5 隙無き演舞
その一撃は一瞬、茂みの中にめり込むはするものの、何かによって弾かれる。
魔物が手応えにあっけにとられたその一瞬、茂みの中から飛び出た何かが、魔物の脇腹に突き刺さる。
それは穂先から柄までが鈍く光る一本の槍。
のけぞり、悶える怪物。
槍を手に身を起こして茂みから現れたのは黒い鎧の人物。
鎧の人物は更なる突きを繰り出そうと槍を引き抜こうとするが、その腕が途中で止まる。
見ると怪物が自らの脇腹に突き刺さった槍をつかんでいる。
怪物は歪んだ顔をさらに喜悦で歪ませながら右腕を振り上げ、手にした棍棒を相手の脳天めがけて振り下ろしてくる!
しかし、鎧の人物は寸前で槍から手を離し、背後に飛び退く!
と同時に手を腰に伸ばし、そこに下げていた剣を引き抜き、一閃!
あがる絶叫!
怪物はたった今獲物が立っていた場所目掛けて振り下ろした腕の肘から下を失い、黒い霧が吹き出る右腕を抑えながら悶絶する。
下げた兜のひさしの隙間から見える目に一瞬哀れみが混じるが、一瞬後には手にした剣を怪物めがけて横薙ぎに振り抜く。
黒い霧を吹き上げながら崩れ落ちる魔物。
鎧の人物は倒れた魔物から空いた左手で槍を引き抜くが、そこに草を踏みしめ、茂みをかき分けて迫る足音が背後から近づいてくる。
怪物は鎧の人物に振り返る間も与えず棍棒を振り上げる!
だが、鎧の人物は振り返ることなく左手に持つ槍の石突き、すなわち穂先とは逆の先端部で背後から襲った怪物の腹を突く。
予想外の反撃に棍棒を取り落とし、腹を抱えてよろめく魔物。
そして、次にその怪物が見たのは自分に向かって迫る銀色に光る刃だった。
黒い霧となって消えていく怪物を見下ろした鎧の人物は一息つくと下げていた兜のひさしを上げる。
「さすがです、アルザー」
駆けつけたビアトロの言葉に鎧の人物、アルザーは肩をすくめる。
「連戦は堪えたがね」
「済まない」
アクレイが謝意を述べるがアルザーは微笑を浮かべる。
「気にしなくていい、アクレイはまだ冒険者としては駆け出しなのだからな」
そう言うとアルザーは茂みの中に隠してあった弓を取り上げると、その弦の張りを確認しながらそう言うとビアトロは、
「ええ、あなたが残りを引き付けてくれたおかげです。予想外の相手がいましたが」
そのビアトロの言葉にアルザーの手が止まる。