第一章 capter-2 「レーザー・ストラクション」(2)
「現金3万エルカタルに生ポーション樽を1樽、か。今回の報酬は太っ腹だったな」
「まぁ商会の奴らも自分の子供を連れ去った奴らを捕まえてくれたという人間にはこれくらい出すだろう」
夕方の帰り道を3人で横になって、歩く。
順の長髪がやけに、風に靡いて見える。
「それって重そうだけど、大体どれくらいあるんですか、順さん?」
「この樽か。20リットルだぞ。まぁ帰ったらそのまま飲んでもいいが、冷やさないとまずいし調合にも出来る。現金は山分けしたがこの樽はどうしたい? 何もないならとりあえず部室に置いて冷やしておこうと思うが……異論はあるか?」
「特に研究するつもりもないし部室が置き場でいいと思います」
「俺もそれでいいと思う」
相槌をそう打つ。
「そうか。自宅に幾つかカシスとグレープフルーツのエードがあるからついでに明日もって行って部室の冷蔵庫で冷やしておくよ。疲れたら自由に飲んでくれて構わない」
すると順はにこりと笑って、そう返してきた。
「おお、ありがとうございます」
「いいですね、カシスポーションおいしいですし。学校の自販機でも売れ線ですぐなくなるからとても有難いです」
「あぁ、後ひとつ忠告だが1万エルカタルは……あっという間になくなるからな。金の使い道はしっかり考えておくことだ」
順は其処までを言うと、腕が疲れたのかそれまで肩に担いでいたポーション樽を横に抱えて持ち直した。
そして表情をふと、険しくする。
「しかし最終的に奴が吐いた子供の隠し場所……それがウチの秘奥学園の姉妹校だったとはな。私にも初耳だった」
「隣の市の朝霞附属勇士養成所ですよね」
「あぁ、奴が言っていた言葉……探る必要がありそうだな。まんざら出鱈目とも思えないから、薮崎の奴に上告をしてみるつもりだ」
「しかし……何故子供を連れ去るのでしょう? 人を連れ去るのなら言い方はともかく、学園生徒のほうがスペックはあるはずです」
「イフット。俺は思うが、あの時大会に現れた子供のような奴……もしかしてあれは改造人間なんじゃないのか? そしてその素体は子供のほうが適していてだから連れ去って仲間にしているとか、そういった事じゃないのか?」
「そういう考え方もあるのか……順さんは……どう思います?」
「それは分からん。ただ……人が連れ去られるというのは暢気に構えていられる状況ではない、というのは事実だ」
「私達が幾ら頑張ったって、今のままでは相手が規格外に強すぎますからね……馬でドラゴンに挑むようなものですよ」
「馬……か。そういえばその朝霞附属では馬術課とかいう専攻もあるそうだぞ」
「馬術なんて、今の騎士にいるのか? 順」
「一長一短だが、馬の高い機動性はまだまだ優位にあるぞ。そもそも私のアーマーも機動力だけならばあれ以上は出せるが隠密性に置いては魔力で探知される可能性もある。それに、よく訓練された名馬は格闘戦において恐るべきパワーを発揮するしな。色々言うことはあるが、手数を考えたら馬は強いと断言できる」
「そうなのか」
「あぁ、昔一度だけ騎兵と戦ったことがあるが……正直私の見た人間の中で5本の指に入る強さだと思う」
「……人間以外をカウントすると?」
「それでも独特の間合いがあって強いさ。……一度、やりあってみれば分かるがな」
「……っと、そろそろ別れ道だな。お疲れ様」
「お疲れさんだ、また明日な」
「それでは、またな。二人とも寝過ごすなよ」
ーー順と別れ、イフットと共に新しい寮に帰る。
薮崎は義理堅い男のようで、ちゃんと夫婦用の寮に部屋を用意してくれたのだ。
「よしっと」
荷物から取り出し、部屋の鍵を開ける。
「んじゃ士亜。ご飯作るね」
「あぁ、ならその間に俺は風呂を掃除しておくよ」
イフットの言葉を受け、俺ーー須賀谷士亜は、返事をする。
10畳一間にキッチン、風呂トイレ別と二人で住むには最低限揃った程度の部屋だが、それでも前の家よりは豪華ではある。
なのでこの生活には全く、文句などというものはなかった。
ーー若干防音に関しては作りが古いのか隣の部屋のいちゃいちゃがたまに聞こえてくる事はあるのだが。
「イフットもこっちにきてくれて……よかった」
ちょっと気分がセンチメンタルになって独り言のように言うと、
「ん、どうせ一人でB寮に住むくらいならこっちに来るわよ。士亜がいなけりゃあんなところ住んでても意味ないし」
そう言ってくれる。
「……本当にお前はよく出来た女だな」
振り向きざまにそう告げると、褒めても材料がないから一品追加しないよ、とふと笑ってきてくれた。
……あぁ、俺はこういう生活がよかったんだな、とつくづくに感じてくる。
「……イフット」
「……なぁに?」
「俺、強くなって見せるよ。出来もしないことなんてなくなるくらいに、そうなってみせる」
「法螺を吹くのはいいけどさ、まず順さんに並べるくらいにならないとね。それにはまず、私と並ばないと」
「あぁ、俺はやってみせるさ……必ずな」
俺はそう言い、モップを取り出して掃除にへと向かった。
……会話を続けていたら心の奥底が少し、暖かくなった。
毎度毎度のことだが、こいつと話しているとやる気というか自己研鑽をしなけりゃいけないような欲望が出てくる。
こいつの輝きが俺を光らせて……くれるのだろうな。
「ご飯できたよー」
「おう、ありがと。そういや今日の分を作ると明日の朝で食材が終わりだっけ?」
「うん、そうだね。明日に学校終わったら買い物行かないといけないかな。士亜も手伝ってよね、買出しとか?」
「分かってるよ。お前だけに持たせるわけにもいかないからな」
「それでよろしい」
「……あーしかしうまそうな飯だ、これは体力になりそうだ」
「でしょ? 健康はやっぱり食からだよ」
……充実した日というのが肌で感じられる。
これこそが俺が……大会中俺が必死で取り戻そうとしていたものなんだろうな。
須賀谷は飯をかき込みながらも充実感に浸っていた。




