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透明な翼の罠


体育の授業中だった。

佐藤悠真はジャンプの着地で、右足首をぐねった。

激しい痛みに耐えきれず、その場に崩れ落ちた。


翌日、彼は地元の病院に入院した。

工業高校の天才として知られる悠真は、数学と物理でずば抜けた才能を持っていた。

だが、家計は火の車。帝国技術先端大学への夢は遠い。


病院のベッドから見る天井は、彼の未来のように閉ざされていた。

自由を奪われた身体の代わりに、彼は「自由に動ける」超小型ドローンを秘密裏に開発していた。


退屈な病室で、悠真はそのドローンを操り、看護師たちの動きを観察した。

そして、ある日、不意に目がいったのは、彼女たちの制服のスカートの中だった。


「これなら、簡単に撮れるかもしれない」


そう呟き、彼はドローンをスカートの中に忍ばせた。


病院内で、ナースたちの間にざわめきが広がった。

「最近、なんだか変な視線を感じるの」

「仕事中にスカートの中を見られている気がする」


氷川颯真は、偶然にもその話を耳にした。

研修医の立場から、最初は軽く受け流した。

しかし、看護師長から直接相談を受け、事態の深刻さに気づいた。


「私たちのプライバシーが侵されている。どうにかしてほしい」


氷川は、院内に設置された防犯カメラの映像を確認し始めた。

だが、超小型ドローンの動きはカメラの死角を巧みに突いていた。


「……普通の監視では追えないな」


調査を進めるうち、氷川はドローンの操縦パターンに見覚えのある技術的特徴を見つけた。


「これは……まさか、高校生の仕業か?」


氷川は病院のセキュリティ記録と院内Wi-Fiの通信ログを精査した。

超小型ドローンの操縦に使われたと思われる無線信号の発信源を特定するためだ。


数日間の解析の末、無線信号は近隣の工業高校に集中していることが判明した。

そこで氷川は、工業高校の情報を調べ、ある一人の生徒の名が浮かび上がった。


佐藤悠真——数学と物理に卓越した才能を持つが、家計が苦しく、帝国技術先端大学への進学を志す高校三年生だ。


氷川は病院と工業高校の協力を得て、佐藤に面談を申し込んだ。

彼は冷静で、どこか影のある少年だった。


「君がドローンを使って……?」


佐藤は沈黙した後、ぽつりと呟いた。


「学費を稼ぐためだったんです。工業高校の同級生相手じゃ、売れるものも限られていて……」


「だから、病院で……?」


「……はい。ナースのスカートの中を盗撮して、それを闇サイトで売ろうと思っていました」


氷川は彼の目をじっと見つめた。


「君の才能は、こんなことに使うべきじゃない」


佐藤は俯き、涙を流した。


氷川は佐藤を病院の静かな面談室に連れて行った。

目の前に座る少年は、冷静な表情の中に焦りと迷いが混じっている。


「君は、なぜここまで追い込まれた?」


氷川の問いに佐藤は少し躊躇しながら答えた。


「家が貧乏で、大学に行くには学費が足りなかった。才能を活かすための道は遠く、焦りが募った」


「確かに状況は厳しい。だが、君がやったことは許されない。ナースたちのプライバシーは守られるべきだ」


氷川は深く息を吐き、続けた。


「だが、君の将来はまだ閉ざされていない。君の才能は無限だ。罪を償い、再出発することはできる」


「どうすれば……」


佐藤は震える声で聞いた。


「まずは、被害者である看護師たちに謝罪し、示談を成立させることだ。私も協力しよう」


氷川の言葉に、佐藤の瞳に微かな希望が灯った


氷川は病院内で被害に遭った看護師たちと面会を重ねた。

彼女たちは初め、怒りと恐怖に満ちていたが、氷川の誠実な対応に徐々に心を開いていった。


「佐藤君はまだ若く、未来がある。許すということが、彼の再出発を支えることになるかもしれません」


そう氷川は丁寧に説明した。だが、示談金の問題が大きな壁だった。


「賠償金の額は500万円ほどです。彼の家計では到底払えません」


氷川はその場で決断した。


「私が一時的に立て替えます。佐藤君が将来、きちんと返済していく約束をすればいい」


看護師たちは驚きつつも、その提案を受け入れた。


示談は無事成立し、佐藤は罪を償う形で社会復帰を目指すことになった。


氷川は、未来を信じて微笑んだ。


「くだらないことに巻き込まれたが、君には世界を変える力がある。必ず立ち直れ」


佐藤は力強く頷き、静かに涙を流した。


エピローグ 未来への翼


数ヶ月後、佐藤悠真は工業高校を卒業し、帝国技術先端大学への入学を果たしていた。

学費の負担は依然として重いが、彼の瞳には確かな希望が宿っている。


氷川颯真は、病院の救急外来で新たな患者を迎えていた。

日々の医療の現場は、相変わらず騒がしく、厳しい。


だが、彼の胸には佐藤の未来への祈りがあった。


「くだらない罠に落ちても、飛べる者はいる。

君はその翼を、どこまでも広げてほしい」


夜の病院の窓から見上げる空は、蒼く澄んでいた。


新たな物語は、もう始まっている。


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