第二章 capter-3 「血と心」(5)
「さーて、こちらもどうするかだが」
二人と別れ自室に戻った須賀谷は、溜息を吐く。
「上着だけでも脱げば外に出るのは目立たなくなるか……? いや、だがラインは入ってるからどちらにしろ変わらんか……そもそもこのまま一人で動いて後詰めの迷惑にならないだろうか」
ここは若干悩むところだ。イフットや順は動いてくれるだろうが、頻度は高くないとはいえこちらはこちらで守衛も巡回している。
咎められたらやや厄介なところだが……。
コンコン。
「ん?」
誰だ、部屋をノックするのは……。
用心しつつも、ドアをゆっくりと開ける。そして覗き見ると……。
「覚悟っ!」
いきなり首元に突き出されてくる腕が、あった。
瞬時に状況を判断ーー。成程、夜襲って事か!
「俺が弱そうだから来たのか? ……舐めるなぁ!」
顔も確かめないままに反射的にその腕を取り、踏み込んで一本背負いをする。
綺麗に円を描いて決まり、技有りだ。
「んきゃっ!」
そのまま倒れた襲撃者に向けて流れるように右腕を突き出す。……実のことを言えば魔法は打てないが、ハッタリにはなるだろう。
「くっ……群雲順の部屋かと思ったら違ったわね。今日チェックインって言ったからこの部屋かと思ったのに」
襲撃者は喚いてみせる。
「……お前は、さっきの」
その顔を覗き込めばピンク髪の少女。なんとか院トルネード朱音だったか。
「天月院トラムトリスト朱音よ……煮るなり焼くなり脱がすなりしなさい」
少女は着衣が少し乱れたまま恥ずかしそうにそう言ってくる。
「トラムトリスト……あぁその目の色といい血筋はトリスタンか。興味ないな、帰れ」
「その名を名乗るのは成人後からよ。……って、えっ?」
倒れたままの少女と言葉を交わすが、驚かれる。
「何を驚いている。森へお帰りとでも言って欲しいのか?」
「いや、だってこうやって捕まったって事はそういうヤーンな事が……つまり据え膳でしょ? 悪いことにしに来て捕まってお仕置きは無しなの?」
何故頬を赤らめるか。
「……俺は既婚なんだ。それに妻が好きだからな、ほら、知らなかったことにしておいてやるからさっさと出る!」
こんなところを篝火に茶化されでもしたら五月蝿いことになる、そう思い胴着の首根っこを掴み、持ち上げて部屋からつまみ出す。
「軽っ」
魔法もなしに片腕で持ち上げられるとは。こいつ何キロなんだと思えるくらいに軽いぞ。
「……39キロだもん」
「……病気じゃねぇのか? しっかり飯を食わないと貧血になるぞ」
そういいドアを閉めるが……。
「ねーねー」
ドンドンとドアを叩かれる。
「なんだ五月蝿い。俺は明日の試合の準備があるんだ」
またドアを開く。すると右足をねじ込んでくる。
「悪質なセールスはお断りだ」
「それでも聞きたいことがあるの!」
「あぁ?」
「その、あの……順って女は何しに来たの? マジで弓道部を解体しに来たんだったら止めてよあんたが!」
何を訴えるかと思ったらそんな事か。
「そんな事はないから安心して帰れ」
足に足を押し付けて追い出し、普通にドアを閉めて鍵をかける。
「マスターキー、私持ってるけどいいの? それに解錠魔法私使えるよ?」
「やってみろ。殴り倒すぞ」
「……くっ……それもいいかもしれない、というか襲ってこないなんてなんなの、屈辱よ」
「だから俺には配偶者がいるっての、馬鹿かお前は」
「ぷん! この私の魅力が分からないなんて本当失礼ね!」
あぁああああああああああこんのアマ……。言葉が通じないのかと思えるくらい扱い辛い。
なんなんだこいつは。
あまりのしつこさに本気で篝火二号の部屋にでも逃げようかと一瞬思う。だが、彼女の部屋の番号を忘れてしまったのが少し悔やまれる……。
イフットに助けてもらいたいと思ったのは久しぶりだ。あぁ全く厄介な。
俺も地下に逃げてイフットのところに行くか? いや、しかしその間に部屋を物色されては厄介だが、どうしたらいい……?




