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イベント・春

異世界料理禁止令

作者: 雪陽炎
掲載日:2026/05/14




「おいおい見たかよ今回の立て札」

「ああ。勇者様が教えてくれた料理のことだろ?」

「それを禁止するんだってマジかよ……」

 ある王国の国王がとある法律を施行しました。

 国民が驚きの声を上げています

 

「この国を救ってくださった勇者様の料理だろ?」

「なんか理由あるのかな?禁止にする理由が」

「勇者様が自分の世界に戻られて結構経つよなあ」

 人々が思い思いの言葉を口にしました。

 みんながみんな首を傾げ家路についていきます。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 しばらくして町は平穏を取り戻しました。

 ある日のこと少女が一人森の道を歩いています。

「困ったら森にいる錬金術士さんを頼りなさい、か」

 薄暗い森の中警戒しながら少女はつぶやきました。

 自分を奮い立たせて歩き続けます。

 少しして急に視界が明るくなりました。

 

「川がある……って私森を抜けちゃったの?」

 少女がきょろきょろと周囲を見渡します。

「どうしたんですか?こんなところで」

 川で釣りをしていた男性が声をかけてきました。

「あの!私この森にいる錬金術師さんを探してて!」

「ああはい。私がそうですよ」

 錬金術師は帽子をとって軽く会釈をします。


「あわたしアイって言います」

「私はクローです。どうしたんですか?一人で?」

「あの父が病気で!それで森に」

 アイの話を聞いてクローは片付け始めました。

「わかりました。すぐ行きましょう」

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ★

 

「これで大丈夫ですよ。明日には目を覚ますかと」

「ありがとうございます」

「なにかお礼ができたら……」

 アイとアイの母親がそれぞれ言葉を口にする。

「なら食事をお願いします。くいっぱぐれまして」

 クローの言葉にアイと母親は言葉を失いました。

 

「あれ?ここ食堂ですよね?」

「あはい。先日まではそうでした」

「なにかあったんですか?」


「実は王様が異世界料理禁止令を出しまして」

「?えーと森住まいなもので世俗には疎くて……」

 クローが恥ずかしそうに頬をかいて質問します。

「この店は勇者様の世界の料理専門店だったんです」

 アイが困った顔で質問に答えました。

「店も拡張してこれからって時に……」

「王様はなにを考えておられるのでしょう?」

「うーん上には上の考えがありますから……」

「それはそうですよね……」

「みんな困ってるから早く終わってほしいわね」

 アイの母親は少し疲れている様子で話します。

 せめてものお礼なのかクローにお茶をいれました。

 

「わかりました」

 その姿からクローは意を決して口を開きます。


「知り合いのつてをたどってなんとかしてみます」

「いいんですか?」

「袖振り合うのも他生の縁と言いますし」

「勇者様の言葉ですね」

「はい。この国を救ってくれた方の言葉です」

 クローはほほ笑んでアイに返事をしました。

「数日後にお父さんの様子を見にまた来ますね」

 グイっとクローはお茶を飲み干します。

 そして帽子をかぶって店を後にしました。

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ★ ★

 

「こんにちは。どうですか?お父さんの具合は」

「あクローさんこんにちは」

 笑顔のクローにアイがぺこりとお辞儀をします。

「おかげさまで元気になりました」

「それはよかった。まだなにか悩み事でも?」

 アイの顔が曇っていました。

「あ、はい。その手紙が届きまして――」

 心配して声を掛けたクローにアイは返事をします。

 

