婚約破棄とアンニュイな犬の話
「エリザベーター、婚約を破棄する!」
ご主人がショックでうなだれている。俺は近くに寄り添うしか出来ない。
何故ならば、犬だからだ。
「クゥ~ン」
「まあ、シェパード・・・」
そうだ。俺をなでろ落ち着け。
「おいこら、何だその犬は!」
「お義姉様、狼みたいな怖い犬を二匹飼っているのよ・・・怖いわ」
【追放だ!】
オスから追放刑を受けた・・・
そうか、ご主人も捨てられたのか・・・・
☆☆☆
『旅行行くからお世話出来ないでしょう!』
『そうだ。筋男、旅行行きたかったら捨てるよ』
『うん。旅行の方が大事だから良いよ』
俺と相棒のハスキーは車に乗せられて山の中に行った。
俺は雰囲気で分かったよ。ダムに捨てられるのかな・・・
『はあ、はあ、はあ』(お出かけ、お出かけ)
相棒のハスキーは喜んでいる・・・どうしたものか?
と悩んでいたら。
『キャア、筋男、ウンチもらさないの!』
『だって、我慢出来ないよ』
キキキー!
車が谷底に落ちた・・・
・・・・・・・・・
どうやら、虹を渡ったらしい。気がついたらご主人の屋敷の庭にいた。
俺とハスキーはご主人に拾われたのだ。
追放刑を受けたので。
ご主人とハスキーと俺で大きな家を出た。
「はあ、はあ、はあ、はあ」(おでかけ、おでかけ)
「・・・・・・・・」
弟分のハスキーは大喜びだ。
「クゥ~ン」(ご主人)
「シェパード・・・今、お仕事を探すわね。お食事、何とかしますわ」
俺はこの世界の文字が読めるようになった。
冒険者ギルドにいるらしい。
俺でも出来る仕事の紙を前足で指した。
「え、ドックマスター?」
なんやら犬使いが募集されていた。
ご主人はチラチラ俺とハスキーを見て。
「やってみるしかないかしら」
と言ってくれた。仕事内容は。
羊100匹の世話だ。
牧場で面接を受けたクライアントは不思議そうな顔をしていた。
「え、女の子とその馬鹿そうな犬?」
「はあ、はあ、はあ」(ごはん?ごはん?)
依頼主は良い顔しないが・・・
俺は遠吠えをした。
「ワオオオオオーーーーン」(我はここに存在しているぞ)
「メェ、メェ!」(狼だ!)
「メェ!」
羊たちに俺の方を見させる。
「ワオオオ~~~ン」(俺の言うことをききがれ)
「な、何だ。羊が一斉に見ているぞ・・・」
俺はご主人に一瞥をして羊の群れに向かう。
血が騒ぐ。
「ワン!ワン!」(ケンカ禁止!)
ケンカを仲裁したり。
「ワン!ワン!」(ほら、群れはこっちだ)
「メェ」
迷える子羊を案内したりする。
そうだ。俺の先祖は牧羊犬だ。
これが犬生だ。
ハスキーは。
「はあ、はあ、はあ」
「こら、ハスキーちゃん。縄を食べてはいけませんわ」
ご主人に世話をされている。
それで良い。棲み分けだ。
時々、狼が来そうだな。
三体で牧場に住み着いた。
ご主人はモテモテだ。
いや、俺か?
「お嬢さん。その茶色と黒の犬、売ってくれないか?」
「金貨100枚だすよ」
俺はジィとご主人を見る。
ご主人は躊躇せずに。
「売りませんわ!」
と言ってくれた。
嬉しい。
ハスキーは牧場を走り回る。
「ワン、ワン」(遊びに行ってくる!)
「ワン!ワン!」(遠くに行くなよ)
ご主人は、はまったハスキーを助けたり。
「クゥ~~~ン」
「ハスキーちゃん」
食事の用意をしてくれたりする。
「もお、ハスキーちゃんたら」
正直、ハスキーが羨ましい・・・毛繕いをしている。
何故、働かないあやつが?
「シェパードもおいで」
「ワン!」(もちろん)
毛繕いしてくれたら疲れも嫌な事も全て吹っ飛ぶな。
「ワン?」
「いつもご苦労様」
膝だっこだ。まあ、犬冥利に尽きるのではないか?
