第二章 capter-1 「シックザール」(3)
「そう言えば順」
さらにまたイフットやダリゼルディスと茶々を入れていた時、唐突に思い出す。
「何だ?」
「前に言ってた強い騎馬って何なんだ?」
「あー、あれの事か。朝霞の養成所には従兄弟がいるんだよ、私の」
「群雲家か?」
「……分家だがな。レオカディオ・アロンソ・ムラクモという。うちの叔母の子だ。17になる」
「アロンソォ!?」
そういった瞬間、ダリゼルディスが顔を歪めた。
「あんたんとこ、本当に天才の一族だねぇ……やっぱり血なのかしら……」
「知ってるんですか?」
驚きようにこちらもつられて、尋ねる。
「……全世界マジックボードのチャンプだよ。7歳から大会に出るたびに表彰台を掻っ攫ってる奴だ」
順がそう言って来た。
「マジックボード?」
「マジックアイテムの一種だ。魔法の絨毯や空飛ぶ箒みたいなもんだよ。ただ、全自動じゃなくて操者の魔力が動力源だけどね。奴はそのレースで2位に大差をつけマッハに近いスピードを瞬きすらせず感じられている。……スピード感覚に関しては私からしても異次元のものを持っている」
順はそう言うと、元々アイツは騎兵専攻だったのだがどうせなら空飛ぶものがいいと言って飛んだ奴でもあると告げた。
「へぇ……」
「個人的には騎兵として大成してくれればと思ったが、今のアイツは凄く輝いているから何もいえないさ。……むしろ私が頑張らなきゃいけないという気にもなる」
そのまま下に視線を落としていき、俯く。
その瞬間にシックザールのフロントガラスに何か紫のものが映った。
「……順、前見ろ! 何か来るぞ! 余所見するな!」
後ろから声を掛けるとーー。
ヒュンッと、何かがシックザールを掠めながら真横を通り過ぎていった……。
「え?」
「今の顔は?」
順が弾かれたようにシックザールを急ブレーキさせ、慌てて甲板に出る。
「俺には分からなかったが……何かしっかり見えたのか? 順」
須賀谷もその後に続き、梯子から甲板に出る。
するとそこにはーー。
「てめぇらあぶねぇじゃねぇかこんちくしょう! ふらふらしやがって、危うく当たるところだったぞ!」
上空にふわふわと浮くボードに乗った、不機嫌そうな紫の髪の毛の少年が居た。
「……噂をすれば何とやら……か。久しぶりだなアロンソ。何故此処に?」
「うぉ、順じゃねぇか!? 懐かしい顔だな、お前なんでこんなところに?」
……ほぼ同時にその言葉が入れ違う。
「私は」
「俺は」
「……」
「……」
このままでは話は進まない。
「話がある。--時間はあるか? アロンソ」
「あぁ、単に練習してただけだからな。そのでかいのも面白そうだからちょっくら入らせてもらうよ。茶菓子くらいは出るんだろ?」
アロンソという少年は順の顔を見ると嬉しそうにしながら、ボードを操りひょいと甲板に飛び乗ってきた。