「その人がクローさんかい?薬ありがとうね」

「お父さん!」

「ついさっき手紙が届いてね」

 アイの父親は神妙な面持ちで手紙を出しました。

 それを受け取るとクローは封を開けます。


「えーっと『貴店は選ばれた』――」

 クローの顔が真顔になっていきました。

「どう思うかね?」

「ガス抜きですね。要は」

「そうかやっぱりか」

「まあ大臣の署名もありますし大丈夫と思いますよ」

「なんの話なの?」

 アイが話に割って入ります。

「文字は読めるようにって言ったろ?」

「あははは……お店で使うかなって」

「メニュー読んだりいろいろあるんだぞ」

「外に今日のランチとかね。でガス抜きって?」

「勇者様が残した言葉でストレス解消って意味だ」

 アイの父親がアイに言葉の意味を教えました。


「まとめると勇者様の料理を提供してねって話です」

 クローが手紙の内容をまとめアイに告げます。

「え?じゃあうち営業できるの?」

「特定の時間だけな。にしても条件がなあ」

 父親の困った様子での言葉にアイは聞きました。

「伝統料理を一品付け加えろってあるんだよ」

「ワレオカッカの実とペペロムーナ草ならうちに」

 アイの父親の顔が一気に晴れていきます。

「くれるのかい?」

「ええ。栽培で余ってますし手伝いますよ」

「いいのかい?」

「はい、乗り掛かった舟ですから」

「ありがとう!助かるよ!」

 興奮する父親をアイはぽかんとして見ていました。


「ワレオカッカの実とかペペロムーナ草ってなに?」

「実を砕いてムーナ草に振りかけて食べる前菜だよ」

「そんな料理あったんだ……初耳ー」

「俺の母さんがよく作ってくれたな。懐かしいぜ」

「アイさんが初めてならおいしいのを選びますね」

 アイは見た目と味を想像している様子です。

 そんなアイを二人は温かな目で見ていました。

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ★ ★ ★

 

「はい!ハンバーグ定食とオムライスできたよ!」

「次ペペロンチーノでその後お寿司とカツ煮定食!」

「はいよ!ええい人手が欲しいぜ!」

 店の地下は戦場さながらに混み合っています。

 その中でアイの父親から本音がこぼれました。


「ならゴーレム出しますね」

 耳ざとく聞いてきたクローが袋に手を入れます。

 袋から出した人形はみるみる大きくなりました。

「クローさんそれは?」

 興味津々の顔でアイがクローに聞いてきます。

「彼ですか?彼は弁圧式お料理ゴーレムK型――」

 大きくなったゴーレムの目が光り動き出しました。

「通称ベンケー君です!」


「良いねえ助かるよ。皿洗いとかもできそうかい?」

 クローはもう一体人形を袋から取り出します。

「その子は?」

「与圧式家事用ゴーレム1号――通称ヨイチ君です」

 ナスの葉を思わせる頭のヨイチも動き始めました。

「ベンケー君は和食をヨイチ君は皿洗いを」

「テヤンデイ!マカサレタ!テヤンデイ!」

「カシコマリマシタ」

 ベンケーとヨイチはそう言い持ち場に向かいます。

 

「そういえばお父さん」

「ん?どうした?」

「お寿司ってさ食べる順番どうだっけ?」

 アイの言葉にアイの父親の手が止まります。


「ベンケー君はなにか知ってる?」

「出シタ順番!出シタ順番!」

 威勢よくベンケーが答えました。

「えーっと今回は一人前だから……」

 困った顔と声でアイが返答します。

「でしたら左からにしときましょうか。今は」

「ガッテン!左カラ!左カラ!」

「おう!それで頼むぜ!」

 アイの父親は提案を快諾(かいだく)しました。

 厨房(ちゅうぼう)はまたあわただしく動き出します。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ★ ★ ★ ★


「ふう。今日も疲れましたね」

 クローは家に帰ると帽子をハンガーにかけました。

「もうこんな時間ですか。通信は――来てますね」

 そういうとクローは水晶玉に手を近づけます。

 

『なにかそちらでありましたか?』

 通信先からは心配そうな声がしました。

「ガス抜きのお手伝いをしてまして」

『ああだから遅くなったのですね』

「それでそっちは?」

 クローは相手に聞き返します。

『首尾は上々といったところでしょうか』

「それはありがたいですね」

 クローはやんわりとした声で相手を(ねぎら)いました。


『はい。あと数日で帰還のめどが立つかと』

「助かります。あとは気づいてくれることですね」

『それと休まれることでしょうか』

「そうですね。お互い休めるときは休みましょう」

『はい。こちらは引き続き任務を続けますね団長』

 その声を最後に通信は切れクローは一息つきます。

 

「本当に気づいていただけると嬉しいですね」

 クローはそう呟いて体を休める準備を始めました。

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ★ ★ ★ ★ ★

 

「唐揚げ定食と味噌(みそ)ラーメンお持ちいたしました」

 クローはそう言って料理をお客の前に置きます。

 嬉しい悲鳴を背中で聞き空テーブルに向かいました。

 

「ヨイチ君、お願いしますね」

「ウケタマワリマシタ」

 クローは回収した食器をヨイチに渡します。


「あクローさん!」

「どうしました?」

「あの人たち剣とか小野とか持ってますよ!?」

 アイの声でクローは入り口を見ました。

 武器や鎧で身を固めた数人が入ってきたのです。

 

