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NIGHTMARE RAVENS  作者: 96500C/mol
Chapter 4.  妖精 -Erlkönig-
18/34

#2 問答

 ムツミは今日はエプロンをつけず、ロアノールの制服に身を包んだままの姿である。深々と頭を下げ、ゆっくりと顔を上げたムツミは、恭しく「決闘の勝利、おめでとうございます」と言った。


「え、だれ?」

「申し遅れました。私はハルクスス社製自律魔導人形、戦闘型モデル623でございます。製造番号は――――」

「ううん、そこまで自己紹介しなくても大丈夫ですムツミさん。ライラ、この子は前の『NIGHT RAVEN』にいたルイスさんの、妹さん」

「へー」

「後継モデルを『妹』と表現するのでしたら、それがもっとも相応しかろうと存じます」

「紹介しますね。この子はライラ。わたしたちの楽団の新メンバーです」

「ライラさま。決闘でのご活躍はユーレンお嬢様と拝見させて頂きました。実に見事なその背中の剣、そしてそれを振るう剛腕。お見それいたしました」

「いやー、褒められると照れますなぁ。えへへ」


 後頭部を掻くライラ。


「今日は一つ、先日の決闘の中で解せないことがあって参りました」

「なんですか?」

「サチさま。どうしてあなたはその魔奏器にこだわるのですか?」


 ムツミの表情には嫌味がない。

 おそらく、機械である彼女にはそういった機能は備わっていない。サチに問うたのは、ムツミが本当にその理由を知りたいからだろう。


「決闘の起こりはサチさまが魔奏器を学院に寄贈しなかったことが原因であるとユーレンお嬢様から聞いています。その魔奏器を寄贈していれば、無用な衝突は避けられたのではありませんか?」

「わたし、セナさんのやりたかったことを引き継ぎたいんです」

「セナ・カラスバのやりたかったことと、その魔奏器を所持し続けることにどのような関係があるのでしょうか? 魔奏器がなくとも、故人の遺志に出来うる限りで従うことは可能なのではありませんか?」

「そういうんじゃないんです。セナさんの遺志を継ぐってことは、魔奏器も受け継ぐってことだから」

「理解できません。

 私もモデル613、皆さまが『ルイス』と呼ぶ機体から魔奏器を託されました。ですが私はそのような武器を必要としません。私は魔奏器を学校に寄贈し、お嬢様もその選択を支持してくださいました。ですが……」

「ですが?」

「……気になったのです。決闘をお嬢様と観戦していて、なぜ皆さまは魔奏器の処遇にそこまでこだわるのだろうか、と。

 お嬢様にお伺いしましたが『人の心ってそういうものなのよ』と仰るだけで、答えを頂くことができませんでした。なので、お二人に聞けば何か分かるのではないかと考えたのですが。サチさまはなぜ、そこまでその魔奏器にこだわるのですか?」

「それは……」


 サチは腰から下げた『剣の舞』の柄に手をかけた。

 今、サチの手の中にあるセナの遺品。ロアノールに通う多くの学生が慕っていたというセナの遺品ならば、たとえヘアピンの一本でも、皆喉から手が出るほど欲しがるものだ。増してやセナが愛用し、多くの『血球』を屠ってきた魔奏器ならば言わずもがなである。その至高の逸品を手にしていることに、サチが優越感を感じていないといえばウソになるだろう。

 しかしそれ以上に、サチは『剣の舞』を手放したくない理由があった。


「……たぶんわたしには、これしかないからです」


 サチは空っぽであった。

 魔奏士になりたくとも才能に恵まれず、一度は人生に絶望し死のうとすらした。

 そんなサチが見出した希望の光は、セナの駆けてゆく影の向こうにあった。セナの追い求めた理想を自分も追いかけること以外、今のサチには何もないのだ。


「分かりません……モデル613は私に『人の心を知れ』と良く言っていました。私にも613と同型の思考システムが組み込まれているはずなのですが、私にはついぞ彼女の言う『心』を理解することはできませんでした」

「ムッちゃん」

「それは私に対する呼びかけですか?」

「そうよ。ウチはルイスさんに会ったこともないし、おたくがどんな悩みを持っとるかも知らんけど、なんとなくおたくに魔奏器を遺そうとした気持ちは分かる気がするのよ」

「理由をお聞かせ願えますか、ライラさま?」

「『なぜ魔奏器を遺そうと思ったのか』を、考えろゆーことやとウチは思う。誰かに教わったらあかん。おたくが自分で見つけなアカンよ」


 ライラはムツミに背中を向け、廊下を歩いていく。

 サチはムツミに別れを告げてライラを追いかけたが、ムツミはその場にしばらくぼうっと突っ立っていた。


 『なぜルイスはムツミに魔奏器を遺そうとしたのか』――――。ムツミがその理由に気づく日は、いつか来るのだろうか?

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