しかし、俺は子犬ではないぞ・・・まあ、少し抱っこされてやろう。
そんな中、楽しくすごしていると、旧ご主人がやってきた。
「見つけた!この犬はうちの犬よ」
「そうよ。牧場で活躍している珍しい犬がいるからときたのよ」
「普通に僕の犬だよ!」
「「「返して下さい!」」」
やつれている。旧ご主人もこの世界に来たのか・・・
ご主人は。胸の前で手を組み震えている。
「そ、そんなハスキーちゃんとシェパードは大事な友人ですわ・・・そんな」
「はあ?名前じゃなくて犬の種類じゃん。ハスキーが犬一号でシェパードが二号だよ」
そうだ。俺は犬二号と呼ばれていたのだ・・・
「え、鑑定したら、そのように犬種が出ていましたわ。前のご主人がつけた大事な名があるかもと思っていたから、その名で呼んでいたのに・・・そんな変な名前・・・」
俺はご主人の目を見た。
「ワン」
ハスキーは・・
「はあ、はあ、はあ」
あいからわず舌を出して「はあはあ」している。
だが、気持は伝わっている。
ご主人は・・・
「返すのもやぶさかではありませんわ。でも、ハスキーちゃんとシェパードちゃんの気持を知りたいですわ。一緒に仕事をして下さいませ。絆を見せて頂けたら返しますわ」
「簡単じゃん。僕がやる」
「筋男、頑張れ」
「筋男なら出来るわ」
スジオ、ご主人一家の子供だ・・・時にすごく残酷だ。
その時、ハスキーが遠吠えをした。
【ワオオオオオーーーーーーン】
その遠吠えで・・・山から狼がやってきた。
「あら、ハスキーの群れ?」
「まあ、これは売れるかしら」
「やったー、異世界でブリーダーだ」
ハスキー、馬鹿だと思ったが・・・シベリアンハスキーと狼を間違えている。
あの馬鹿主人達を狼の群れに連れて行った。
キラリとハスキーの目が光った。
やっぱりこいつは馬鹿だ・・・自分を犠牲にするつもりだ。
その夜。ハスキーは帰って来た。口にはクズオだっけ?ご主人の帽子をくわえていた。
狼に食われたのか。
ハスキーは遊んでいる風を装って。近隣の狼の群れに接触して若リーダーぐらいになっていた。
「ワン、ワン、ワン!」(兄さん、ご主人をヨロ!)
ハスキーは山に行った。もう帰ってこない予感がする。
ご主人は・・・寝ているか。
「グスン、グスン、ハスキーちゃん・・・どうかご無事で」
分かっているのか、別れの予感で夢を見ていたらしい。
これから俺が支えなければならない。
それから、ご主人はドッグマスターとして名をはせている。
「クゥ~ン」
「はい、シェパード君、そろそろ名前をつけようかしら・・・ね」
名声が広がり。俺に見合いの話が出てきたぐらいの時に、ご主人の元番がやってきた。
「エ、エリザベーター、母上に怒られた・・・お前は何故追放と言って追放されたのだ」
犬から考えても意味不明だ。
「まあ、王妃殿下に怒られましたの?」
「そうだ!つれて来いと言われたのだ!俺の人生は滅茶苦茶だ。お前が婚約破棄をされるから!」
俺は犬、寄り添うことしか出来ない。何故ならば犬だからだ。
と思ったが、ご主人の方から俺に寄り添ってきた。
「そのような心根ならばお帰り下さいませ」
「な・・・」
「私にはこんなに頼りになる相棒がございますの」
「ワン!」
「何故なら、私はドッグマスターですわ」
ご主人が強くなっている。
オスの方はうなだれている・・・
「そんな、母上が、母上が・・・!」
「まあ、お母様・・・貴方はまるで王妃殿下の犬ですね」
俺はその言葉で耳がビクンとなった。
「ワン?」
「シェパードちゃん・・・譬えが悪かったわ・・ごめんなさい」
そうか、こいつも所詮は犬だったのか・・・
俺はうなだれているオスの肩に前足を置いて・・・
「ワン!ワン!」(出直してこい!)
と言ってやった。
「え、私が序列一番低いのか?」
「ワン!ワン!」(群れに入れねえ!)
そう、人は何かしらの犬なのかもしれない。
俺はご主人エリザベーターの犬だ!
それは譲れない。
最後までお読み頂き有難うございました。




