異世界料理禁止令
「おいおい見たかよ今回の立て札」
「ああ。勇者様が教えてくれた料理のことだろ?」
「それを禁止するんだってマジかよ……」
ある王国の国王がとある法律を施行しました。
国民が驚きの声を上げています
「この国を救ってくださった勇者様の料理だろ?」
「なんか理由あるのかな?禁止にする理由が」
「勇者様が自分の世界に戻られて結構経つよなあ」
人々が思い思いの言葉を口にしました。
みんながみんな首を傾げ家路についていきます。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
しばらくして町は平穏を取り戻しました。
ある日のこと少女が一人森の道を歩いています。
「困ったら森にいる錬金術士さんを頼りなさい、か」
薄暗い森の中警戒しながら少女はつぶやきました。
自分を奮い立たせて歩き続けます。
少しして急に視界が明るくなりました。
「川がある……って私森を抜けちゃったの?」
少女がきょろきょろと周囲を見渡します。
「どうしたんですか?こんなところで」
川で釣りをしていた男性が声をかけてきました。
「あの!私この森にいる錬金術師さんを探してて!」
「ああはい。私がそうですよ」
錬金術師は帽子をとって軽く会釈をします。
「あわたしアイって言います」
「私はクローです。どうしたんですか?一人で?」
「あの父が病気で!それで森に」
アイの話を聞いてクローは片付け始めました。
「わかりました。すぐ行きましょう」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ★
「これで大丈夫ですよ。明日には目を覚ますかと」
「ありがとうございます」
「なにかお礼ができたら……」
アイとアイの母親がそれぞれ言葉を口にする。
「なら食事をお願いします。くいっぱぐれまして」
クローの言葉にアイと母親は言葉を失いました。
「あれ?ここ食堂ですよね?」
「あはい。先日まではそうでした」
「なにかあったんですか?」
「実は王様が異世界料理禁止令を出しまして」
「?えーと森住まいなもので世俗には疎くて……」
クローが恥ずかしそうに頬をかいて質問します。
「この店は勇者様の世界の料理専門店だったんです」
アイが困った顔で質問に答えました。
「店も拡張してこれからって時に……」
「王様はなにを考えておられるのでしょう?」
「うーん上には上の考えがありますから……」
「それはそうですよね……」
「みんな困ってるから早く終わってほしいわね」
アイの母親は少し疲れている様子で話します。
せめてものお礼なのかクローにお茶をいれました。
「わかりました」
その姿からクローは意を決して口を開きます。
「知り合いのつてをたどってなんとかしてみます」
「いいんですか?」
「袖振り合うのも他生の縁と言いますし」
「勇者様の言葉ですね」
「はい。この国を救ってくれた方の言葉です」
クローはほほ笑んでアイに返事をしました。
「数日後にお父さんの様子を見にまた来ますね」
グイっとクローはお茶を飲み干します。
そして帽子をかぶって店を後にしました。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ★ ★
「こんにちは。どうですか?お父さんの具合は」
「あクローさんこんにちは」
笑顔のクローにアイがぺこりとお辞儀をします。
「おかげさまで元気になりました」
「それはよかった。まだなにか悩み事でも?」
アイの顔が曇っていました。
「あ、はい。その手紙が届きまして――」
心配して声を掛けたクローにアイは返事をします。
「その人がクローさんかい?薬ありがとうね」
「お父さん!」
「ついさっき手紙が届いてね」
アイの父親は神妙な面持ちで手紙を出しました。
それを受け取るとクローは封を開けます。
「えーっと『貴店は選ばれた』――」
クローの顔が真顔になっていきました。
「どう思うかね?」
「ガス抜きですね。要は」
「そうかやっぱりか」
「まあ大臣の署名もありますし大丈夫と思いますよ」
「なんの話なの?」
アイが話に割って入ります。
「文字は読めるようにって言ったろ?」
「あははは……お店で使うかなって」
「メニュー読んだりいろいろあるんだぞ」
「外に今日のランチとかね。でガス抜きって?」
「勇者様が残した言葉でストレス解消って意味だ」
アイの父親がアイに言葉の意味を教えました。
「まとめると勇者様の料理を提供してねって話です」
クローが手紙の内容をまとめアイに告げます。
「え?じゃあうち営業できるの?」
「特定の時間だけな。にしても条件がなあ」
父親の困った様子での言葉にアイは聞きました。
「伝統料理を一品付け加えろってあるんだよ」
「ワレオカッカの実とペペロムーナ草ならうちに」
アイの父親の顔が一気に晴れていきます。
「くれるのかい?」
「ええ。栽培で余ってますし手伝いますよ」
「いいのかい?」
