#3 対立
決闘の当日。サチたちは訓練施設の中にいた。室内にはまだシミュレータが起動しておらず、何もないただ広い空間が広がっているだけだ。そしてサチの目の前には「Leviathan」のメンバーが並んで、じっとサチをにらみつけている。
ちょうど同じころ、食堂に設営された訓練場の室内を映す遠隔投影設備の前で、観戦する生徒たちはざわついていた。
あの新生「NIGHT RAVEN」が3人になっている――――10日前、食堂でサチがライラを勧誘するのを目撃していた者すら、ライラの楽団入りは何かの冗談だろうと思っていた。だがライラは確かにサチの隣に立ち「Leviathan」のメンバーと対峙している。
「あなた、留学生のトロイライト・カルミナリア・ベルーシュよね」
「Leviathan」のリーダー、アレクシア・ストゥーリがライラに語り掛ける。
「いいのかしら、そんな人たちに肩入れなんかして」
「経緯は聞いとるよ」ライラは軽く答える。「おたくら、サッちゃんの魔奏器が欲しいんけ」
「ええ、そうよ」
サブリーダーのビバリー・ストゥーリが答える。
「Leviathan」はストゥーリ4姉妹によるカルテット楽団である。姉妹は暗い紫色の髪で、色白なビバリーを除いて日に焼けており、身長はまちまちなものの皆よく顔立ちが似ている。
「この聖ロアノール音楽学院において、セナ・カラスバを慕わない者はいなかったわ。その感情が親愛にしろ敵視にしろ、セナは私たちロアノールに通うすべての学生にとって、一人の同窓生以上の存在だった。
そのセナの魔奏器は、誰か一人のものになっていいようなものではないの」
「魔奏器を誰に託すのかは、セナの遺言に従った結果よ」クローディアが反論する。
「どうだかね」アレクシアが反論を一笑に付す。「遺言だなんて、貴女が勝手に言っているだけじゃないの、『死神』さん?」
クローディアは目を伏せた。
「私たちが勝ったら、セナの魔奏器は渡してもらうわ」
「うぅ」すごむアレクシアとビバリーにサチは怯んだ。
「おたくらの話聞いて、こっちも腹ァ決めましたわ」サチの代わりにライラが答える。「ウチはサッちゃんに味方させてもらいます。セナさんの魔奏器は渡さん」
「その子に味方することがどういう意味か分かっているのかしら、ライラさん? 今やロアノールに通う誰もが、その子から魔奏器を取り返すことに賛同しているのよ。
『NIGHT RAVEN』に加勢するということは、つまりこの学院内で孤立するってこと」
「一つ聞いてええか? その『ロアノールに通う誰もが』って、具体的に誰のことなん?」
「全生徒よ。疑うなら聞いてみなさいな、あなたたちに味方する生徒がどれだけいるのか」
「嘘はあきませんなあアレクシアはん、全生徒だなんて。だって、ここに3人もおるやないですか。魔奏器を渡したくない人が」
ライラが「万物劈開」を固定していたベルトを外す。鞘ごと落ちたそれが、ドスンと鈍い音を立てて床に突き刺さった。その迫力に遠隔視界を見ていた食堂の生徒たちも慄いて言葉を失っていた。
「お母ちゃん良く言うとった。『真の強さとは、己の正義と信念以外に対して膝を曲げないことだ』って。
何百人、何千人に間違っとる言われようと、ウチが正しい思うたことを曲げないんが、本当の強さなんやって」
ライラが鞘を外す。刀身の長い「万物劈開」は鞘から抜くことができない。収める鞘は二つ割りで、刃を挟むように覆っているだけだ。
「おたくらとサッちゃん、どっちが正しいかなんてウチには分からん。でも、人数を集めただけで正義面しとるおたくらと、自分の信念で魔奏器を守っとるサッちゃんクロちゃん。ウチが味方するんは、断然こっちや」
剣を正眼に構えるライラ。
「万物劈開」の切っ先に光が反射する。その先端はまっすぐアレクシアに向けられていた。
「我が名はトロイライト・カルミナリア・ベルーシュ! 熾竜の子、竜剣士トロイライト! 我こそ正義という者は、この竜の剣に挑むがいい!」
サチも『剣の舞』を鞘から抜く。
昨日までの特訓では向かい合っていたライラが、隣で同じ方向を向いて立っている。それだけでもサチにとっては心強かった。
「姉さん、あんなこと言われたわ」不敵に笑うビバリー。
「そうね。生意気な3年生にはお灸を据えてあげましょう」
そういうアレクシアの眉間には、深い皺ができた。




