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NIGHTMARE RAVENS  作者: 96500C/mol
Chapter 2. 葬送曲 -REQUIEM (Unfinished)-
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#4 兵士

 はぁ、と大きくため息をついてから、ユーレンは上品な物腰で語り出す。


「確かに613は貴重なデータを提供してくれました。人間の感情を理解する自律魔導人形。その学習データはあの623にもインストールされていますの。あの『NIGHT RAVEN』に所属して、人間の中で暮らしていたお陰です」


 ムツミの受け答えは、機械らしい堅苦しい感じはあるものの自然で丁寧である。だがルイスの人と見紛うような自然な会話とは、やはりまだ違いがあるようにサチには思えた。


「宣伝効果も高うございました。国からの援助もたくさん受けられまして、623には613の3倍の開発資金をかけることができまして。ですがハッキリ言って613、あの子は失敗作です」


 サチがむっとした表情になったその時、ムツミは二杯の紅茶を入れて戻ってきた。カップの一つはユーレンに、もう一つはサチに手渡される。しかしサチは紅茶を口にせず、すぐ横の書き物机の上に置いた。


「最近のあの子は狂っていました。623を『人間らしく育てたい』なんて言い出して、無理やり同じ部屋で暮らすようにしたり。

 623がヘンな学習をしないか、ずっとひやひやしていましたもの」

「人間らしく成長することが、いけないことなんですか?」

「何を仰りますの、当たり前です。

 自律魔導人形は人間よりも頑丈で精密。さらに人間なら致命傷になるようなダメージを受けても、パーツを取り換えるだけだから修理は簡単。人間的に成長なんてしたら、いつか人間に取って代わってしまう。

 兵器は兵器、人間は人間。きっちりと線引きしておかなければ、いつか大変なことになるでしょう」


 角砂糖を2つ溶かした紅茶を、ユーレンは優雅に啜る。


「それにね、あの『死神』さん」

「……クローディアさんのことですか」

「ええ、そう。聞けばあの人、死なないそうじゃありません? なのに『NIGHT RAVEN』じゃ裏方の仕事ばっかりさせていたんでしょう。セナさんのことは尊敬していたけれど、人を見る目はなかったようですわね、あの人は」

「そんなこと……っ!」


 反論しかけたサチを制止するように、ユーレンは言葉を繋ぐ。


「いいかしら? 人には得意不得意がありますの。それぞれに出来ることは違って、それを最大限生かすのが組織というもの。いくら破壊されても替えの利く自律魔導人形は、人間を守る盾として最も相応しい。それはあの『死神』さんも同じじゃないかしら。死なない人間なら、最前線を張ってもらうのが一番だと私は考えますわ」

「……クローディアさんに、仲間のために盾になって死ねっていうんですか」


 サチは握った拳に爪が食い込むのを感じた。


「何、怒っていますの?」

「当たり前です! 軽々しく『盾になれ』だなんて……!」

「軽々しく死ねるならそうするべきだわ。ねえ623、あなたもそうでしょう?」

「はい、仰る通りでございますお嬢様。私は自律魔導人形、人を守るためならば修復不能の損傷を受けることをも厭いません」

「そんな、そんなの……!」


 ユーレンは飲みかけの紅茶を机に置く。


「三年生の貴女じゃご存知ないかもしれませんけど。楽団の活動はね、決して和気藹々としたクラブ活動ではないのよ。

 これは『戦争』。人類を食らう『魔女の臓物』とそれに抗う人類の、生き残りをかけた生存戦争。そして魔奏器を振るう(わたくし)たち魔奏士は『兵士』なのよ。人間的な感情は、戦地において判断を鈍らせる」


 再び紅茶を手に取り、優雅に啜るユーレン。サチは、頭を揺さぶられるような感覚に陥って動くことができなかった。

 サチのポケットの中で、二つの指輪が擦れて消え入るような音を立てた。


 セナとユリーカの結婚指輪である。

 人間的な感情は判断を鈍らせる――――セナは配偶者のユリーカを『臓物』に殺されたことに激昂し、『臓物』と戦って死んだ。


 自らの死を招いたその判断は正しかったのだろうか。

 後からでは何とでも言えるが、あのままセナとルイスが協力して戦っていれば、ユリーカ一人の死で『臓物』を倒せていた可能性はある。


 だが、それを認めることはサチにはどうしてもできなかった。

 ユリーカを殺されて自分を見失ったセナを否定することは、セナという人間そのもの――――彼女の強さだけではない、サチが触れて感じた、セナの持つ優しさや温かさのすべてを否定することのように、サチには思えてならなかったからだ。


「聞けば、もう他の楽団があの『死神』さんを引き取りたいって名乗りを上げているそうじゃありません?」

「……えっ?」

「聞いてないのかしら? まあわたくしなら絶対に同じ楽団に居たくはないですけれど。貴女、どうしてあの人が『死神』なんて呼ばれているか、ご存知?」

「いえ、聞いたこともないです」

「あの人のいる楽団はね、『血球』と戦って全滅するジンクスがあるの。そうよね、623」

「はい、お嬢様。クローディア・クランフィールドは聖ロアノール音楽学院に入学して以来7つの楽団に所属していましたが、その全てが『血球』との戦闘で彼女以外全員死亡、もしくはメンバーが治療不可能の障害を負って楽団を解散しています」

「そ、そんな……」

「貴女もあまりあの人には肩入れしないほうが宜しいと思いますわ。でないと、あなたもいずれあの人のせいで死ぬことになる」


 気づくと、サチは1314号室を飛び出していた。

 持って帰れと言われた『1812年』を部屋に放置したまま、サチは保健室へと駆け出す。


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