3 精霊術
自由を得た二人は、弾かれたかのようにその場から駆け出し、その一瞬後には怪物が振り上げた棍棒が振り下ろされる。
大地をえぐり、弾けた土草が宙に巻き上がる。
獲物を見失った怪物が辺りを見渡す。
だが、そのわずかな隙にアクレイは間合いに踏み込み、怪物の脇腹に刃を突き入れる。
刀身の中程まで突き入れると素早く引き抜き、続けざまに左足を軸に一回転して再び踏み込み、横薙ぎの一閃!
深々と刻まれる斬撃の裂傷。吹き出る黒い霧。
その黒い霧から逃れるかのようにアクレイは再び後ろに飛び退く。
一方、苦しみ、悶えながらも怪物は報復の一撃を与えようと男の方へと足を踏み出そうとするが、そこであえなく崩れ落ちる。
「まだです!」
眼前の脅威を排除し、アクレイは気を抜きそうになっていたが、その竪琴を奏でながらのビアトロの言葉で我に返ると、もう一体の怪物に向かって駆け出す。
木人形は味方が倒されたのを悟り、きびすを返して逃げ出そうとする。
と、ビアトロが奏でている旋律の曲調が変化する。
軽快な響きから一転した、重く聴き手の不安を掻き立てる旋律。
すると逃げを打った木人形の前に紅く輝く炎の壁が現れ、行く手を阻む。
迫る男、手にした剣の刃もほのかに紅く輝くがアクレイはそれに気づかず剣を振りかぶる。
深々と食い込む刃。伝わる手応え。
しかし、その手応えは先程とは異なり、相手の見た目通り木を斬りつけたような手ごたえ。
男が剣を引き抜くと支えを失った怪物は、よろめきながらその場に崩れ落ち、その体はみるみる黒い霧と化して霧散し、刃に宿った輝きも消える。
「アクレイ、アルザーと合流しましょう」
「ああ」
竪琴を収め、失った剣を回収したビアトロにそう言われたアクレイはうなずき、きびすを返そうとしてふと気づく。
黒い霧と化して消えた怪物が倒れた所に、きらりと輝くなにかがある事に。
アクレイは一瞬迷ったものの、手を伸ばし拾い上げる。
それは丁寧な装飾が施された銀色に輝く首飾り。
アクレイはそれを腰に帯びた革袋の中に突っ込むとビアトロの後を追う。