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NIGHTMARE RAVENS  作者: 96500C/mol
Chapter 1 遭遇 -NIGHT RAVEN-
3/34

#3 真相

「……自殺、ですって?」


 クローディアが刺すような視線をサチに向ける。


「自殺するために学校を抜け出して、湖に飛び込んだっていうの?」


 何も答えないサチ。それを、部屋にいる3人は肯定の意だと受け取った。


「私たちは死のうとしてる人間を助けたってわけ⁉ セナは魔力融合までしたのよ? あれがどれだけ危険な、命がけの術なのか分かっているの?

 死にかけの人間と魂を繋いだら、術者が引っ張られて死ぬことだってあるのよ⁉」

「……わたしだって」サチが口を開く。「『助けてくれ』って言ったわけじゃないです」

「貴女ね……!」

「その辺にしときなよ、クローディア」


 ヒートアップして立ち上がりかけたクローディアをセナがなだめる。


「黙っていられるわけないでしょう! セナは命懸けで貴女を救ったのよ。それなのに……!」

「みなさんには、分からないんですっ」


 クローディアの言葉を遮るように、サチはぽつりと呟いた。


「分かるはずがないんです。特別な才能をもって生まれたみなさんには、わたしの気持ちなんて。魔奏士を目指して学校に入ったのに、全く才能がなくて、どこの楽団にも入れてもらえなくて……。わたしの気持ちなんて、分からないんです」

「……そうだね」


 何か言いかけたクローディアより早く、セナが口を開く。


「世の中には自ら死のうとする人間がいるってことを、私は完全に忘れちゃってたね。そうとは知らずにキミの自決を妨害してしまったこと、まずは謝らせてよ」

「セナ⁉ あなた何言ってるの!」クローディアが金切声を上げたが、セナは耳を貸さなかった。

「私たちはてっきりキミが事故か何かで湖に落ちたんじゃないかと……。同意も得ずに魔力融合を行ったことも謝りたい。あの時、キミの魂は体から抜け落ちかかっていた。繋ぎとめる方法を、私はあれ以外に知らなかったんだ。だけど」


 制服の裾を握ったサチの震える手。セナはサチの隣へ移り、自分の手を伸ばしてそこに重ねた。


「私はキミを救ったことを後悔はしていないし、キミが助かって心から良かったと思ってる。独善的だと思うかもしれないけれど、私はキミに生きて欲しいから」

「わたし、に……?」

「そうだよ。生きていたらいいこともあるだとか、命は何よりも大事だなんて言うつもりはないよ。私はただ、キミに生きて欲しいだけ。

 ほら、私ってワガママだからさ。キミには私のワガママ、聞いて欲しいな。『生きてて欲しい』って、私のワガママ」

「そんなの……」

「押しつけがましいよね。あはは」


 笑うセナ。サチは自然と、握っていた拳が解けていった。

 不思議な人だとサチは思った。サチにとってセナは地位も名誉も、才能にも恵まれた自分よりもはるか上の存在。そんな人間に、自分のことなんて理解できるはずがない。魔奏士になる、そのためだけに生きてきたサチが、才能の壁に阻まれてそれを諦めざるを得なくなったことなど分かるはずがない、そう考えていた。

 だからこそ、サチはセナの言葉に困惑した。殴りかかろうと振り下ろした拳を打ち返すでも避けるでもなく、包むようにして手を取られてしまったような――――中手骨をなぞるように触れたセナの手は、柔らかくて優しく、温かかった。


「そうだ。入る楽団がないならうちへおいでよ」

「……へ?」

「そうだ、そうしよう。ね、いいでしょみんな」

「私は……別にいいと思うけど。ルイスは?」

「セナがいいというなら、私はそれに従うだけだ」


 飲んだくれのユリーカは眠りこけているのかソファの背もたれに突っ伏し「うーん」と唸ったが、それが「うん」の意味なのか「ううん」の意味なのかは誰にも分からない。


「ユリィは……まあいいや。賛成3人なら過半数だし」

「あの、でも。わたし魔奏士の才能がなくて……足手まといになりますし」

「大丈夫大丈夫。魔奏士にだって戦闘が苦手な子なんていくらでもいるよ。ね、クローディア?」

「……うっさい」

「サチに何ができるか、何が得意なのかはこれから見つければいいよ。これから一緒に、ゆっくり探していこう」


 サチから手を離し、セナはソファから立ち上がると改めて手を差し出した。


「無理強いはしないけど。私はサチにうちの楽団に来てほしいな」

「でも」

「言ったじゃない。私ってワガママなの。楽団に入ってほしいって言ってるんだからさ。従ってよ」


 強引な人だとサチは思った。だが、不思議と悪い気はしない。この強引さと人当たりの良さが、最強の楽団を率いるリーダーたる所以なのだろう。サチは立ち上がり、伸ばされたセナのその手を握った。

 自分に生きてくれという人間なんていない、そう思っていたのに。サチはセナの温かい手と柔らかな笑顔に自分のすべてを融かされるような気がした。


「よろしくね、サチ」

「よろしくおねが――――」


 幸せ。サチが確かにそれを感じたその瞬間。足元からグググと響いてくるような揺れがその部屋の面々を襲った。


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