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第一章 capter-1   忌まわしき記憶

残酷な描写ありレベルの残酷な描写はないです。

主人公が異世界転移して俺TUEEEではなく

元々異世界の人間が必死で強化してTUEEEしにくるやつらに立ち向かうスタンスです。

http://hibiki0dura.web.fc2.com/zs.html 立ち絵

「やれやれ、追い詰められて……爪を折られた猫のようだよ。それにしてもその顔は、そんなに自分の腕が折れたのが悔しいのかい? えぇ土屑?」

 その日は、立っているだけでじわじわと汗ばむような夏の夜であった。

 透き通るメッシュ髪をもつ10歳ほどの外見の少年が、傷付いた紫髪の少女をそう上から目線で嘲りながらもドロついた毒を吐いてきている。

 彼は敵意丸出しの目付きで、こちらの神経を抉り突き刺すように見下してきた。

 周囲は煤けた工場だ。他の建物を見れば見渡す限りが焼け野原で、そこから鉄の溶けたような鼻に付く臭いが、一帯に充満している。

 腫れた頬が痛み、ぼうぼうと立ち上がる熱気で気持ちが悪くなる。もう、弱音を吐きたい。鎧と意識が重くなっていく。

「……お前の思い通りになどさせてやるものか……この、ふざけた化け物が」

 ――疲労と消耗で体力がもう無い。悲痛な呻き声を、相対する少女が漏らした。

 どうにもこうにも全身の神経が強張り痛む。施設破壊をした殺人鬼の討伐という任務の結果、パーティーは既に全滅だ。工場街のそこでは今、周囲を見渡すと30数名の学生騎士達や教師達が身体から血を流し、折り重なるように死屍累々と連なっていた。

 叫び声や泣き声はもう聞こえない。彼らの中で損壊の少ないものは人間の形を保っているものの、多くが眺めると損壊が酷く原形をとどめずに轢死体よりも無惨になっている。酷いものでは手足も散らばり、グロテスクさに吐き気を催さざるを得ない程だ。

 相対的に外傷が少ない人間の中には辛うじて息をしている奴も居るが、もうあの傷ではこの現状では動けないだろう。

 現在、この場でまともに動いている人影は二つ。コンクリの床の上でふらふらになりながらも生きている、金属鎧を着込み額から血を流しつつも剣を杖にして立ち上がろうとする少女と、こちらを一方的に嬲ってきている10歳ほどの殺人鬼の二人のみだ。

 少女は既に出血でフラフラとしていて、身体を動かすたびに今にも倒れそうになっている。

「少しは抵抗してみせたようだけど……浅はかで衆愚なんだよ、精人類じだいおくれの土屑。……ざまぁないけど、屈辱かい? 巨竜や悪魔ならまだしも、自分の背の半分も無い人間にボコボコにされてさぁ?」

 目の前の子供は遊ぶようにしながらも既に絶命をして地面に転がっている同級生の身体を蹴り上げたり、頭蓋骨を踏み潰したりして快さそうに余裕の表情で罵ってきた。そして先程のような嘲りを同じく、少女に掛けてくる。

