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NIGHTMARE RAVENS  作者: 96500C/mol
Chapter 2. 葬送曲 -REQUIEM (Unfinished)-
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#3 人形

 次の日の放課後も、サチはクローディアの「お使い」を頼まれて校内を移動していた。


 小脇に抱えた小さなケースにはルイスの遺品である、二丁拳銃の魔奏器『1812年』が収まっている。見た目も重さも本物のオートマチック拳銃と遜色ない『1812年』は、二つ揃うとずしりと重い。

 目的地はルイスが生前使っていた、学内にある寮の一室である。12歳から20歳まで、8学年が在籍する聖ロアノール音楽学院は全寮制である。かつては男子棟と女子棟が分かれていたものの、今では生徒の大半が女子のため男子棟はほぼ女子に占拠されており、名前もバラ棟とユリ棟に変わっている。ルイスの部屋はバラ棟のそびえたつ塔の中、13階だ。

 塔内の部屋は窓からの見晴らしこそいいものの生徒人気は極めて低く、10階以上ともなるとほとんどが空き部屋となっている。13階まで重いケースを抱えたまま階段を登ったサチは息も絶え絶え、「教室まで遠いから寝坊できない」という人気の低さの理由を、身をもって体感することとなった。


「1312……1313……1314。ここか」


 サチは一旦ケースを床に置き、1314号室の扉をノックした。

 ガチャリとドアを開けて顔を出したのは、ショートカットに空色フレームの眼鏡をかけた女子生徒であった。なぜか、制服の上から白いエプロンをつけ、頭にはひらひらした白いカチューシャを乗せている。見た目にはサチとそう歳の差はないようだ。


「御用でしょうか」

「あの、こちらにムツミさんはいますか」

「ムツミという人間はいませんが、『ムツミ』と呼ばれている()()なら、おそらく私であろうと推測します」


 受け答えを聞いて、サチは彼女こそが会いにきた「ムツミ」であると確信する。ルイスはムツミのことを「妹」と言っていた。ルイスが自律魔導人形であるならば、ムツミもまたそうであると考えるのが自然である。


「誰?」部屋の奥から声がする。

「ユーレンお嬢様、私にお客様が来ました」

「お通ししなさい」


 声の主は「ユーレンお嬢様」なのだろう。この部屋はルイスとムツミの部屋のはずだが、まるで家主のような態度である。

 サチはムツミに導かれ部屋の中に入る。部屋の奥、寝室の内装は他の部屋と同じく3つの窓に左右の壁に寄せて設置されたベッド、それに中央に並ぶ書き物机があるだけのシンプルなもので、飾りはされていないらしく殺風景である。「ユーレンお嬢様」は入って右側のベッドに腰かけており、彼女のベッドの周囲には木箱がいくつも並んでいた。どうやら、ルイスがいなくなって他の部屋からこちらに移ってきたばかりらしい。


「いらっしゃい。わたくしはユーレン・ハルクスス。貴女はどなたかしら」


 ユーレンは編んだブロンドの髪を後頭部でまとめた「お嬢様」然とした女子生徒だった。濃紺が基調のロアノールの制服はあまり似合っておらず、どちらかというとパーティドレスのほうが似合いそうだとサチは思った。胸のスズランの刺繍は五年生らしく五輪、対になる位置に描かれた一輪のハマナスは、楽団リーダーの証。


「サチ・ホシノといいます。今日はムツミさんにこれを届けに来ました」


 サチは苦労してここまで持ってきた魔奏器入りのケースを床に置き、錠を開いてユーレンの傍らに立つムツミに見せる。


「『1812年』じゃありませんか」中身を覗いたユーレンが驚く。「どうして貴女がこれを?」

「遺品なんです、ルイスさんの。ルイスさんは自分が死んだらこれをムツミさんに譲るようにと遺言を遺していたんです」

「あらそう。でも申し訳ないけど、持ち帰ってもらえるかしら」


 ムツミに聞く間もなく、ユーレンが答えた。


「うちの623にはそんなもの必要ないもの。そうよね」

「はい、その通りですお嬢様」ムツミがユーレンに答える。

「623?」ユーレンがムツミを数字で呼ぶことに、サチは困惑した。

「ええそう。あなたが『ムツミ』と呼んでいるのこの子は、我がハルクスス社が製造した自律魔導人形、モデル623。モデル613、あなたたちが『ルイス』と呼んでいた機体の後継機ですわ。見せてあげなさいな、623」

「はいお嬢様」


ムツミが制服の袖をまくると、露出した前腕には分割線が入っていた。ぶん、と振られた前腕から刃物やレンズのようなものが展開し、さらに指も関節の隙間が伸びて手が変形し、砲口を形成する。


「単分子カッターに拡散レーザー迎撃防楯システム、それに魔導プラズマキャノン。どれも最新の技術で開発された、対『臓物』用の魔導火器ですわ」

「人間との連携行動を重視して開発されていたプロトタイプの613とは異なり、私は元より兵器として、要人警護の任務のために開発されているため多数の内蔵火器を備えています。そのため魔奏器に頼らずとも戦闘が可能です」


 サチは驚いて言葉を失ってしまった。

 自律魔導人形――――それに該当するものをサチは二度しか見ていない。ルイスと、このムツミである。

 だが機械でありながら人間的だったルイスと違って、冷たい喋り方をし兵器を満載しているムツミは、どうも人間的とは程遠い。


「そういうことだから。その魔奏器は623には必要ないのよね。学院に寄贈しておいてくださる?」

「で、でも。それがルイスさんの遺言で……」

「遺言ですって? バカバカしい。なんで兵器が遺言なんか遺すんですの」


 ユーレンが茶を出すように指示すると、ムツミは展開していた右腕の武器類を収納しなおし、寝室から出て簡易キッチンへ向かった。


「貴女、ちょっとそこへ座りなさいな」

「はい」


 ユーレンは自分の向かい、おそらくムツミのベッドであろう場所を指さし、サチに座らせた。


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