11 カシュクス教
ややあって、
「あのさ、わたし教会のことよく知らないんだけど」
おずおずとやや小声でラトが誰とはなしに聞いてくる。
「カシュクス教のことか?」
「うん」
「ふむ、ラトはどのくらい知っているんだ?」
アルザーに問われたラトはしばし、考え込んでいたがやおら口を開く。
「えっと、カシュクス教ってこの大陸で広く信仰されていた一神教の宗教で、元々は南方で興った一新興宗教に過ぎなかったけど、ソーレ・チェアーノ帝国による弾圧を受けてもその教えを捨てず、ついには帝国自体が国教として認めたんだよね?」
「ええ。しかし帝国の権威を得たカシュクス教は次第に力を増し、他の神々を信仰することを認めず、弾圧し始めました」
ビアトロの言葉にラトがうなずく。
「お父さんから聞いたことある。子供の頃は息苦しかったって」
「だが、真の問題は彼らの中にありました。長い年月を経るにつれて彼らの祭事には変化が生じ、彼らは自身も気づかぬうちに彼らが奉じていたのとは別の神を信仰するようになりはじめた」
「それが時神ファルテスなんだね」
「ああ。天上で神々との戦いに敗れたファルテスは力を回復するためにカシュクス教徒の信仰心を自分に向けることを思いついたのだろう」
アルザーの言葉にビアトロがうなずく。
「いつしかカシュクス教徒は彼らが信じていた唯一の神ではなく、ファルテス神を信仰するようになり、ファルテスのしもべとして帝国を支配するようになったと言われています。
スタフィ王国を始めとした帝国の支配下にあった属国領内では反乱が相次ぎましたが、帝国はファルテスの力を使って人外の怪物を生み出し、それを加えた軍団を送り込んだのです」
ビアトロの説明にうなずくラト。
「ファルテスの尖兵、ファルダーだね」
「はい。それまで一進一退だった反乱勢力との戦いは、魔物が生み出されてから帝国側が圧倒的となりました。
帝国の軍勢はこの大陸の西に向かって攻め込み、多くの町や村が占領されました」
「だが、大陸で帝国と戦う人々が立てこもった旧スタフィ王国のグラナ・ラテリア領、スカータ・マレ・スタまで帝国の軍勢が迫ったとき、奇跡が起きた」




