第14話 初期音響(プロト・トーン)
第14話 初期音響
実習場は、校舎地下の広大なスペース。
スプラトゥーンみたいに、高低差のある通路や足場が入り組み、光のラインで区切られている。
「ここで戦闘服の最終チェックを行う」
先生の声が拡張スピーカーを通して響く。
「模擬敵は実体化した訓練用悪魔。
全力で戦え。ただし、施設は壊すな」
教室のざわめきが、一気に引き締まる。
「いよいよだな」
リクは羽織を整え、悪魔と呼吸を合わせる。
無駄がない。動きも落ち着いている。
安定した強さを感じる。
俺は近未来スーツを起動する。
カシャン、と軽い起動音。
LED仮面が顔を覆い、青いラインが脈打つ。
【SYSTEM:EMOTION LINK OK】
【ヴォイス】
「来るぞ、響」
バッグの中のヴォイスも光に包まれ、俺と同じくらいの身長に変化。
戦闘態勢の姿だ。
模擬悪魔が現れる。
速度型、圧力型の混成。
俺たちを囲むように配置される。
「リク、右!」
「任せろ!」
羽織が翻り、悪魔と完全同調したリクが先陣を切る。
無駄のない動きで敵の一体を圧倒する。
(すげえ……)
次は俺の番だ。
息を吸う。
胸の奥がビィン、と鳴る。
LED仮面が光で反応する。
【ヴォイス】
「今だ、響。出せ」
俺は音を“出す”のではなく、定義する。
低く、澄んだ波動が空間に広がる。
視界の端で模擬悪魔が揺れる。
――音の余韻で干渉。
攻撃ではなく、動きを封じる。
「今だ!」
リクが斬り込む。
連携は完璧。模擬悪魔は地面に縫い止められ、拘束完了。
教室にいた他の生徒も息をのむ。
爆発も轟音もない。
ただ、音の余韻だけが空間に残った。
LED仮面の表示が変わる。
【EMOTION:STABLE】
俺は悟る。
(……仮面は、感情だけじゃなく、音と心を同期させるためにあるんだ)
【ヴォイス】
「理解したか、響。
それがお前の戦闘服の意味だ」
先生の声が響く。
「月城、今の音――名前は?」
俺は考える。まだ完成じゃない。
でも、自分の型として認める。
「**初期音響**です」
先生は静かに頷いた。
「いい。
今日からそれがお前の型だ」
実習終了。
リクが肩を叩く。
「前例なしって言われてたけどさ……
もう、作り始めてるじゃん」
俺は仮面の光を見つめ、拳を握る。
まだ未完成。
まだ途中。
でも――
この音は、間違いなく俺のものだ。
誰も知らない俺だけの音で、
世界を守るために。




