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NIGHTMARE RAVENS  作者: 96500C/mol
Chapter 1 遭遇 -NIGHT RAVEN-
4/34

#4 疾駆

「……敵ね」


 むくりと起き上がったユリーカが低い声で呟く。

 ユリーカはいつの間にか酒が抜けていたらしい。さっきまでの腑抜けっぷりはどこへやら、険しい顔だ。

 部屋にいるメンバーたちにも緊張が走る。ただ一人、サチは急な出来事におろおろと震えるばかりであった。


「気配が大きいな……クローディアとサチは避難誘導をお願い。ユリィとルイスと私で敵を探ろう。

 手は出さないように。クローディアからの連絡を待って全員でかかる」

「了解」


 「NIGHT RAVEN」のメンバーが、部屋の隅に安置されていたケースからそれぞれの魔奏器を取り出す。ルイスは二丁拳銃、セナは日本刀、そしてユリーカはガラス管とフラスコが奇妙な形に組み合わされた謎の物体だ。しかしそのどれもが『魔女の血球』と戦うために生み出された、音を奏でることで魔法を発動する武器であり、楽器である。

 拳銃を構え、部屋を飛び出していくルイス。その後ろに、セナとユリーカが続く。その背中を見送ったサチは、最後に部屋を出たクローディアに引っ張られてその部屋を後にした。



 遊覧船の中は薄暗かった。左右に客室の並ぶ廊下には数名の乗客がおり、拳銃やら日本刀やら、物騒な武器をもって飛び出していった「NIGHT RAVEN」のメンバーたちの様子に怯えている。サチはクローディアに手を引かれながら、そんな人々の間を駆け抜けた。


「まずは艦橋(ブリッジ)に行きましょう。船員に協力を仰ぐの」

「はい」

「非常事態では『とにかく逃げろ』と指示するか『落ち着いて避難してください』と指示するか、状況によって私たちがとるべき行動は変わるわ。それを誤れば人々はパニックになって、助かる命も助からなくなるかもしれない」


 クローディアも道を急いではいるものの、焦っている、慌てているようにはサチには見えなかった。流石は歴戦の勇士だとサチも感心してしまう。

 階段を2階ほど駆け上がったところでクローディアが突然立ち止まる。その背中に激突したサチがおそるおそる横から顔を出して前を見ると、廊下を乗客たちが右往左往してもみくちゃになっていた。


「この道はダメね。回り道しましょ」


 踵を返すクローディア。サチもくるりと反対を向き、今度は階段を駆け下りる。

 途中で前後をクローディアと入れ替わる。クローディアは迷うこともなく船内を駆け抜けていった。


「あの」

「何かしら」

「さっき話していた、クローディアさんは戦闘が苦手っていうのは、本当なんですか」

「……そうよ。だからこんなことしてるの。

 先陣を切って敵と戦うどころか探すこともせず、あの3人が戦いやすいように、巻き添えになりそうな市民を避難させたり、大人たちとの折衝役をするのが私の仕事」


 ほとんど背中しか見えていないが、クローディアのそれはサチにとって大きく、また頼もしいものに見えた。

 それを見ていると、サチは猛烈に自分が恥ずかしくなる。魔奏士になれない、敵を倒す力がないという現実を突きつけられて打ちひしがれていたが、戦う力が無くても、できることはある。

 現にクローディアはここまで魔法の類を一切使っていない。魔法を使わなくとも、クローディアは自分にできることをやっているのだ。


「あの」

「何かしら。私あまりお喋りは好きじゃないのだけど」

「わたし、なんとなく見つけられた気がします。わたし、クローディアさんみたいになりたいです」

「私?」

「はい。戦う力がなくても、できることをやる……ですよね!」

「いい心がけね。でもそれなら覚えておくことね。人間は誰かみたいになりたいなんて思うものじゃないわ」

「え?」

「たとえ貴女がどれだけ努力して私になろうとしても、貴女は『サチ・ホシノ』にしかなれないってことよ。だからどれだけ努力しても、貴女のその気持ちが満たされる日は永遠に来ない」

「……どういう意味ですか?」

「意味が分からないなら分からなくていいわ。いずれ分かる日が来るかもしれないし、たぶん分からないままのほうが幸せだから」


 クローディアの発言の真意を問いただす暇はサチにはなかった。丁度その瞬間、2人は艦橋に駆け込んだからだ。


「えっ」

「やばっ」


 『それ』はそこにいた。

 大きさは5メートルほど、ぐにぐにと筋肉質でありながらぶよぶよとした、てかりのある薄ピンク色の表皮。頭部や手足を切り落とされた豚のような不気味な外見の怪物だ。

 おおよそ生物の形をしていない、里芋のように丸っこい『それ』は、クローディアとサチを見るなり体をグググと回し、首、と思われる中空の管のような構造物を向けてきた。


「『葬送曲(レクイエム)』ッ!」


 クローディアがその名を叫ぶと、巨大な魔奏器が2人の目の前に突然現れる。

 2mはあろうかという巨大な棺型のそれは、怪物の吐き出した酸から2人を守るように盾になった。


「あの分だともう何人か喰ってるわね」

「『喰ってる』?」

「サチ。下のデッキに行って誰か呼んできてちょうだい。私一人じゃ貴女まで守り切れ――――」


 バキッ。


 怪物は体から触手を伸ばし、クローディアの魔奏器を薙ぎ払う。その隙に、無防備になったクローディアにもう一本の触手が襲い掛かった。


「ぐがっ」


 触手はクローディアの首を締め上げ、空中に持ち上げる。


「……ぐっ! 行きなさい、サチ!」

「クローディアさん!」

「行きなさい、早くッ!」


 触手に締め上げられた首を解こうとクローディアがもがいている。サチはそれを見上げることしかできなかった。

 サチは魔奏器を持っていない。この異形の怪物と戦う手段を持ち合わせていない。この場でサチに出来ることは、一刻も早くセナたちに現状を知らせることだけだ。


「クローディアさん、すぐ戻りますっ!」


 サチはクローディアに背を向け走り出す。


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