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NIGHTMARE RAVENS  作者: 96500C/mol
Chapter 6. 手繋 -Stile Concertato-
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#1 反撃

「サチはボクのものだ。おまえたちになんか渡さない」


 力強く目を見開いている瓜花。

 否定できるものならやってみろ――――とでもいいたげである。睨みつける瓜花の突き刺すような視線に、クローディアは震えそうになる体に精一杯力を入れて答える。


「いい加減にして。サチは人間よ。あなたのものでも、私たちのものでもない。一人の人間なのよ!」

「ボクの邪魔をするなら殺す。本気だぞ。

 おまえたちはサチのために死んでもいいとでも言うのか。ボクに歯向かったら死ぬと分かっていても、おまえたちはボクに、サチを返せっていうのか!」

「誰かのために死んでもいいなんて、気安く言うものじゃないけど……私なら自信を持って言えるわ」クローディアの傍らに、『葬送曲』が顕現する。「私は、サチのためなら死んでもいい!」


 クローディアの言葉に、瓜花は右眉をピクリと震わせた。

 瓜花が天井に向けて手を上げると、4人を取り囲んでいた水の壁は急にその動きを止め、現れた水柱から瓜花の頭上に新たに生まれた巨大な水塊へと水が移動していく。


「そこまで言うなら……おまえの覚悟が本物か、試してやるよっ!」


 瓜花が掲げた手を振り下ろすと、巨大な水塊が4人の立つ場所に向かって降ってきた。

 その直径は二十メートルほどもある。この攻撃は避けられない、と判断したクローディアは『葬送曲』を盾にして一歩前へ進み出た。


「みんなは私の後ろにっ」


 水塊をクローディアが受け止めるが、その質量に押しつぶされるのに耐えるだけで精一杯であった。弾けるどころか押しつぶさんとする水塊に、クローディアは足を踏ん張る。


「ライラ、今のうちに!」

「おっけー!」


 ライラが『万物劈開』を正眼に構える。瞼を閉じ、静かに唸り声を上げたライラの体の表面を、琥珀色の光が覆っていく。世界を劈開する、ライラの最大最強の必殺技だ。


「何をする気か知らないけどッ!」


 水塊に向かって腕を伸ばし、パチンと指を弾く瓜花。

 それに合わせて、巨大な水塊は突然巨大な霧の塊に変化し爆裂した。


「くっ……!」

「わあああっ!」


 至近距離の水蒸気爆発に、クローディアはあえなく吹き飛ばされた。ヴェルナも、マハーレも爆発に巻き込まれ、3人は図書館1階ホールの壁に体を打ち付ける。唯一、詠唱の光で守護されたライラだけがまだその場に立っていた。


「その呪文……いや、(うた)……? なんだおまえは! 何故ボクの攻撃が効かない!

 その光、まさかボクの知らない魔奏だっていうつもりか!」


 瓜花は再度空中に水塊を生み出す。直径1メートルほどの水の塊に瓜花が手をかざすと、今度は水塊が凍り付き氷の塊になった。氷塊は手の動きに合わせて瓜花の頭上を旋回しながらどんどんと加速していき、その旋回半径を大きくしていく。

 いくらライラでもあんなものを受けたら無事では済まない。クローディアは節々が痛む体を無理やり起こし、へろへろの足をなんとか動かし再度ライラの前に立ち壁になった。


「言っただろ。ボクの魔奏は当たれば死ぬぞ」

「あなた何でも知ってるんでしょう。だったら私が死なないってことも知ってるんじゃないのかしら」


 クローディアは左手をかざして『葬送曲』を盾にした。右手はだらんと垂れ下がったままになっている。水蒸気爆発で吹き飛ばされたときに、腕の骨が折れてしまったのだ。クローディア本人は気づいていないが、壁に激突した際には頭を打って出血しており、額には血の流れた筋が走っている。着ている制服もボロボロ、満身創痍の体でクローディアはそこに立っていた。


「そうだったね。キミは死なないんだった。でも抵抗する気を挫くことは難しいことじゃない」


 瓜花が自分の周りを飛び回る氷塊に人差し指を向けると、氷の一部が外れて一本のつららになる。目にも留まらない速さで飛翔した一本のつららは、避ける間もなくクローディアの左脛に突き刺さった。

 バランスを崩し、膝をつくクローディア。痛みに耐えながら瓜花を見上げたクローディアが目にしたのは、瓜花が氷塊を無数のつららへと作り替えたところだった。

 クローディアは死なないのではなく、死んでも生き返るだけである。体を刺し貫かれる痛みや死に向かう苦しみまで無くなっているわけではない。全身をつららで貫かれるのは、想像を絶する痛みを彼女に与えるだろう。


「これで終わりだ」


 無数のつららの尖った先端がクローディアに照準を定めてピタリと止まる。

 クローディアは動かない足を投げ出し、床から上体だけを起こした状態で振り返り、ライラを見た。まだライラの気は練り上げ終わっていない。

 あと一分、いや、数十秒時間が稼げれば。クローディアはまた瓜花に向き直った。

 死ぬ。瓜花の操るあの数えきれないほどのつららが放たれれば、クローディアは避けることもできずに全身を刺し貫かれて死ぬだろう。

 だが、クローディアは微塵も恐怖を感じなかった。私はいくら死んでもいい。体を貫かれる痛みも火で焼かれる苦しみも、何度も経験してきた。それでも、仲間を失う心の痛みに比べれば大したことはない。


 だから壁になる。仲間を守る壁に。それが私の、唯一の存在意義だから――――瓜花が手を振り下ろす。無数のつららがクローディアに向かって飛んでくる。避けられない死を覚悟し、クローディアが瞼を閉じた、その瞬間のことであった――――


「イチかバチか、やってみるっ!」


 クローディアの前に、マハーレが仁王立ちしていた。


「マハーレ、逃げ――――」


 『葬送曲』の効果で生き返るクローディアとは違い、マハーレはここであのつららを刺されれば死んでしまう。それなのにクローディアの制止を聞かず、マハーレは胸に手を当て力強く歌を歌い始めた。

 マハーレの声に合わせるように、床から炎が噴き上がる。大きな舌のようにうねる炎はつららを舐めとってすべて融かし、マハーレとクローディアを守った。


「……できた!」


 五元素を自在に操る瓜花の魔法。だが、現実世界でそれを行う以上は何らかの法則に従っているはずであり、再現性があるはずである。


 すなわち、しかるべき方法を取れば、誰にでも同じように元素を自在に操ることが可能だ。マハーレは瓜花の魔法を、その場で真似して見せた。

 声の魔奏。これは魔奏器に頼らず魔奏を発動できるマハーレの特異体質だからこそ出来る芸当である。


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