 子供特有の残酷さもへったくれもない。ただ異常性しか感じない。

「……ハァ……ぐぅっ……! うぅぅっ……っぐ……き、貴様のような餓鬼なんかに……負けてなるものかよ……!」

 胸が痛くなる。1時間ほど前までは、周りの皆は生きていたというのに。何故、このような事に。


「……人を人とも思わぬお前などに殺されるかよ! 死者を愚弄するクズが!」

 ――あまりの不快さに、怒りと共に剣を振り降ろしつつも少女は悪態を吐く。

「えぇ? こんな行為自体を咎めるのかい? 世の中でもよくある死体蹴りの何がいけないのさ?」

 だがしかし瞬時に、子供はこちらの刃を受け止めるといきなり顔に向かってカウンターの一撃を決めてきた。

「がっ! あ、あぐぅぅっ……!」

 顔面を蹴られて危うく目を回しかける。どうやら瞼が少し切れたようだ。眼球までは潰れてはいないようだが、片目が見えない。

 だが、まだ終わってなるものか。

「うぅぅ……! 好き勝手に……嬲りやがって!」

 肩を震わせながらも、少女は抉られたような痛みを我慢して立ち上がる。

 ……憎らしい顔をしやがって。何様だ。

 こんな野郎に太刀打ち出来ない自分が信じられず、情けない。

「……クソ餓鬼が、調子に乗るなよ……! 私がこのままで終わると思うな! 覚えておけ……捕縛じゃすまない……喉を引き裂いて殺して……やるよ……!」

 反抗をするように心からの憎悪に染まった眼で、息を荒げながら少年に言い返す。ここは隙を突いて、奴を殺すしかないのだ。

「……あぁ? 無駄な事をほざいたところで雑魚の言葉は聞こえないなぁ! 君たちのような魔の血が入った人間は堕落しているんだよ、だから僕達が魔法使い狩りって事で皆殺しに来たんじゃないかぁ?」

 しかし子供は案の定耳障りな声で罵ってくる。もう我慢がならない。その瞬間、少女はあらんかぎりの声で右腕を突き出した。

「やかましいんだよ! 砕け散れ《爆裂光槍》(ニードル・フォルス)!」

 

 向こうが醜い顔をするとほぼ同時に、やけ気味に掌から玉虫色をした槍状の高速光撃を発する。

〈……チッ!〉

 魔法使いの特権である光の槍は突き刺さると爆発し、爆光がコンクリ片を吹き飛ばしつつも子供の半身を焼いた。

「死にさらせよ、クソガキが……! 皆の弔いの為だ、地獄へ行け!」

 少女は目を見開くと、歯をぎっと食いしばって力を入れてみせた。

 大火力の魔法は反動で痛みと消耗を伴う。ましてこの体力では負担が洒落にならない。


「……へぇ、死に損ないにしてはやるじゃん」

 だがその不意打ちの攻撃をも、声では子供はダメージとしてカウントしないかのようだった。

「何……!」

「中々心の籠った攻撃をしていたけれど……煙いだけだね、これは」

 先程の衝撃に対して躊躇をせず、返礼のように笑いながら煙の中から姿を現す。

 そして、瞬時に間合いを詰めると既に魔法の反動で力をほとんど失っているこちらの首を嬲るように徐にぐっと掴んできた。

 あまりの早さに剣で捌く暇もない。

「ぎぎっ……!」

 すぐに身体に痛みが走る。爪が喉笛に突き立てられてくる。……為す術もなく首を締められ、少女は顔を歪ませた。息が止まりそうだ……!

 「魔法の反動で倒れたと思ったら……まだ口答えをするほど元気なのか。早く死ねばいいのになぁ、どうせこのまま生きていたところでこの状況をどうとにも出来ない存在


であるというのにさぁぁあ! 殴られただけで死ぬような虫ちゃんがぁ!」

 ――掴んだまま子供に勢いを付けて身体を持ち上げさせられる。足が地から浮く。……指が首の骨を圧迫をしてくる。

「……ぐッ!」

 視点が上がり、骨が軋むと共に一瞬、顔が無意識に震えと怯えを見せてしまった。

「汚い手を……離……せ……っ!」

「あぁ?」

「離せよ……!」

「駄目だなぁ……。離して下さいだろ? そんなに早く仲間のところに行きたいのかい?」

 だがそう醜悪な顔で笑いながら子供は、喉を支点に浮かせた少女の肩にもう片方の腕を添えてくる。

「さぁ、血を吐いて悶え苦しみな!」

 それから次の瞬間、少女はまた衝撃を得た。少年は近くのコンクリート製の壁へと向けて遠慮なしに少女の身体を持ち上げ、力任せに叩きつけたのだった。

「……ゲホッ! ぐぷぁっ!?」

 ――痛みを感じ、少女は苦痛に顔を歪ませる。


「ははは、雑魚雑魚! ……もう死んだらどうだい? 役立たずの無能ちゃん!」

 子供はそんな少女を蹴り転がしながらも、目の前で嗜虐の心に身体を震わせながら、薄汚く笑ってきた。

「こ……こ……んな奴……に……く……そっ……!」

 少女は激しい嫌悪感に苦悶の表情を見せながらも痛む喉から言葉を漏らすが、最早既に相手の顔に唾を吐く余力さえもが身体の中にはない。

(畜生っ……こんなところで……こんなの有り得ないというのに……!)