「はい、乗り掛かった舟ですから」
「ありがとう!助かるよ!」
興奮する父親をアイはぽかんとして見ていました。
「ワレオカッカの実とかペペロムーナ草ってなに?」
「実を砕いてムーナ草に振りかけて食べる前菜だよ」
「そんな料理あったんだ……初耳ー」
「俺の母さんがよく作ってくれたな。懐かしいぜ」
「アイさんが初めてならおいしいのを選びますね」
アイは見た目と味を想像している様子です。
そんなアイを二人は温かな目で見ていました。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ★ ★ ★
「はい!ハンバーグ定食とオムライスできたよ!」
「次ペペロンチーノでその後お寿司とカツ煮定食!」
「はいよ!ええい人手が欲しいぜ!」
店の地下は戦場さながらに混み合っています。
その中でアイの父親から本音がこぼれました。
「ならゴーレム出しますね」
耳ざとく聞いてきたクローが袋に手を入れます。
袋から出した人形はみるみる大きくなりました。
「クローさんそれは?」
興味津々の顔でアイがクローに聞いてきます。
「彼ですか?彼は弁圧式お料理ゴーレムK型――」
大きくなったゴーレムの目が光り動き出しました。
「通称ベンケー君です!」
「良いねえ助かるよ。皿洗いとかもできそうかい?」
クローはもう一体人形を袋から取り出します。
「その子は?」
「与圧式家事用ゴーレム1号――通称ヨイチ君です」
ナスの葉を思わせる頭のヨイチも動き始めました。
「ベンケー君は和食をヨイチ君は皿洗いを」
「テヤンデイ!マカサレタ!テヤンデイ!」
「カシコマリマシタ」
ベンケーとヨイチはそう言い持ち場に向かいます。
「そういえばお父さん」
「ん?どうした?」
「お寿司ってさ食べる順番どうだっけ?」
アイの言葉にアイの父親の手が止まります。
「ベンケー君はなにか知ってる?」
「出シタ順番!出シタ順番!」
威勢よくベンケーが答えました。
「えーっと今回は一人前だから……」
困った顔と声でアイが返答します。
「でしたら左からにしときましょうか。今は」
「ガッテン!左カラ!左カラ!」
「おう!それで頼むぜ!」
アイの父親は提案を快諾しました。
厨房はまたあわただしく動き出します。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ★ ★ ★ ★
「ふう。今日も疲れましたね」
クローは家に帰ると帽子をハンガーにかけました。
「もうこんな時間ですか。通信は――来てますね」
そういうとクローは水晶玉に手を近づけます。
『なにかそちらでありましたか?』
通信先からは心配そうな声がしました。
「ガス抜きのお手伝いをしてまして」
『ああだから遅くなったのですね』
「それでそっちは?」
クローは相手に聞き返します。
『首尾は上々といったところでしょうか』
「それはありがたいですね」
クローはやんわりとした声で相手を労いました。
『はい。あと数日で帰還のめどが立つかと』
「助かります。あとは気づいてくれることですね」
『それと休まれることでしょうか』
「そうですね。お互い休めるときは休みましょう」
『はい。こちらは引き続き任務を続けますね団長』
その声を最後に通信は切れクローは一息つきます。
「本当に気づいていただけると嬉しいですね」
クローはそう呟いて体を休める準備を始めました。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ★ ★ ★ ★ ★
「唐揚げ定食と味噌ラーメンお持ちいたしました」
クローはそう言って料理をお客の前に置きます。
嬉しい悲鳴を背中で聞き空テーブルに向かいました。
「ヨイチ君、お願いしますね」
「ウケタマワリマシタ」
クローは回収した食器をヨイチに渡します。
「あクローさん!」
「どうしました?」
「あの人たち剣とか小野とか持ってますよ!?」
アイの声でクローは入り口を見ました。
武器や鎧で身を固めた数人が入ってきたのです。
「受付兼会計のアイさんの母君を信じましょう」
「信じるって……」
「お腹が空いて気が立っていると思いますよ」
少しアイの母親と会話すると武器を預けました。
そして空テーブルに向っていきます。
「ほら大丈夫だったでしょう?」
「本当だ……どうしてわかったんです?」
安心した様子でアイはクローに聞きました
「ここはガス抜きですから」
クローはそう言うとよいしょと料理を持ちます。
「この料理、運んできますね」
☆ ☆ ☆ ☆ ★ ★ ★ ★ ★ ★
「お母さんこの料理なあに?」
「これはねワレオカッカの実とペペロムーナ草よ」
「久しぶりに食べるなこれ……うん懐かしい味だ」
「そういえば昔は毎日食べてたわよねこの料理」
「勇者様の料理が広まってからすっかり忘れてたよ」
とある家族の会話をクローは耳にしました。
(そろそろ気づいていただけたでしょうか?)
