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月曜日

「えぇ?!」


小雨の降る月曜の出来事だった。

「マジごめん、佐井田さん。、、、今日、帰れる?」


「う、うん、大丈夫よ、バスで帰れるから、、。

でも、もう絶対勝手に使わないでよね!!!」


しゅぼんと肩を落としている彼を目の前にそんなに強くは言えない。

香谷くんはたまたまあった私の自転車を昼休みに拝借して、しかも電柱にぶっこんで、前輪をまるごと壊してしまったらしい。

ありえない。


というか、

困った。

明日の朝はバスでこなくちゃならない。

バスかぁ、、、。


帰るときは時間を合わせればいいものの、田舎の私のうちはバスは一時間に一本しかない。


、、、明日は4時起きだわ、、、、。

今度は私が弱っているのに彼が気づいたのだろうか。じっと見られている気がして、私は顔を上げた。



「佐井田さん、」

「ん?」


「うちに泊まる?」


眼が点になった。


はい?


「自転車直るまで。佐井田さんち遠いんでしょ。うち、俺以外誰もいないし。」

切れ長の二重の眼が私をのぞきこむ。


いやいや、、


そーゆう問題じゃあないでしょ。


私、


香谷君のみょうじしか知らなかったし。

今日初めて、クラスが6組だと知ったし。


しかもあたし


一応

おんななんだけど。


「大丈夫だよ。」

ひきつるようにして見上げたわたしに香谷君は、

「俺んちの別宅の、祖母んとこ、使いなよ。」と続けた。


、、、ちょっと、ちょっとだけど、考えを飛ばしてしまった自分が、はずい。


そーいうことは先に言ってよね。


でもだからって、、、、、。



「、だからって、、!」

私を置いて、香谷くんはすたすたと先を歩いていく。

おい!

「ちょっと、!香谷君っ!!」

振り返って、にっこりわらって、

「こっちだよ〜」


っておぉおーいっ!!!






ついてしまった。


ついてきてしまった。



正確に言うと、彼の足が速すぎて、追いつけなかった。



なんとなく、他の子に気づかれたくなくて、


「ちょっと、」「まってよ!」と小声で叫びながら、

追っていたのだが、、、、、。


追いつけない。


負けじとだんだんと歩く速度を上げた。

が、


速い、、、!




最後は全力疾走だった。


まぁ、50mを9秒台しか出せない私が、スポーツ万能と思われそうなひょろっと足の長い彼に追いつけるわけがない。


この人だって、帰宅生のくせに!


、、間違いないのは、

私は絶対香谷君にからかわれている。


まちがいなく、おもしろがられている。


今日の、

どの時点からか、は分からないが、確実に彼は私をそう認識している。



、いや、すでに自転車を拝借した時点でうすうす気づいていたのかもしれない。


ねぇ、おもしろい?とすんごいにらみを利かせて、聞いてやろうと思ったのだが、


ぐぅうう〜〜〜



、鳴った。



わたしのおなか。


「まずはごはん食べよっか。」

彼はにこやかに私に振り返る。


「顔真っ赤だよ。」

彼が家の中へするりと入っていく。

いまぜったいわらってた!

わたしは自分のあまりの不具合に、親指と人差し指で、わき腹をぐいっとつねった。





あたしはひどくいらついた。

そしてリビングのソファの真ん中にどっかと身を据えていた。

彼から一番最初にここに案内されてから、一度も、一歩も、動いていない。


彼が、キッチンでばたばたやっているのも、

「今日はなににしようか」「トマトかな、、」などと言っているのにも耳を貸さず、

ただただ押し黙っていた。



はたかれ見れば、えらく無礼な客人にみえるだろう。


それでも、わたしは座りつづけた。


彼が私の自転車を壊したからよ!だからここ座ってるの!と。



しかし、


ついてきたのはあなたなのに?


おなかがすいているのはあなたなのに?



目の前にあるバニーちゃんがしゃべったような気がして、私は彼女の顔面をこぶしでなぐった。










そんな押し問答を繰り返すうちに、



「はい、できたよー」



、、、、、。


香谷君の声が聞こえる。

「できたよ」


ん?


「おはよう、佐井田さん」彼の綺麗な顔が目の前に、

ある。

がばぁっと身を起こす。

彼と頭をぶつけなかったのが奇跡のようだ。


、、、、、

まさか、

まさかまさかまさか?!


「ごめん」

さすがの私も体裁が悪くて、身体から素直に言葉が出た。


「、寝てた、」

同時に身体から火を噴きそうだ。




「疲れてるんだね。ご飯食べてからゆっくりしなよ。」


香谷くんにうながされるまま、テーブルに着く。もはや何も言えない。



「!」


私は目を見開いた。


ごはんにおくらの味噌汁に、トマトと鶏肉の煮込み、あとタコとキュウリの酢の物と、おつけもの。


すごく一般的な家庭料理だ。

こんなの作れるなんで。

あたしよりすごい。

「どうぞ、召し上がれ」

「、、いただきます。」

おいしい。

お味噌汁はダシがきいているし、鶏肉はとても柔らかい。キュウリは甘さが絶妙だし、漬け物だってこのままパクパクいけてしまう。


ひととおり食したところで、彼が私をじっと見ているのに気がついた。


いけない。


寝ぼけて食欲に任せてもくもくと食べてしまった。


「おいしい、、」

まだ口をもごもごさせながら、私はつぶやいた。


「気にいった?それ粕漬けっていうんだ。」


あぁー、そうじゃないよ、香谷くん。

慌てて、首を振る。

「そうじゃなくって、」

クエスチョンになっている彼に続ける。


こういう時だけは少年の顔をするんだなぁ。


「全部、

全部おいしい。」

彼の白い頬に朱が差す。「香谷くんって料理上手いんだね。」

思わず、私の口元も上がる。


「よかった。」

香谷くんも笑う。



なんか、変なの。


なのに、



思わずふたりで笑いあった。






「ねえ、ほんとにいいの?」「いいって。」のやり門答を繰り返すうちに、だんだんと日も落ち、夜になる。



彼の両親も祖母も旅行中。

あたしは元々祖母と二人暮らしな上、今は祖母は一週間親戚んちに泊まっているから誰もいない。

なんたる偶然。


食事と後片付けも終えたので、香谷君に案内され、おばあちゃん宅のほうの通路へ向かう。


あ!


しまった。


制服はいいけど、他は何にもない。歯ブラシもないし、シャンプーもないし、リンスない。その他、もろもろ、のも。


明日の生物Ⅱの教科書もない。


しかも明日小テストだ。

やっぱり帰れば、、。

今日何度考えただろう。



後ろのあたしの動揺に彼は気づいたようだった。


が、すぐぽんっと合点のポーズをして、自分の部屋の中へ入り、あちこちがさごそし始めた。


一瞬、いや、一時、ぽかんとしていた私にぽぽいっといろんなものを投げ渡す。



使い捨ての歯ブラシやら、リンスやら、タオルやら、を。


これでい?と渡されたのは、彼の黒いTシャツ2枚。


あとこれもいちお、といってリセッシュ緑茶の香り。「んじゃおやすみ」といって彼は自分ちのほうへ歩いていってしまった。

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