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135 密かなる同乗者

「そう言っていただけますか」


控えめに笑みを浮かべるビアトロにエレニは再びうなずく。


「我らは見ての通り旅芸人、町を巡り人々に娯楽を見せるのが生業。それ故に人を見る目には長けております。あなたもそうではありませんか?」


そういうとエラレニアはビアトロを探るような目で見る。


「……そうですと自惚れるほどではありませんが、人並み以上ではあるだろうなとは思っております」


ビアトロの答えにエラレニアは満足気にうなずく。


「私も同じですよ、故に裏切られることもある。しかし、容易には人を見限りはしません」


そう言ったエレニの横顔をビアトロは見る。


そこには多くのものを見てきた者が持つ特有の達観した眼差しを見る。


ビアトロはふと思う。いつか自分もこの人のようになるのだろうか、と。


その後も何事もなく、日が傾く頃、彼らは無事スカータ・マレ・スタへとたどり着く。


「では我々はここで」


「うむ、お主らにシムリー神の加護を」


「あなた方にもシムリー神の加護を」


そう言ってビアトロたちは、ポーレス一座の馬車に背を向け、街の雑踏へと消えていく。


夕日に照らされる街中、往来の中へと去っていくビアトロ達の背中を視線で追いながらエレニは御者台に座ったまま呟く。


「行かなくていいのかね、今ならまだ追い付けるよ」


誰もいない、荷物だけしか見えないはずの幌付きの荷台に向かって彼はつぶやく。


そこには誰もいない、だから返事はない……はずなのだが、彼は構わず言葉を続ける。


「……そうかい、まあ、それもいいさ。なら、わたしらと共に行くかね」


短い沈黙の後、エレニがつぶやいたその言葉が荷台の奥に届くとそこから何かが動く音がする。


その音を聞いたエレニは口元に小さく笑みを浮かべる。


「それなら……名前を変えないといけないな」


エラレニアはまるで誰かに語りかけるかのように、あるいはとりとめのない独り言のように言葉を続ける。


「そうさ、わたしらは皆そう。哀しき過去、忌まわしき過去を捨て、新しい生き方を選んだ者達」


そういうとエレニは御者台から腰を上げる。


「まあ、ゆっくり考えればいい。そうさな……次の町につくまでに決めてくれればいい」


答えは最後までなかった。


だがエラレニアは満足したかのような笑みを浮かべると馬車から降り、旅の仲間たちと今夜の宿とこの街での興業についての打ち合わせを始める。

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