が変わってくる」
弘太はともかく聡也まで!?
弘太は年下でちょっとやんちゃだから色々甘えられた覚えがあるけど、聡也は年上だし、クールで落ち着いててなんかストイックなイメージがあったから意外だった。
「俺も、ちょっとぐらい攻めてみても、バチは当たらないでしょうね」
「そっか、抜け駆け禁止じゃなくて早い者勝ちならそれもある意味フェアかもね」
仁や彰人もやる気満々でニヤニヤ笑っていた。
……もうヤダ。なんで望んでないのにアイドルに好かれなきゃいけないの?
そりゃ確かにイケメンだし、嬉しいよ。
でも、代償にするものが多すぎる。
アイドルは世界中のみんなの憧れで、沢山の女の子から好かれているから、私一人が愛されるというのは申し訳ない。
しかも本当のことを言えば……怖い。
世界中の女の子を敵に回すのが怖いんだ。
会社に行けないし、街も歩けない。
そんな生活は嫌だ。
「――助けてくれるの?」
「えっ!?」
「だから、もし私が彰人達と一緒にいるせいで世界中のみんなから嫌われていじめられたら、助けてくれる?」
この家に入った瞬間にもう後戻りはできなくなっているんだ。
なら、味方を少しでも作っていた方が安心する。
――役に立つかどうかは抜きにして。
「当たり前だ。だからさっきから何度も言っているだろう? お前は俺が守る」
「やだなぁ、玲奈ちゃんを守るのは旭斗だけじゃないんだよ? 姫を守るのは王子様である僕の役目……ね?」
「あー! 王子様ポジション取られた! んじゃ、俺は騎士になる!」
「みんなで守るってことでいいじゃないですか」
「そうだな、体力勝負なら望むところだ」
“当たり前”。私は後のどんな言葉よりその一言が嬉しくて、にやけてしまった。
目の前のアイドル様はそんな私を見てまた顔面をでろでろにとろけさせるのだから、いよいよ彼等の目と脳みそはおかしいのかも知れない。




