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星間航路の小話

天使の独白

作者: 水縹

太陽系の外に人類は進出しているのだと聞いてはいても、本当の意味で信じていなかったのだと今ならわかる。


彼はその日地球圏のラグランジュポイントの衛星都市のメンテナンスからの帰りだった。


「あ、天使様!おつかれさまです」


「・・・おつかれさまです」


〈天使様〉名前から付いたであろうこの呼び名は正直好きではない。


ガブリエル・ミハエル・ラファエル・ミューズ。


ガブリエルだけでも大天使なのに、ミドルネームにミハエルとラファエルまで追加する必要がなぜあった。


加えてラストがミューズなど、芸術の9人の女神だ。


1人の名前に12人の存在は多すぎるだろう。


シルバーブロンドにブルーグレーの瞳、肩幅も上背もあり、顔立ちは男性的に整っているが、子供の頃はそれは可愛らしかった。


産まれた時は、相当可愛かったのではないかと推測は出来るが、両親が数年前に亡くなってしまった今はこの天使欲張りセットの名前の由来など知りようもない。


「玉兎でなにかあった?いつもと空気違うような」


「わかります?実は、外宇宙から本当に宇宙船が来たんですよ。多分、地球観光に」


「外宇宙?!本当?!」


「本当」


外宇宙からの見たことのない宇宙船が来た。


太陽系地球滞在許可証初めて見た。


地球に観光に行った。


雰囲気がなんか違う。


少し浮足立つ空気がターミナルのあちこちから、そんな噂が広がっていた。


居住衛星の環境メンテナンスを進んで引き受ける彼が、本事務所に居ることは稀だ。


1週間ほどは出張予定もないので、報告書を纏めていると、肩を叩かれた。


「天使サマ〜、聞いた?」


「何を?」


同じ部署に勤めるこの同僚の男は、はいつも嫌な感じで絡んでくる。


「宇宙人はこの世のものとは思えない、煌めく光のような美しさなんだって」


「ホントかどうか確かめにいかないって話」


成長期が来て今では間違えられようもない男らしさのある容貌だが、10代前半くらいまでは性別を間違えられたこともしばしばある可愛い系だった。


この同僚どもは同じ月面都市生まれで、当時勘違いし初恋を奪われたと逆恨みをしている。


可愛い天使に恋したのに、厳つい男になったのが許せないらしい。


迷惑な話だ。


しかし、その内容には興味があった。


「どこに居るんだ?」


「ターミナルのラウンジに入ったらしい。おっ、美しさ勝負行く?」


いちいち付き合っていられないが、話の内容にはスルーで行けばいい。


ターミナルのラウンジは地球が見える。


中に入れば、淡い金髪の人物が居た。


「あれだ」


「声、かけるぞ」


ひそひそ同僚達が騒いでいると、不意にその人物の雰囲気が変わった。


立ち上がった身体のラインは細く、背が高い。


身動ぎして肩から滑る長めの髪、ゆっくりとこちらを視る淡い金色の髪に縁取られた白皙の美貌。


潤う琥珀の瞳にこちら射抜く。


ただ美しかった。


「なにか?」


微笑んでいるのがさえ定かでないが、まるで視覚と聴覚で脳をぶん殴ってくるようだ。


いや、そうなのだろう。


単なる面喰いの野郎どもに居られると都合が悪いので、頬を染めて固まった同僚2人を、ペイっと外に放り出す。


彼は真実、外宇宙から来た人間だった。


出張で行く衛星メンテナンスの仕事は嫌いではない。


外宇宙の衛星環境の技術は地球圏とは全く違うと少し教えてもらっただけでもわかる。


行ってみたい。


そう希望すればあっさりといい方向に話が進んだ。


「まぁ。俺の見た目に惑わされない人は信用してる」


鏡を見慣れている人は、普通に話ができるのも嬉しい。


それはわかる。


心機一転、いっそのこと天使を2つここに置いていこう。


ガブリエル・ミューズ。


スッキリしてよいのでは?


張り切って辞表と、引っ越し、手続を明日の朝までに済ませなければ。

〈後日の雑談〉


「ルイは同性に初恋を奪われたとか、可愛いあの子を返せとか子供の頃の知り合いに言われること無いのか?」


「無い。変質者は老弱男女問わなかったが、性別を間違えられたことはいちども無い」


「・・・そうか・・・変質者?」


「確かにルイは超美少年!って感じだった」


「型崩れなしで研磨してる感じ」



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