29 遠き日の思い出
恐れおののくその顔を一瞥すると、刃を寝かせ背後に向かって振るう!
響き渡る衝撃音、アクレイの剣は相手にすんでのところで受け止められていた。
相手の顔に浮かぶ焦り、
だがアクレイは表情を変えることなくさらに身を捻り、不安定な体勢で剣を受けた相手に体当たりを食らわせる。
吹き飛ばされた相手は地面に転がるとうめき声をあげ、動かなくなる。
「どうした?もう終わりか」
アクレイはだらりと剣を下げたまま視線をあげると、距離をとって包囲している戦士達にそう問いかける。
戦士達は一様に戸惑っていた。
アクレイが完全によそ見をしていた隙だらけのところを狙ったにも関わらず、手も足も出ず打ちのめされたのだから。
アクレイが一歩踏み出す、と周囲は二歩下がる。
「これだと訓練にならないんだが?」
「う…」
「なら…こちらからいくぞ」
そう言うとアクレイはゆっくりと歩み始める。
「ど、どうする?」
「よそ見をしている隙に一斉にかかってもだめだったんだぞ!」
「こうなったら破れかぶれだ!」
「よし!」
戦士達は一斉に別れて全員でアクレイを囲む。
剣を構えた大勢の相手に包囲されながらもアクレイは動じない。
それどころか、その様子から彼は傭兵時代を思い出し、懐かしんでいた。
村を焼いた敵を探して戦場をがむしゃらに生き抜いてきたあの日々、
あの頃はひたすら目の前を向いていた。
もはや剣を交えた相手や共に戦場をかけた戦友の顔すらおぼろげである。
覚えているのは彼を拾い、剣や傭兵としての心得を教えてくれた傭兵部隊の隊長であったスクードの顔。
しかし、その彼も…
ふと気づきアクレイは周りを見渡す。
周りには剣を失い、あるいは倒れて身を起こそうとしている戦士達の姿があった。
手にした剣に残る微かな手応えとおぼろ気に残る次々に襲いかかってきた戦士達の記憶。