「受付兼会計のアイさんの母君を信じましょう」

「信じるって……」

「お腹が空いて気が立っていると思いますよ」

 少しアイの母親と会話すると武器を預けました。

 そして空テーブルに向っていきます。

「ほら大丈夫だったでしょう?」

「本当だ……どうしてわかったんです?」

 安心した様子でアイはクローに聞きました

「ここはガス抜きですから」


 クローはそう言うとよいしょと料理を持ちます。

「この料理、運んできますね」


 ☆ ☆ ☆ ☆ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

「お母さんこの料理なあに?」

「これはねワレオカッカの実とペペロムーナ草よ」

「久しぶりに食べるなこれ……うん懐かしい味だ」

「そういえば昔は毎日食べてたわよねこの料理」

「勇者様の料理が広まってからすっかり忘れてたよ」

 とある家族の会話をクローは耳にしました。

(そろそろ気づいていただけたでしょうか?)

 クローは嬉しさを胸に秘め仕事に専念します。

 

 ☆ ☆ ☆ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 しばらくしてある日クローが店を出ました。

 するとそこに人々が駆け抜けていきます。

「勇者様の料理の禁止令解除だってよ!」

「マジかよ!?」

「ああマジもマジだ!立て札見に行こうぜ!」

「解除ですか?禁止令が」

 クローの後ろからアイが話しかけてきました。

「そうみたいですね」

「するとどうなるんでしょう?」

「昔の通り勇者様の料理専門店に戻るわけですね」

 クローがわかりやすくアイに説明します。

「え!?じゃあクローさんは?」

 驚いた様子でアイはクローにたずねました。

 クローは困った顔でほほ笑みを返します。


 ☆ ☆ ☆ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


「ご苦労だった。魔術師団の諸君」

「大臣閣下からのお言葉恐悦至極(きょうえつしごく)にございます」

「クロー殿が民の声を届けたおかげでもある」

 王宮の一室で大臣がクローに声をかけました。

「ほかの団員も伝統料理の素材の採取ご苦労だった」

「はっ!ありがたき幸せに存じます」

「諸君らの働きで禁止令の早めの解除を誇りに思う」

 大臣は魔術師団員にも声をかけます

「食材の栽培や育成はこちらで行おう」

 クローたちが改めて大臣に(こうべ)を下げました。

 大臣は食材を手に嬉しそうに去って行ったのです。

 

 ☆ ☆ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

「一人残って民の動向を探るとは(あたま)が下がります」

「陛下も民にわかるよう言ればよかったのでは?」

 魔術師団員が口々にクローに声をかけ始めます。


「気づいてこそ身につくものですよ」

「伝統料理の良さに気づく、ですか?」

「それもあります」

 ふっとクローの脳裏にアイがよぎりました。

 クローは大きく深呼吸してまた口を開きます。

 

「勇者殿が残した知識や技術は斬新で鮮明です」

「はい。我々もそちらに気を取られすぎていました」

「そうですね昔から続くものに目を背けて、ね」

「耳が痛いっスね」

 ある団員の声に皆は乾いた笑いを漏らしました。

 

「今回の一件は私個人も嬉しかったですよ」

 少しふらついたクローは団員たちと街を見ます。


「昔から続くものと」

 なにかを乗せる形でクローは右手を開きました。

「勇者殿がもたらしたものと」

 クローは左手もなにかを乗せる形で開きます。

「共存出来たら素敵ですね」

 団員たちはクローの言葉に耳を傾けていました。

 

 ☆ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 しばらくあたりを静寂が包みます。

 

「さてと話も終わったとこですし」

 クローとの通信していた声がそれを破るのでした。

「団長殿には休暇に入っていただきたく」

「はい?」

「団長は働きすぎです」

「副団長たちは?」


 聞き返すクローに副団長はフッと笑います。

「我々はなんだかんだで休んでます。なあ?」

 副団長の声に団員たちが賛同の声を上げました。

 

「わかりました。お言葉に甘えます」

「ため息やふらつき少しお疲れが見えてますよ」

 副団長の安心した声があたりを包みます。

 

 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


「せっかくの休暇ですし会いに行きますか」

 疲れた体を起こしクローは帽子を探し始めました。

「あった。確かこれですね」

 それはクローとアイが初めて会った時の帽子です。

 

(アイさん元気でしょうか)

 クローははやる気持ちを抑え店へと急ぐのでした。


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― 新着の感想 ―
目新しい外来文化に興味を惹かれるのは人情ですが、それで自国の土着文化が忘れ去られる事になっては確かに考えものですよね。 ブータンが民族衣装の着用を国民に義務付けているのもそうした国家のアイデンティティ…
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