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NIGHTMARE RAVENS  作者: 96500C/mol
Chapter 3. 竜剣士 -Cleave Them ALL-
15/34

#4 初戦

 「Leviathan」のストゥーリ4姉妹が一斉に魔奏器を取り出す。白銀色のトランペットとトロンボーンが2本ずつ、見た目には普通の楽器だが、内部には空気中の水分を凝縮した水が詰まっており、吹くと噴射される水を自在に操作できる、四つ揃えの魔奏器『海の交響曲』である。

 両陣営が魔奏器を構えたところで部屋の内装が変化を始める。空間に満ちた光が凝集し、サチたちの周囲の環境をあの遊覧船のデッキの上へと変化させた。


「作戦通りね」

「はい」耳打ちをしてきたクローディアに、サチも小さな声で答える。


 本来、決闘のステージは両者の希望環境を矛盾のないように繋ぎ合わせて作られる。「Leviathan」が海上を希望したのに対し、サチたち「NIGHT RAVEN」は屋外を希望した。その結果この、湖上遊覧船のデッキがライブラリから選択されているのだが、これはすべてクローディアの作戦であった。

 決闘のステージが「いつもの場所」になるよう、クローディアは事前にライブラリに遊覧船のデッキを登録し、サチたちはこの場で幾度も訓練を繰り返していたのだ。

 当然、遊覧船のデッキにはサチたちに有利となるようなギミックは存在しない。だが、毎日のように訓練に使った場所はもはやホームグラウンドのようなものである。戦闘に慣れていないサチやライラにとって、いつもの場所で戦えるのはそれだけで緊張が和らぎ、実力を発揮しやすくなるのだ。


「ライラ、お願い」

「おっけー、任せい」


 詠唱を始めるライラ。その体に淡く光を纏ったライラの前に、サチとクローディアは躍り出た。

 攻撃向きでない魔奏器を持つクローディアと、いまだ『剣の舞』の性能を十二分に引き出せてはいないサチ。この場で最も有効な攻撃ができるのはライラである。しかしライラの攻撃は威力は凄まじいがその魔力消費もまた凄まじい。勝負は一瞬で決まる――――ライラの一撃を、確実に相手に叩き込む。それには「チャージ中は隙になる」と誤認させ、接近戦を挑ませるのが最も容易である。


 四姉妹が演奏を始める。発せられる音がこの空間のエーテルに作用し、魔奏器の先端から放出された水が、鋭い水流となってライラに襲い掛かった。

 サチはそれを『剣の舞』で切り払って防ぐ。一瞬一瞬ごとに変化する水流を切り払って魔奏を発動するのはサチにはまだ難しい。『剣の舞』の奏でる音が、不協和音となって響く。


「何よ、その無様な魔奏は。セナならそんな不快な音を奏でたりはしなかったわ」

「くっ」


 アレクシアはライラからサチへと狙いを変えた。

 ひときわ巨大な水塊がアレクシアのトロンボーンから放出され、サチへ向かって真っすぐ襲い掛かってくる。サチがそれを切り払おうとすると、突然水塊は爆発し、その衝撃と急速に広がった蒸気でサチは吹っ飛ばされ、遊覧船の縁まで転がった。


「サッちゃん!」

「ドロテア、手を貸して」

「うん」


 アレクシアが末妹とともに隊列を離れ、サチの前に立つ。

 サチはなんとか立ち上がり、『剣の舞』を構える。だがその切っ先は微かに震えていた。

 恐怖、あるいは絶望。自分の力不足を強く印象付けられ、サチは震えた。


「その魔奏器はアナタが持つべきものではないわ。セナなら、きっと私たち四人を倒すのなんて1分もかからない」

「…………」サチは何も言い返せない。

「あなたが無様に戦えば戦うほど、あなたにそれを遺したセナの名誉が傷つく」何も答えないサチに、アレクシアは冷たく言い放った。「これ以上セナの名誉を傷つけるようなことはやめて頂戴」


 強張っていたサチの体から力が抜ける。

 意識が遠のく。まるで、魂が背中から抜け落ちてしまうかのような感覚。

 深い絶望、その苦しみから逃れたいという気持ちが、サチの心を支配する。


「でも……!」


 だが、サチは大きく息を吐いて『剣の舞』を握り直した。

 強く。絶対に手放したくないという想いを込めて。


「セナさんはくれたんです……! 魔奏士になる才能が少しもなくて絶望してたわたしに、生きる目的を。

 この『剣の舞』で、セナさんのやり遂げられなかったことを、やり遂げることを!」

「出来てないじゃない。この二週間、あなたは一体でも『血球』を倒したのかしら? セナを殺した『魔女の臓物』に仇を討ったのかしら?」

「それは……!」

「セナの遺志を継ぎたいと思っている子は、あなただけじゃない。ロアノールの誰もがセナを慕い、セナに憧れていた。

 あなたにその代わりが務まるはずがない」


 アレクシアとドロテアが魔奏器を吹く。サチは攻撃を防ごうと身構えたが、先ほどの攻撃とは違い、魔奏器から水流が発射されなかった。


「……?」

「サチ、後ろよ!」


 クローディアが叫ぶ。

 サチが振り返る。と、そこには湖面から噴き上がった3本の水柱が立っていた。

 決闘のステージにストゥーリ四姉妹は水上戦を希望した――――サチはその意味を理解した。魔奏器『海の交響曲』は水を操る魔奏を使える。その適用範囲は魔奏器自身から放たれる水流だけではない。エーテルに干渉できさえすれば、外部の水すらも自由自在なのだ。

 三つ首の蛇のようにサチに襲い掛かる湖面からの水流。サチはその攻撃を避けるので精一杯だった。


「うわぁ!」


 水流の一本が、跳び上がったサチの背中に打ち付けられる。デッキにドスンとたたきつけられるサチ、そこへトドメを差そうと次の水流が襲い掛かる。

 サチは寸前でデッキを転がって避けたが、さっきまでサチが転がっていた場所に水流が突き刺さり、デッキに大きな穴が開いた。

 その瞬間。


「サッちゃん、伏せてっ!」


 ライラの声が響く。魔奏を練り上げ終えた合図だ。


「天乱濠波――」

「させないわよ!」


 水流を魔奏器の先端に固定し刃へと作り変えたストゥーリ四姉妹の残り二人、ビバリーとセシリアがライラに飛び掛かる。立ちふさがったクローディアを斬りつけた二人だったが、クローディアは倒れもせず二人の首を両手で掴んだ。


「あ、あなた何を……!」

「逃がさないわよ」


 ライラの放つただならぬ魔奏の波動に、その場にいた全員が硬直した。


「――『天地払暁斬』ッ!」


 ライラの剣が振りぬかれる。

 大きく、ライラの周りに輪を描くように。水平に広がった剣圧は真っ白な光を纏い、世界を上下に分断していった。


 クローディアが。ストゥーリ四姉妹が。サチが。


 天地を劈開する光に、世界のすべてが飲み込まれていく。

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