 ……こんなクズに殺されるのか、私は。

 少女は恨みという意思を抱えたまま、段々と自分の意識が薄暗くなっていくのを感じ取った。どうやらいよいよもって生命力が、尽きてきているらしい。この戦いで相手に致命傷を与えられなかったのが、悔しい。まともなダメージも与えられずに完封されたのが……口惜しい。

「仲間を……よ……くも……! この……痛……み……は……絶対に忘れ……や……しないぞ……絶対に……殺してや……る……!」

 ――意識を閉じないように精一杯頑張っているが、自分の声が徐々に小さくなっていくのを感じた。

「……絶……対……に……お前を引き……裂い……て……っ」

 ――それからそこまで言ったところで、動きが止まる。――声が、かすれて出ない。――口が、力なく開くだけだ。……何故だ。

 そう思った瞬間に自分の中で、闘志と気力の糸が切れてしまった。

 ――あぁ、私は死ぬのか。

 そう察すると同時に視界が、閉ざされる。それに追随するように闇という湖の中に、力を失った意識が引きこまれていった……。


「あーあ。少しは手加減したんだけどなぁ。……このままじゃ後味が悪いし、見逃してあげるよ。元気になったら、今度はしっかりと殺してあげるからね。もっと確実に楽し


みながらさ」

 その後、子供は不満足そうに告げると崩れ落ちて気を失った少女の髪を紙切れのように掴み、わざわざ顔を確認するようにしてからもう一度瓦礫の上に無造作に打ち捨てた


「記憶完了。さぁて、生き残りは何処にいるかなぁー♪」

 それから彼は、うすら笑いを顔に浮かべつつも工場内の別の区画にへと向けて進路を変えていく。破壊活動はそのまま続き、後に駆け付けたこの世界の特殊部隊一個師団に退けられるまで被害を増大させていく事となった――。


 ――先程倒れた少女の名前は、群雲順。(むらくも じゅん)。彼女は箱庭の世界であるアルヴァ・ヴァルアシアを構成する国の一つ、緋奥ヒオウの戦士養成機関、緋奥学園の騎士で、その戦闘能力と実績により学園内で『クロスエース』階級の称号、『ドグマセイバー』を名乗る事が出来る者だった。

 ……だがしかし、彼女の生きるその道と未来は、別の世界から襲来した異界の民により閉ざされてしまった。

 仮死状態に陥る程の大怪我を負った彼女は懸命な魔法医療と自身が素で持ち合わせていた高い回復力により辛うじて生き残ったものの、精神的なショックによる長期間の入院により進級さえも出来ず地位を失い孤立し、『†産廃†』(さんぱい、industrial waste)と呼ばれる最底辺の不名誉な称号を持たされた挙句左遷されてしまった……。



「……夢!?」

 ……汗びっしょりになりながらも、群雲 順は目を覚ました。

外を見れば朧月が出ている。

「……畜生、またあの夢か」

 舌打ちをしながら身体を起こし、部屋の隅にあるウォーターサーバーまで近寄って一口水を飲む。

 半年以上前の忌まわしい過去の記憶、かつて敵に全隊の半数以上を殺された事だ。

「あの子供が私は……まだ、恐いんだろうな。……須賀谷、藪崎、私は一体どうすれば奴と互角以上に戦えるのだろうな……」

 飲料水が咥内を満たし、口をバスローブの袖で拭う。

「そういえば今日は任務の日だったか」

 そのまま壁掛け時計に目を移し、漠然と呟いていく。

「私はするべきことをしなければならない……か。ここで倒れるわけにもいかない、前会長の心も、汲まなければな」

 順はローブを脱ぎ捨て、シャワー室へと向かっていった……。

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