第一章 capter-3 「根底にあったもの」(2)
「そりゃそうでしょうね。似たようなやり方をしていた渡辺も正直、俺は嫌いでしたから」
須賀谷は静かに呟いた。
「あぁ」
藪崎がもっともだといった風に首を縦に振る。
「ただ……俺の場合はその反面、駄々を捏ねていたというのも最近自覚はしてきています」
さらにそこに、言葉を繋げる。
「ほぅ」
「あのままでは俺は自分の現状を認められないクズとして戦い、自分の逆恨みから戦ったという事になります。そう考えると俺はあの大会の終盤で子供相手にほぼ負けたことで新しい目標を持たせられた形になりました。悪く言っちゃなんですけど、俺はアイツに負けたことで自分の伸びしろを増やせたとさえ思っています……貴方方には悪いですが」
「……成程、そういう考え方もあるか、士亜」
「そうだよ、順。渡辺にやり込められたからって黒岩田を倒したところで話は終わらなかった。もっと物事の根底……それを俺は知らなかったからさ。俺が世間知らずでありすぎたんだ、悔しいことにな」
「そういえば貴方が……あの剣の想定出力以上の物を出した子でしたね」
そこでマルクカがふと、興味深そうな顔をする。
「はい」
「昨日の朝、あなたの大会での映像を見ていましたが……多少魔力が散るという弱点さえ除けば出力もいいですし、使い方も上手い。タマチルツルギの方もそのうち、データを取って貴方に適正化した後継品を作りたいと思いますよ。しかし本当に力を引き出してくれて嬉しかったです、作者冥利に尽きます。……いやーしかしあのエネルギー開放には、驚きましたよ」
そしてさらに、そう続けた。
「俺のあの紫のエネルギー波によるバフの事ですよね?」
「えぇ」
「でもあれでしたら今は使えませんよ。少なくとも自力では」
「……そうなのですか?」
マルクカは残念そうな顔をしてくる。
「不思議なことになんだか命に関わるレベルの危機感とか思いつめた事がないと、出来ないそうなんです」
横から出てきたイフットが代わりに説明をしてくれた。
「身体のどこからあんなパワーが出たのか不思議なくらいです、今考えると火事場の底力のようなものだったんでしょうね」
「制御は難しそう、といったところですね」
「えぇ」
「マルクカさんは魔力について、どう思いますか?」
「私は魔力についてはどうこう思いませんよ。ジンメール一派が魔力を資源として高評価しているだけです。……私個人としてはあなた達この世界の人間に備わった、いい力だとしか評価していません。ただ武器に試作的に転用してみたのは、今回が初の試みでしたので……あの剣でも基礎出力ではフランベルグ相手にはまずほぼ通用しないというのは誤算でしたが」
「不満を言うつもりは無いがケイラウトアーマーもほぼ効かなかったぞ」
順が口を挟む。
「……申し訳ありませんがあれもアップデートが必要だというのが痛感しました。あれの基本設計というのは二年前の物なのですが、まさかジンメールがあそこまで高性能な人造人間を開発していたとは思いませんでしたので……」
「何か対策は取れるのか?」
「型番を一つあげるくらいの気持ちで改良します。MRK-KJ4(エムアールケー、ケージェイフォー意味はマルクカ・ケイラウト順四式)からMRK-KJ4+に」
「具体的には?」
「コンバーターの換装による出力効率の上昇を狙います。今までは単純にフレーム強度に問題があってある程度セーブせざるを得ませんでしたが、タマチルツルギや篝火によるノウハウを使うことである程度改良の為の運用データと知識がたまって来ましたので」
「……それはすぐに、いけるのか?」
「いえ。残念ながら装甲素材が足りません。少なくとも前時代レベルの強度を持つ素材……間接部には磨耗に対する強度が高いリーブラ鋼レベルを使わなければなりませんので」
「リーブラ鋼、か」
順が難しい顔をする。
「それは高いものなのか?」
「朝霞エリアに遺跡があり、発掘に行けば取れないものでもない。ただ、今の状況で朝霞にいくと悪い予感もするんだよ」
「……あの姉妹校の話か」
薮崎は少しため息を付きつつも、手元のティーカップに手を伸ばした。
「あぁ、そうだ。調整は出来そうか?」
「無論だ。練成の為の選抜合同試合大会……それを開く手はずは出来ている。特進Aは断ってきたが、相応のメンツは揃えられそうだ」
「そうなのか……まぁ特進Aは元々腰が重いから仕方ないな」
「個人的にはあまり手の内を晒したくもないがな。一応は順達に選手に出てもらい、観客として紛れ込ませた生徒会の面子で情報を探ろうと思う」
「それが一番だろう。我々が目立てばそれで周りの目もこちらに向くしな」
「日程は決まってるんですか?」
「既に開催は決まっていて、明日に日程調整の返答の文書が届く手はずになっている。どうあるかは分からんがな」
「順は他校と試合ったことはあるのか?」
「……言っただろう、騎馬で強いのがいると。ただ向こうもどんな面子がいるのかは知らんしな。そのうちいってみるか? リーブラ鋼の調達もしたいし」
「それならば私が外出許可を取ろうか」
するとそこで、後ろから聞きなれた声がした。
「……ダリゼルディス先生」
須賀谷達は思わず振り向く。
「私も一枚、あの大会には噛んでてね……相応におこだったよ。」
「おこ?」
「あぁ、鬼おこだよ。あんのクソ禿がいたせいで私も評定が下げられててね。ぶっちぶちぶっちーんだった」
「なるほど、不満があったと」
「だから私が、あんた達のバックアップに付くよ。引率教官としてさ。他の堅物先生が引率に付くよりはやりやすいでしょうしね」
珍しく真面目な顔をしたダリゼルディスはそう語ると、胸元からタブレット状の菓子を出し、ガリガリと音を立てて噛み始めた。