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NIGHTMARE RAVENS  作者: 96500C/mol
Chapter 7. 悪夢 -Pied Piper-
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#4 脱出

「めぐ、無事でよかった」


 サチは小道にへたり込んでいた巡璃の前にしゃがみ、その両手を握る。

 温もりのある、柔らかくて小さな手。サチの記憶の中にある巡璃そのものだ。巡璃が『神経』に殺される前まで当たり前に側にあって、その後は二度と触れることが叶わなかった幼い妹の手を握ると、サチは思わず涙があふれそうになる。


「おねえちゃん?」

「そうだよ。おねえちゃんだよ。おねえちゃんね、強くなったの。めぐを守れるくらいになったんだ……!」


 サチは顔を伏せた。

 涙があふれるのを抑えることができない。今日この時を、サチはどれだけ待ち望んだだろうか。目の前で殺された両親と妹。

 その命が失われる様を何度夢に見てきたであろうか。

 何度、力を持たなかったことを後悔しただろうか。

 ついにサチはその悪夢を、覆すことができたのだ。


 この世界は現実ではない。現実ではないからこそ、可能なこともある。サチは殺された家族の復讐のために魔奏士を目指し、そしてそれを夢の中で叶えた。

 涙をぬぐい、サチは顔を上げた。そこには自分が守った巡璃の、あの笑顔が――――



 なかった。


 サチは巡璃の手を離し、木道に尻もちをつく。巡璃の顔は、あの二貌のピエロマスクに変化していたのだ。


「けっけっけ! よぉくオレ様の悪夢を払ったな。褒めてやるぜ! でも、オレはもう目的の第一段階は達成したぜェ? 残念だったな!」

「なっ……⁉」

「冥途の土産に教えてやるよ! オレの目的は、お前の記憶の中から『臓物』を呼び出すことだったのさァ!」


 気配を感じて、サチが振り返る。

 泥の中から、切り伏せたはずの『魔女の神経』がまたも飛び出した。


「オレが有用に、使わせてもらうぜ!」


 きゃきゃきゃと笑うピエロマスクに合わせて、泥の中から次々と『神経』がその触手を出し、くねくねと不気味なダンスを始めた。

 カーニバルというにはあまりにも赤黒い、グロテスクなパーティだ。


「サチ!」


 両腕の魔導プラズマキャノンを発射しながら、小道をムツミが走ってくる。

 『神経』を一撃で焼き払うプラズマキャノンだが、ピエロマスクの操る『神経』は無尽蔵だ。サチはムツミと合流できたものの、周囲を囲まれかなり絶望的な状況である。


「言っとくがな、そいつらはもうオマエの夢の産物じゃネェ。オレ様が、オマエの夢を完全に支配してるんだからなァ!

 つまりは、そいつらに食われればオマエは死ぬ。現実みてェになァ!」

「くっ……!」

「くきゃきゃきゃきゃッ! オマエが死んでから、ゆっくりその『剣の舞』も回収させてもらうぜェ!」


 ぼふん、と煙を出して、ピエロマスクが消失した。

 一緒に巡璃とサチの両親も消えている。その場には背中合わせになったサチとムツミ、そして倒しても倒しても無限に沸いてくる『神経』が残された。


「ムツミ。加速の魔奏で逃げられないかな」

「おそらく無駄でしょう。どこまで逃げても、あのピエロマスクが夢の世界を支配している以上、逃れる方法はありません」

「だよね……どうしよう」

「自爆を含めたあらゆる戦闘パターンを計算しましたが、助かる方法はありません」

「……ムツミがいてくれて心強いような、不安なような。不思議な気持ちだよ」


 状況は絶望的。だが、不思議とサチはまだ死ぬ気がしなかった。

 一度は諦めた命。セナやクローディア、そしてムツミや仲間たちに繋いでもらった希望は、まだサチの胸に宿っている。

 どうせ死ぬなら、最後まで抗ってやる――――サチが「剣の舞」を握りしめた、その瞬間だった。


 ばりん。


 空にヒビが入った。

 見上げるサチとムツミの前で、どんどんと広がっていくヒビ。ここは訓練室だったっけ?とサチが思ったとき。空が割れて、人影が飛び出した。


「えっ、会長⁉」


 レイピアを手に、小道にすたっと降り立つ生徒会長、ヘレナ・ロアノール。

 迫る『神経』の触手を横薙ぎに切り払うと、空間ごと『神経』は切り裂かれて消滅した。


「貴女たち。怪我はない?」

「は、はいっ」


 敵を斬って作られた空間の裂け目を跨ぐヘレナ。

 振り向くこともなく、背を向けたままヘレナはサチに問いかけた。


「このふざけた世界で死ぬか、私に手を貸すか。選びなさい、サチ・ホシノ」

「そんなの、決まってます!」


 サチとムツミはヘレナを追いかけて、夢の世界を脱出した。

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