第二話 訓練学校への道
人と悪魔は、対立する存在ではない。
この世界では、はるか昔から共に生き、共に文明を築いてきた。
人間の家系と悪魔の家系は、生まれた瞬間から結びついている。
人間が生まれれば、対応する悪魔も同じ日に生まれる。
それは偶然ではなく、血と運命による“対”だ。
10歳になると、人と悪魔は初めて顔を合わせ、契約を結ぶ。
契約を結んだ者は、人間悪魔――通称「じんま」と呼ばれる。
じんまの力はさまざまだ。
生活を支える力、補助的な力、そして――攻撃のための力。
攻撃系の能力を持つじんまは希少で、
人々は彼らを特別な存在として扱う。
それが、
この世界で「強能力」と呼ばれる者たちだ。
これは、その強能力の一人――
音の悪魔と契約した少年の物語である。
第二話 訓練学校への道
訓練学校へ向かう朝は、やけに静かだった。
街はいつも通りなのに、音が少し遠く感じる。
それが緊張のせいなのか、ヴォイスの影響なのかは分からない。
「……心拍、速いな」
頭の奥で、ヴォイスの声が響いた。
感情を読むみたいに、淡々と。
「当たり前だろ。今日が試験なんだから」
そう返すと、ヴォイスは少しだけ沈黙した。
訓練学校は、街の中心から少し離れた場所にある。
巨大な構造物が重なり合い、色彩と金属が混ざったその景色は、どこか非現実的だった。
高低差のある足場、インクのように見える舗装、空中に伸びる通路。
――戦うために作られた街。
そう直感した。
正門の前には、同年代のじんまたちが集まっていた。
緊張で固まっている者、余裕そうに笑っている者、すでに悪魔と口論している者。
全員、12歳。
全員、何かを背負ってここに来ている。
「編入生か?」
突然、声をかけられた。
振り向くと、同じ制服を着た少年が立っていた。
鋭い目つきで、こちらを値踏みするように見てくる。
「そうだけど」
「ふーん。珍しいな」
それだけ言って、興味を失ったように去っていった。
……ここでは、それが普通なんだろう。
試験開始の合図が鳴る。
低く、重い音。
最初の試験は、能力測定。
順番に呼ばれ、簡単な指示に従って力を使うだけ――のはずだった。
「次、編入生。前へ」
視線が一斉に集まる。
背中が少しだけ重くなる。
ヴォイスが、静かに言った。
「抑えろ。まだ見せるな」
「分かってる」
深呼吸して、一歩前に出る。
指示は単純だった。
――対象物に能力を使え。
僕は手を伸ばし、音を“鳴らす”。
次の瞬間、影から無数の煙が立ち上がった。
空気が震え、低い共鳴音が広がる。
対象物は壊れなかった。
ただ、存在そのものが揺れた。
ざわめきが起こる。
試験官の一人が、眉をひそめた。
「……記録にないな」
「音系か?」
「いや、それだけじゃない」
ヴォイスが、低く笑った。
「ほらな。普通じゃない」
試験官は咳払いをして言った。
「次の試験に進め」
その一言で、空気が変わった。
好奇の視線、警戒の視線、期待――そして、恐れ。
僕はまだ何もしていない。
それなのに、もう目立ってしまった。
次の試験は、実戦形式らしい。
足場が動き、フィールドが組み変わる。
この場所が“街”の形をしている理由が、ようやく分かった。
「ここからが本番だ」
ヴォイスが告げる。
僕は拳を握りしめた。
――ヒーローへの道は、
思っていたよりも、騒がしい。
そして、
静かに始まった。
質問があれば気楽にお声掛けください。