クローは嬉しさを胸に秘め仕事に専念します。
☆ ☆ ☆ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
しばらくしてある日クローが店を出ました。
するとそこに人々が駆け抜けていきます。
「勇者様の料理の禁止令解除だってよ!」
「マジかよ!?」
「ああマジもマジだ!立て札見に行こうぜ!」
「解除ですか?禁止令が」
クローの後ろからアイが話しかけてきました。
「そうみたいですね」
「するとどうなるんでしょう?」
「昔の通り勇者様の料理専門店に戻るわけですね」
クローがわかりやすくアイに説明します。
「え!?じゃあクローさんは?」
驚いた様子でアイはクローにたずねました。
クローは困った顔でほほ笑みを返します。
☆ ☆ ☆ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
「ご苦労だった。魔術師団の諸君」
「大臣閣下からのお言葉恐悦至極にございます」
「クロー殿が民の声を届けたおかげでもある」
王宮の一室で大臣がクローに声をかけました。
「ほかの団員も伝統料理の素材の採取ご苦労だった」
「はっ!ありがたき幸せに存じます」
「諸君らの働きで禁止令の早めの解除を誇りに思う」
大臣は魔術師団員にも声をかけます
「食材の栽培や育成はこちらで行おう」
クローたちが改めて大臣に頭を下げました。
大臣は食材を手に嬉しそうに去って行ったのです。
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「一人残って民の動向を探るとは頭が下がります」
「陛下も民にわかるよう言ればよかったのでは?」
魔術師団員が口々にクローに声をかけ始めます。
「気づいてこそ身につくものですよ」
「伝統料理の良さに気づく、ですか?」
「それもあります」
ふっとクローの脳裏にアイがよぎりました。
クローは大きく深呼吸してまた口を開きます。
「勇者殿が残した知識や技術は斬新で鮮明です」
「はい。我々もそちらに気を取られすぎていました」
「そうですね昔から続くものに目を背けて、ね」
「耳が痛いっスね」
ある団員の声に皆は乾いた笑いを漏らしました。
「今回の一件は私個人も嬉しかったですよ」
少しふらついたクローは団員たちと街を見ます。
「昔から続くものと」
なにかを乗せる形でクローは右手を開きました。
「勇者殿がもたらしたものと」
クローは左手もなにかを乗せる形で開きます。
「共存出来たら素敵ですね」
団員たちはクローの言葉に耳を傾けていました。
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しばらくあたりを静寂が包みます。
「さてと話も終わったとこですし」
クローとの通信していた声がそれを破るのでした。
「団長殿には休暇に入っていただきたく」
「はい?」
「団長は働きすぎです」
「副団長たちは?」
聞き返すクローに副団長はフッと笑います。
「我々はなんだかんだで休んでます。なあ?」
副団長の声に団員たちが賛同の声を上げました。
「わかりました。お言葉に甘えます」
「ため息やふらつき少しお疲れが見えてますよ」
副団長の安心した声があたりを包みます。
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「せっかくの休暇ですし会いに行きますか」
疲れた体を起こしクローは帽子を探し始めました。
「あった。確かこれですね」
それはクローとアイが初めて会った時の帽子です。
(アイさん元気でしょうか)
クローははやる気持ちを抑え店へと急ぐのでした。




