117 舞い降り、地を揺らす巨体
「来るぞ!」
目的地を目指し、森の中をしばらく駆けているとアルザーが突然叫ぶ。
とっさに空を見上げる一同。
緑が茂る木々、その枝の合間から見える青空に一瞬、何かがよぎった次の瞬間!
森の中を突風が吹き抜け、森の木々が激しく揺さぶられる。
「くっ、逃げ回るしかないのか」
身を隠した木の陰から飛び去った竜を見送りながらルアンスは悔しげに呻く。
上空の驚異におののきながらビアトロたちは森を抜け、見通しのよい緩やかな坂になっている平原を駆けた一同は川を背にして散開する。
「来るぞ!」
アルザーの言葉を聞いた彼らは空を見上げる。
空を自在に飛び回っていた小さな点がやがて一点に止まると、徐々に大きくなってくる。
そして小さな点に見えた竜の輪郭が再びはっきりしてくる。
竜ははじめ翼を畳んでいたが、やがて翼を大きく広げ、ゆっくりと羽ばたかせながら舞い降りてくる。
竜が降りてくると翼の羽ばたきで再び暴風が巻き起こり、彼らは吹き付けてくる大風を盾を構え、あるいは外套を翻して耐え凌ぐ。
そして起こる地響き。
川を背にするビアトロらは森を背にする竜を見上げる。
「こ、これで成体でないだと……」
改めて至近距離で竜を見上げたルアンスは圧倒される。
「……ええい!ままよ!」
ルアンスは、兜のひさしをおろし、手にした戦斧槍を振り回すと、竜めがけて駆け出す。
それに対し竜は様子見か、動く素振りを見せない。
「やああっ!」
掛け声とともにルアンスは突進し、槍を繰り出す!
だが、竜はその一撃を鱗で覆われた前足で受け止める!
鋭く硬い音が川原に響く。
「うぬっ!」
「鱗の隙間を狙え!」
「簡単に言ってくれる!」
アルザーの助言に舌打ちしながらルアンスは突きを連続で繰り出す。
しかし竜は右の前足を器用に動かし、それをことごとく鱗の部分で受け止める!
「ちっ」
しばしの後、息切れしたか、槍を構えたまま後ろに飛び退いて下がるルアンス。
そこをめがけて竜が攻める。前足をさらに一歩踏み出すと反対の腕の爪を振り上かざしてルアンスを薙ぎ払う!
草原に鈍い音が響き、ルアンスが地面に転がる。
「ルアンス!」
「くっ!」
よろめきながら槍を支えにしてなんとか身を起こすルアンス。




